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Pick up CAFC判決(2021.10)

久しぶりに、アメリカの知財に関する判決のご紹介です。
アメリカの最高裁は年間のスケジュールがきっちりと分けられており、判決を言い渡すのは5月~6月のみなので、この時期は新しい最高裁判決はありません。代わりといっては何ですが、今日はCAFC(連邦巡回区控訴裁判所)の判決を3つほど簡単にご紹介したいと思います。

In re Surgisil, LLP, No. 2020-1940 (Fed. Cir. October 4, 2021).

本件は、Surgisil社の出願した意匠の登録性を争ったものです。

まず、特許庁の審査および審判手続において、特許庁の審査官・審判官は、SurgiSil社の出願した"Lip Implant"に係る意匠が、先行文献に係るStumpの意匠に鑑み新規性がないとして登録を拒絶しました(下図参照)。

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意匠は「外観(デザイン)」を保護するものなので、二つの外観を単純に比較すると似ているな、とも言えそうですが、CAFCは、技術分野が明らかに違うとして特許庁の判断を否定しました。

不勉強のため、私も実際にはどういうものなのかよくわからないのですが、SurgiSil社のHPによれば、"Lip Implant"とは、唇の整形手術に使われるインプラント(歯でおなじみだと思います)のようです。
一方、先行文献のStumpとは、製造元のBlick社のHPなどを見る限り、絵を描くときに使う道具のようです。確かに、明らかに分野が違いますね。
いくら外観が同じようなものだとしても、全く関係ない分野のものを根拠として意匠登録を拒絶するのは妥当とはいえないので、CAFCの判断はもっともかな、と感じます。

CosmoKey Solutions GmbH & Co. KG v. Duo Security LLC, No. 20-2043 (Fed. Cir. Oct. 4, 2021).

こちらは特許適格性(米国特許法101条)が争われた事件です。

特許適格性の判決は2014年の最高裁判決(Alice事件)で一区切りついた感じもあり、その後は類似事件による最高裁への上訴がことごとく却下されているので、最近は目新しさがない感じもしていましたが、今回の事件は判断ステップの点でちょっと変わった切り口を提案しているのが興味深いです。

ご存じの方も多いと思いますが、Alice最高裁判決では、特許適格性の判断要素として2つのステップが導入されました(なお、審査基準MPEPでは、下図の通りこの2つのステップをStep 2A, Step 2Bとして記しています)。

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Step One(Step2A)は、権利を請求するクレームの主題が”abstrast idea(抽象的概念)”かを判断するもので、これが肯定される(特許適格性が否定される)と、Step Two(Step 2B)に移り、クレームに記載される他の要素によって(例外的に)発明性が認められるか、という判断がされます(なお、この辺の判断にはもっと細かい基準がありますので、機会があれば別途紹介したいと思います)。

上記の通り、特許適格性を判断するためには、まずStep Oneが判断され、Step Oneの判断では特許適格性が認められない場合に限りStep Twoに移ってさらなる判断がされる、という手順になっています。

ところが、本事件においてCAFCはStep Oneについての議論を省略し、Step Twoで特許適格性が認められるからOKと結論付け増した。

結果的に、特許適格性アリとした判断は全体的に支持されているようですが、判断手順を省略して良いのか?というのは大いに疑問が残るところです。実際、一人の判事が一部反対意見を出しており、Step Oneの判断であれば特許適格性が認められるものの、Step Twoでは基準を満たさないような発明があった場合、その適切な保護を図れなくなる、と警鐘を鳴らしています。
なんだか、結論ありきの判決だったのか?と疑いたくなってしまいますね。

Traxcell Techs., LLC v. Sprint Commc’ns Co., Case Nos. 20-1852, -1854 (Fed. Cir. Oct. 12, 2021).
Traxcell Techs., LLC v. Nokia Sols. & Networks Oy, Case Nos. 20-1440, -1443 (Fed. Cir. Oct. 12, 2021).

本日最後の事件は、機能的なクレーム(Means Plus Function (MPF) Claim。米国特許法112条(f)項)に関する特許権侵害事件です。

結論として、特許権者による侵害の訴えは退けられたのですが、MPFクレームに基づく権利侵害を訴える場合、特許製品と被疑侵害品とが、①同じ機能を有していること、②実質的に同一の処理を実行していること、③実質的に同一の結果を得ていること、を原告(特許権者)側が証明しなければなりません。

今回の事件では、②の点における特許権者による立証が不十分であるとして侵害が否定されました。

今回の特許発明は無線通信を用いた自己最適化ネットワークに関する技術だったのですが、こういった技術ではコンピュータ内部でどのような処理がされているかを直接視認することができないため、「②同一の処理が行われている」を立証するのが困難だという指摘は昔からされているのですが、今回はその壁を越えられなかったのかなと思います(実情はわからないので、単に立証責任を甘くみていた、という可能性もあります)。

特許を取得する際には、こうした「権利行使のし易さ」というものも想定して書類を作成しますが、「権利化のし易さ」と「権利行使のし易さ」は両立しないことも多いのでバランスが難しいところです。


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