CAFC判決:自認先行技術による無効?
久しぶりに連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決を紹介したいと思います。
今回の事件は2022年2月1日付のQualcomm Inc. v. Apple Inc.です。
【争点:Issue】
出願人自身が認めた先行技術(Applicant Admitted Prior Art:APPA)は、当事者系レビュー手続(Inter Partes Review:IPR)における無効理由の根拠とすることができるのか。
【関連条文:Rule】
IPRについて規定する米国特許法第311条(b)(35 U.S.C. § 311(b))には、以下のように記載されています。
(b)Scope.—
A petitioner in an inter partes review may request to cancel as unpatentable 1 or more claims of a patent only on a ground that could be raised under section 102 or 103 and only on the basis of prior art consisting of patents or printed publications.
「当事者系レビューの請願人は、第102条または第103条から生じる理由のみにつき、特許又は印刷刊行物から構成される先行技術のみに基づき、特許に係る1つ以上の請求項の取り消しを求めることができる。」(太字は著者)。
少し補足しますと、第102条は新規性欠如に基づく無効理由であり、要するに、同じ発明が過去にあるので特許になりません、というものです。第103条は非自明性欠如による無効理由であり、過去に同じ発明はないけれど、過去の発明に基づいて簡単に思いつくレベルのものだから特許になりません、というものです。
311条(b)に記載される通り、IPR手続において無効理由の証拠として使用できるのは「特許又は印刷刊行物」に限定されるのですが、本件では、対象特許の出願書類(明細書)中における「●●は先行技術である(あるいは、既知である等)」という記載(出願人自認先行技術:AAPA)が、上記311条(b)の「特許又は印刷刊行物」に含まれるのか、という点が争いになりました。
【結論:Conclusion】
CAFCは、311条(b)の文言上、AAPAは311条(b)に記載の「特許又は印刷刊行物」ではなく、よってIPR手続における理由の”基礎(the basis)”とすることはできない、と結論付け、特許権者Qualcommの主張を支持しました。
結果、CAFCはAAPAを根拠として本件特許の特許性を否定した原審(PTAB)の判断は違法であるとし、改めて(AAPA抜きで)特許性が否定されるのか審理し直すよう、審決を差し戻しました。
【個人的見解】
この争点、これまでも論点として話題には上がっており、両方の意見があったのですが、個人的にはCAFCの判断通りかな、と思っています。
先ず、AAPAの記載というのは(直接アピールしたい自分の発明に関する記載ではないため)具体性に欠けるものも多く、そもそも先行技術文献として扱うのは難しいのでは、と感じます。
また、仮に記載が具体的であっても、それを証明する他の刊行物がないのであれば、それは出願人が勝手に過去のものとして語っているだけなので、「先行」技術と断ずるだけの根拠がないと思います。本当に先行技術なのであれば、AAPAに頼らずとも先行文献が提示できるはずなので、AAPAに頼っている点で根拠が怪しいのでは、という気がしてしまいます。
なお、AAPAが根拠として使えないのはIPR手続に限られるため、別の無効手続であるPGRや、特許になる前の審査段階では除外されません。あまり多くはないですが、私もAAPAを先行技術とする拒絶理由を受けたことがあります(私が書いた明細書ではなかったので、なんて余計なことを書いてくれたんだと、心の中で悪態をついた・・・かもしれません)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?