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PrejectRCL ZET REQUIEM:NOVELIZED 02-ヴァルハラ 小説本文パート
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PROJECT RCL ZET REQUIEM:NOVELIZED
第2章:ヴァルハラ
●文:Hi-GO!
●執筆補佐:めたるす/ゾンリー/らいおね
●挿絵:Hi-GO!/補欠/ててん/トナミカンジ
▼冊子版の通販▼
※冊子版限定で『キャラクターデザイン資料』や『用語解説』
『ゲストイラスト』等のコンテンツが付属します。
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※前作の第1章はこちらになります。先にお読み頂く事を推奨いたします。
キャラクター紹介
▼シエル
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▼ブロッサム・シエル
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▼オメガ・シエル
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▼アルエット
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▼パッシィ
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▼ペロケ
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▼イロンデル
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▼ロゼ
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▼グレイシア
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▼ウェクト
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▼リバース・ナイツ
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▼ゼットルーパー
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▼ネージュ
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▼ラファール
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▼ダイン
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▼グレイシス
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こちらは
【PROJECT RCL ZET REQUIEM:NOVELIZED 02-ヴァルハラ】
の小説本文パートのみの記事になります。
挿絵はグレースケールから挿冊子版共にフルカラーとなりました。(2023/12)
『キャラクターデザイン資料』や『用語解説』『ゲストイラスト』等は冊子版のみのコンテンツとなりますのでご了承お願いいたします。
※note限定のコンテンツとして『あとがきコーナー』が付属します。
※EXからカットしたシーンの追加に加え、加筆修正と挿絵の追加を行っております。(EXの同パート部分に対し、約2倍での追加となります。+新規挿絵:9枚)
※誤字、誤表記、ご編集やご感想などお気づきの点が御座いましたら是非下記お問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。
【データの閲覧に関する諸注意】
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FILE:Ⅰ
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ある日突然、ゼロ・リバースと呼ばれる謎の組織からエリア・ゼロへの強襲を受けたシエルたちガーディアン一行。飛空挺『ガーディアンベース』で命からがら脱出した後、船体をレーダーから隠せる空域にてひとまずの安堵を得ていた。
その船内にてシエルはロゼと交戦した際に斬られた右腕をペロケに修復してもらっているところである。
「シエルさん、腕の方、調子はいかがですか……?」
元レジスタンスの一員にして、シエルの助手でもあった彼は、現在はガーディアンの科学者として活躍している。今回の襲撃では突然の事に無我夢中で逃げながらも運よくガーディアンベースに合流できていた。
「ありがとうペロケ。斬られた時はどうなるかと思ったけど、お陰さまで元通りよ……。こういう時、つくづく機械の体でよかったと本当に思うわ……」
シエルは白衣を着込むと、安堵しながら返事を返した。
基本的に物事に意欲的で優秀な彼だが、レプリロイドであるにも関わらず瓶底メガネを掛けている。機体そのものか制御系ソフトウェアの問題かは不明だが、いずれにせよ目が悪く、本人の申し出もないまま人手不足も相まって今日まで特に修理や検査もされず、そのままであったりする。
「恐縮です、セルヴォさんならもっと手際よく対処してくれたと思うのですが……あいにく旧レジスタンスベースも連絡がつかない状況でして」
セルヴォはレジスタンス時代からシエルを父親のようにサポートしてくれていたメカニックだ。紅き英雄に数々の武器を提供し、いつもサポートに徹してくれていた。今は旧レジスタンスベースに残り、治安維持のための装備を整えている最中である。
「それよりも、連れ去られたアルエットとパッシィが心配だわ……よりによってウェクトが裏切るなんて……」
「わたくしもビックリです……内側からの行動は流石にノーマークでした……。なにしろ、ウェクトさんの日頃の献身からは想像も付かない行いでしたので、皆その場で固まってしまいました」
新参者にもかかわらず、それほどまでにウェクトという科学者はガーディアンのメンバーから信頼を寄せられていたということだ。現にリバースメタルやガーディアンベースの配備がここまで早く実現したのはウェクトの功績あってのことである。
「私の至らなさが招いた結果よ……結局エリア・ゼロも占拠されてしまって今はどうすることもできないもの……」
「そんな、シエルさん………」
滅多に見せない弱気なシエルを前に、普段はおしゃべりなはずが思わず沈黙してしまうペロケだった。
そこに通信機からのアラート音が響く。
「あっ、どうやらゼロ・リバースからの広域中継が開始された模様です……!」
「急いで中継を開いて! あ、回線の逆探知には気を付けてね」
◆SCENE2
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通信回線が接続されると、まさにロゼの演説が始まる瞬間だった。
「我が名は剣帝ロゼ! あの紅き英雄の映し身である!」
時折拳を握りしめながら身振り手振りで熱く語り始めるロゼ。その勢いは止まらなかった。
「この通信を見ている諸君らに問う!」
「今の世は、かつて世界を救った彼の英雄に誇れるような有り様か? 我々残された者達は慢心していないか?」
「過去にすがるアルカディアの残党に始まり、右を見ればレプリロイドの弾圧! 左を見れば人類への反抗! それを選ばなかったとして略奪に手を染める者! 安全圏に引きこもり、僅かな自然と資源を独占し、傍観者としてのうのうと過ごす者共!」
「故に我は立ち上がった! 彼の代弁者として! 彼の後継者として! 諸君の意思を受け止める『鞘』とそれを貫く『剣』を手にして!」
「そもそも我らは『正しさの奴隷』である! 今までの歴史でそうではなかった瞬間があったであろうか? いや、ありえない! この世の全ては自らよかれと思い、積み重ねた行為の結果でしかない!」
「そして! かつて『彼』は全てを『力』によって解決してきた! ならば『力』によって正しさが証明されれば、すなわち我らの存在もまた、必然のものとされよう!」
「同様に、諸君らも自らの正しさを我に対して証明したいとあれば、我が空中要塞『ヴァルハラ』にて盛大に歓迎しよう!」
「諸君らもまた、『正しさの奴隷』なのだから!」
画面の前の人々に向けて強く指差すと彼は一呼吸おいた。
「ではここに、正しさの証明として我らは『世界の再生』を始めよう。『ゼロ・リバース』の名の元にその称号をついだ者として!」
「手始めに過去の幻影にすがる者達を駆逐し、その温床であるエリア・ゼロを制圧した! 我は影ではなく『それ』そのものである!」
「なればこそ! 古き幻想に取りつかれた者共には鉄槌を下し、次なる未来への礎として潔く散って頂く次第である!」
「この『再生』が成就された暁には世界に平穏と安定をもたらすことを約束しよう!」
「そして我が軍勢はいつでも同士を待っている! 来たれヴァルハラへ! 人類とレプリロイドの再生のために!」
「セイブ・ザ・リバース!《再生による救済を!》諸君らの進む先に明るい未来をッ!」
大仰に左右に大きく手を広げながらロゼは叫んだ。それと同時に歓声が上がり、演説は熱気の中で一旦止むこととなった。
◆SCENE3
「こんなふざけた演説をして、何を考えているのかしら……そもそも『彼』とは大違い……というか、あまりにも芝居がかり過ぎているわ……」
「なんていうかいかにも絵に描いたような英雄って感じですね~」
「そうね、まるで伝聞で作り上げられた英雄像そのものだわ……」
2人はロゼの振る舞いの不自然さと共に、何かしら引っ掛かるものを感じ取っていた。それはかつて紅き英雄と共にした時間があるからこそ浮き彫りになるものであったが、そっくりではなく違いすぎるという点こそが最大の疑問だった。
なぜそうする必要があったのか。答えを出すにはとにかく情報が足りておらず、見たままの光景を頼りに探るしかない。
「それにしても、空中要塞のヴァルハラからは動かないというか、まるで攻め込まれるのを待っているようにも感じたわ」
ロゼからすれば、今の時代にこの規模の軍事力を保持する組織が存在しないという自負があるからこそ微動だにしないのだろうが、それでも違和感はぬぐえなかった。敵対……というよりも、同志が集まることを見越してなのか、または別のねらいがあるのだろうか。
「確かに変ですねぇ……あっ! 演説が再開されましたよ!」
◆SCENE4
中継に目を戻すと、ロゼは不適な笑みを浮かべながら口を開いた。
「さて、言葉だけでは足りないことは承知の上だ。ひとつ、ここでデモンストレーションをさせて頂こう……このヴァルハラの主砲『ピュシス・レイ』の力をご覧になっていただく!」
そう言い終わると、映像が切り替わり、空中要塞ヴァルハラの下部に装着された茎のような形をした主砲が輝き始める。その先にはネオ・アルカディア残党の集落が姿を見せていた。
「手始めにそうだな……ネオ・アルカディア残党の諸君、かの事変以降、度々治安を乱す君達にはそろそろ退場願いたい。残念だが阻止する手段も、時間もあるまい……なにより、もはや誰1人と後ろ楯なき君達を庇おうとする者もいはしないだろうが……」
ロゼの指が鳴ると、主砲の砲頭に位置する緑色のクリスタルにエネルギーが収束し、眩い光を放ち始める。
「ではさらばだ。破壊神たるこの私自らが鉄槌を下すのだ。生半可なものではないぞ……」
途端に辺り一面が碧白い輝きに包まれた。
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続いて激しい衝撃と轟音が響いたかと思うと、徐々に主砲が放たれた先の地表の様子が明らかになっていく。そこには存在したはずの施設や住居が跡形もなく消滅し、衝撃でえぐられたかに見えた地面が隆起しているといった異様な光景が広がっていた。
暫くして映像が戻ると、再びロゼが口を開く。
「ご覧頂けただろうか……? 『愚者には鉄槌を!』というのは簡単だが、単なる破壊では世界の再生には程遠い。そのため、この『ピュシス・レイ』には直撃した対象の分解と再構築の機能が備わっている……つまりはサイバーエルフの技術の応用だ。見たまえ、ネオ・アルカディア残党の跡地は見事な土壌汚染からの回復を見せている……! データ上でも確認可能だ」
時間が経過するにつれ、なんと隆起した大地一面には、言葉通りの再生と追悼を現すかのように彼岸花が咲き誇りはじめた。
「かように、我がヴァルハラは『再生』の光を有している。単なる破壊とは異なり、環境を回復させることが本分だ。レプリロイドも朽ちた建造物も母なる大地へと還すことが可能である!」
「そして、原則人間には手出しはしない。命の保証もさせて頂く。エリア・ゼロでは今まで通り人間の受け入れを行う次第だ……」
「それでは今回は以上だ。諸君らの判断に期待する……!」
◆SCENE5
ロゼの演説を見守っていたシエルとペロケであったが、流石の事態に困惑を隠せなかった。
「この威力と効果……普通じゃないわ……サイバーエルフの中でもトップクラスの空間干渉能力がなければ不可能な領域……」
「しかしそんな力を持つサイバーエルフは限られています……!」
「心当たりが一つだけあるわ。最近全くレーダーにも反応がなくなった『マザーエルフ』……彼女ならばこのクラスの力を引き出すことが可能なはずよ……」
マザーエルフは現存するサイバーエルフの中でも最大級の能力を持つ。過去にその影響を世界全土に及ぼし、その最大の活躍の場となった妖精戦争当時は猛威をふるったウイルスにより暴走。イレギュラー化していくレプリロイドに対して、ある種の同様の効果で先んじて洗脳……つまりは広域コントロールという離れ業をみせ、ウイルスを無効化することで戦争を終結に導いた。
しかし、その能力はあくまで一端であり、まだ未知に包まれている。今回のような使われ方をしてもおかしくないということだ。
「そんなまさか……! あのマザーエルフを簡単に捕獲できるわけありませんし、仮にしたところで制御するのも困難なはず……」
「……ウェクトなら……ウェクトならできるはずよ……彼の持っている知識や技術はどう考えても妖精戦争時代由来のものに裏打ちされたとしか思えないレベルだもの……」
「仮にそうだとして、彼はやつらに味方する理由があるのでしょうか? いよいよ事態を飲み込めなくなって参りました……」
「全くわからないわ……ただ、彼にとってそれは望ましいことで、何かしらメリットがあるということ……」
考えても仕方のないことだが、並外れた知識と技術を持つウェクトは、単に力を貸していた訳ではなく、何かしらの目的をもって接触を図ってきたということだ。もしかしたらゼロ・リバースですら利用されているのかもしれない。そんな予感がシエルの胸をよぎる。
「それにしても、ロゼはあまりにも芝居がかっているというか、過剰に演出しているように思えるわ……まるでわざとのような……」
「それはわたくしも思いました。我々の知っているあの方とはかなり違うといいますか……こう、ステレオタイプな英雄のイメージに当てはまりすぎていると感じますね……」
「ペロケ、あなたもそう思う……? 私はなんとなくだけど、彼がそう演じなければいけない理由があるのかもと思ったわ……」
ふと、シエルに過去の記憶が蘇る……
「――――やっぱりあなた、あの伝説の、ゼロなのね?」
「――――ゼロ‥? オレの名前‥か」
「――――オレがその、ゼロじゃなかったらどうする?」
「――――ふふっ、私にとっては、あなたはもうゼロなのよ」
そして、自らを振り返った。
(かつて私は『彼』に英雄であることを求めたわ……それはきっと、ゼロ・リバースの人達と何も変わらない)
(何より世界に再び『彼』を目覚めさせたのも、幼い私が偏った知識で『偽りの蒼き英雄』を産み出してしまったから……)
(そして今の私は私で、『彼』の力をまだ求めている。そこにどれだけの差があるのかしら……そして、それは……許されることなのかしら……)
「シエルさん! イロンデルさんから秘匿回線での通信です!」
追憶を打ち切るようにペロケが叫んだ。
「イロンデルから? ということはベースのみんなは無事なのね!」
「はい、旧レジスタンスベースはゼロ・リバースの進軍からはまだ免れていた模様です。ただ、彼らによる広域のジャミングによって今、地上は分断されているといってよい状況のようです……あっ、イロンデルさんに繋ぎますね」
イロンデルは長髪長身が特徴の主に情報を扱った分野の活動に長けた元レジスタンスメンバー。今はガーディアンの諜報員として、各地を飛び回っていたのだが、今回はたまたま旧レジスタンスベースに居合わせたため、こうして緊急時の連絡を取ってきたのだろう。
「やぁ、シエル! 元気かい? ゼロ・リバースについて、ちょっと気になる情報を掴んだからキミにも報告しておきたいと思ってね」
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「イロンデル! 無事で何よりよ……続きをお願い……!」
「では、さっそく。エリア・ゼロについてなんだけど、ゼロ・リバースによって封鎖はされているものの、エリア内の活動は自由。警備に関しては、彼らの放った兵士達が配備されて以前より厳しくなっているんだけど、むしろそれによって安全になっているそうなんだ。これは他のエリアも同じ様子だね……」
「そんな……以前より治安が良くなっているというの……?」
「それだけじゃない、襲撃に見せかけて起こしたあの火災、実はサイバーエルフによるホロ・エフェクトによる偽装だったんだ。更には発火地点も、住民の避難誘導を兼ねて練られていたようなんだ。だから植物や住民はほぼ無傷で、シエル達が見ていたサクラもホロによる炎上だったみたいだね……」
「そう、結果的に負傷者はあなたを除けばゼロになるわ」
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突如、イロンデルからの通信が切れ、女性の声が響いた。
「ネージュ!」
「ごめん、割り込んじゃった。許して――って、大体はもうイロンデルが話してくれたみたいだけど……シエルが心配でね……」
「ありがとう、と言いたいところだけれど、流石にいきなりね……いつものことといえばそうだけど、元気そうで安心したわ」
「まあ、なんとかね。昔から運だけはいいみたい。しかしヤツらは敵ながら見事ね。被害を最小限に抑えた見事な侵略と統治と言わざるを得ないもの。というか、そもそも敵なのかしら……」
「そうね。実際、逃げ遅れた住民達を保護しつつ元の住居に住まわせ、配備兵により外敵を牽制して、更にはヴァルハラによる攻撃でネオ・アルカディア残党への対処まで……住人からしたら外的な脅威が減ったといえるわ……」
「そう……私がガーディアンでやろうとしていたことが、こんな短期間に実現されたのね……」
「まあ確かにそうなんだけどさ、性急すぎる変化は軋轢を生むんじゃないかしら。実際ヤツらを止めないとまずいのは明らかだし。シエルはそこらへん、じっくり時間をかけるタイプなんだからさ、落ち込むことはないよ」
そこへいくつかの回線が接続された音が鳴り響いた。
「さて、そろそろ方々の準備も整ったかな。シエル、ここからは反撃開始よ……! ちゃんと自分の足元みて一歩ずつ進みましょ!」
◆SCENE6
「……と、いうわけで今から他のエリアも交えたゼロ・リバースへの緊急対策会議を開きたいと思います。今回は各エリアの連合チーム結成ということで、進行はわたくしネージュが務めさせて頂きます。それでは各自、手短に自己紹介しつつ、報告があればお願い」
ネージュのはからいで、分断されていた各エリアの代表による、ゼロ・リバースへの対策会議が行われる手はずとなった。もっとも、通信妨害のジャミングが地上に敷かれた今、この会議もいつまで続けられるかはわからない。
「それではさっそく。ガーディアン司令官のシエルです。現状我々の拠点のエリア・ゼロは彼らの手に落ちましたが、奪還のためにはまずヴァルハラの攻略……特にピュシス・レイのこれ以上の使用はなんとしても回避するのが急務であると考えています」
「やぁみなさん。こちら旧レジスタンスかつ現ガーディアンの諜報担当のイロンデルだ。情報不足は仕方ないけど、まずはあのやっかいなヴァルハラについて知っておきたいところだね!」
「こちら、エリア・ヴィーザルのラファール。人間の集落の代表だ。シエルさん、バイル事変の時はキャラバンが世話になったな。ヴァルハラについてはこちらが知りたいくらいだ」
ラファールはかつてバイル事変の折にネオ・アルカディアから逃げ出した人間のキャラバンのリーダーで、緑の短髪に右頬の傷が特徴的な男性だ。そしてシエル達と共にエリア・ゼロを守り、発展させてきた同胞でもある。今は人間の集落を別途開拓中だ。
「私はエリア・ヘーニルのダインです。こちらはレプリロイド中心の集落で、昔はパンテオンとして戦線に駆り出されておりました。ドクターシエル、今さら詫びれることではないですが、かつてあなたをかの地まで追い詰めた1人です。ご容赦頂きたい……」
「それは、もう済んだことだわ……お互い大切なヒトを沢山失くしたわね。それより今は先のことを考えましょう……!」
「お心遣い痛み入ります……我々も今回の自体は静観できないものとして対処にあたっております」
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「なあ、話をぶったぎって悪いんだが、あのロゼってヤツは一体なんなんだ? まるで『あいつ』にそっくりじゃないか……! その上もっともらしいことを言いやがる……」
「……!」
ラファールによって唐突に切り出され、最も触れたくない、考えたくない話題がシエルの思考を硬直させた。
「確かに確認した限り、声も容姿も瓜二つです。確か『彼』は帰還されなかったと伺っておりますが、ご本人という可能性は……?」
あえて思考から除外していた可能性をダインは指摘した。もちろん本人であることを否定する材料や根拠は殆どない。しかし、目で見たり、データではとらえられないものがある。シエルはそれを伝えようとした。
「……おそらく違うと思うわ。直接話して戦ったからとしかいいようがないけれど、私には少なくとも同一人物とは思えなかったわ……太刀筋のそれは本人かそれ以上と思えるレベルだったけど……」
「根拠はなしか……ま、ずっと『あいつ』の側にいた上で科学者のあんたが言うんだからそれ自体が根拠なのかもな」
「刃を交える、というのは実のところ話すより余程互いのことを伺い知れるのは否定いたしません。姿形ではなく、その存在の在り方が異なる、という現象は我々アルカディアにいた者が一番思いしらされた過ちそのものですので、お考えは尊重いたします」
「はいはい、そろそろ話を戻していい? 誰かヴァルハラについて情報持ってるヒトはいない?」
話が脱線しかけたところをネージュが戻しに入った。
「あぁ申し訳ない……現在わがエリア・ヘーニルの数少ない人間のメンバーが旧アルカディアのデータベースを洗い出している最中で、詳しくは彼女からお伝えいたします」
ダインによって画面が切り替わると、どこか見覚えのある黒髪の少女が映し出された。
「グレイシス、と申します。以前はネオ・アルカディアにて八審官のサポートを担当していた人間です。現在はエリア・ヘーニルにて、ダインの補佐を務めさせて頂いております」
「あなた……どこかで……」
思わずシエルから言葉が漏れ出た。
かすかにあの白い剣士の少女の面影を感じたからだ。更に名前も瓜二つのため、内心動揺していた。
「……?」
気づくとシエルは無意識にグレイシスの顔を見つめていたが、視線に気づいた彼女は不思議そうな顔をしたため、シエルもばつの悪そうに目線を逸らす。
「ごめんなさい。どうぞ続けて……」
「それでは、ヴァルハラについての報告ですが、かつてドクターバイルがレプリロイドの再生技術の研究に用いていた施設のひとつだったようです。そして、元々はネオ・アルカディアの移動型環境再生装置として配備されておりました」
すかさずイロンデルが挟み込む。
「つまり、今はその本来の用途で運用しているってことかな?」
「その認識で構いません。もっとも、出力は本来のものとは大幅に異なりますゆえ、その範囲や効果は先ほどみなさんがご覧になったものですら、どの程度のレベルなのか判断がつかない状態です」
「破壊は可能かしら?」
ストレートにシエルは問う。
「現実的に考えて、外部からの攻撃で有効なものは今の地上には存在しません。よって、内部から破壊する他ないと思われます」
「内部っていっても……ジャミングで転送はできないし、飛空挺も非武装のものが大半だし、あそこまで辿り着けるのかどうか……」
グレイシスの意見に対し、ラファールが首をかしげる。
「残念ながらヴァルハラには外敵に備えた対空兵装が存在します。特に単機での突破はまず不可能といってよいでしょう」
「すると、複数で撹乱しつつ、一機でも辿り着くことができれば展望はあるかもしれませんね」
ダインが冷静に述べる。
「その場合、四方から飛空挺で同時に強行突破すれば弾幕が分散し、辿り着ける確率は上がると見込めます。問題はどれだけの精鋭を内部に送り込めるかですので、メンバーの選定の必要があります」
「仮に潜入できたとして、どのように破壊すればいいのかしら?」
再びシエルが尋ねる。
「ヴァルハラは円形に配置された8つのブロックからなる構造で、中央シャフトで全て接続し、コントロールされています。いわゆる花のような形状ですね。問題のピュシス・レイは、この中央シャフトに存在します。逆にいえば各ブロックは対空兵装と稼働に必要なエネルギーの生成と循環が兵器としての主な役割です」
![](https://assets.st-note.com/img/1702923805439-9Fo3MnMC3X.png?width=800)
「うーん……なら、各ブロックを破壊すれば、とりあえずピュシス・レイは撃てなくなる感じかな? 問題は破壊したらヴァルハラ自体のエネルギー源も途絶えるわけだから、要塞自体を支える浮力も無くなって地上へ落下するのは確実ってことだよね……」
イロンデルが再び挟み込む。
「確かに、各ブロックの破壊自体は動力炉に爆弾を設置し、タイミングを合わせて起爆することで、比較的少数による実行が可能です。問題は、各ブロックは確実に警護されている可能性があることと、設置後は中央シャフトへ逃げ込む必要があるということです。緊急の脱出装置もそこに備えられているようなので」
「中央シャフトへのルートは限られているのか? 図面を見る限りだと、どのブロックからも繋がっているようにみえるんだが」
ラファールが確認する。
「はい、実際のところ、中央シャフトと各ブロックは通路は繋がってはいるものの、潜入した時点で封鎖される可能性が高いです。そのため、爆破の前にルートを確保する必要があります」
「なるほど、潜入チームのおおよその役割が見えてきましたね。各ブロックの制圧、爆弾の設置、中央シャフトへのルート確保」
ダインが簡潔にまとめあげる。
「陽動も欲しいな」
ラファールが提案すると、イロンデルが口を挟む。
「なら、逃げ慣れた元レジスタンスのメンバーが適任だろうね!」
「ブロックの制圧はどうする?」
「私が、やります」
再びラファールが口を開くと、シエルが即答した。
「確かに、単体の戦力差を考えるとそれしかなさそうです」
グレイシスがそう答えると皆頷いた。
「しかし、襲撃時のデータでゼロ・リバースの勢力に光学、実弾共に銃は殆ど効かない事も判明したわ。防弾に優れた装甲と光学エネルギーを減衰させる装置の組み合わせで近接戦闘に持ち込む以外撃破は難しい……その点を踏まえて準備をお願いしたいの」
「それはありがたい情報です。銃は牽制程度にしかならない前提で、罠や地形を利用した戦略に切り替えたほうがよさそうですね」
ダインは早速、装備の手配を仲間に指示しているようだ。
「銃が効かない時点で人間にはお手上げだな。殺されないだろうが、足手まといも避けたい。それから爆弾の設置はどうする?」
「では、爆弾の設置は我々ヘーニルのメンバーが。怪我の功名ではありますが、こういった工作には慣れておりますので……」
ラファールの問いかけにダインが申し出る。
「と、なると俺たちは飛空挺で潜入までの撹乱が限界かな。恐らく人間が撃破される事はないだろうし、そういう意味では気楽か……あとロゼだ。あいつは厄介なことこの上ない」
「中央シャフトへの誘導も私たちで。ロゼの相手は私がします」
シエルは更に続けた。
「実は、リバース達に私たちの仲間が捕らえられているの。だから、どうしても助けたくて……! あの子たちがいるとしたら中央シャフトの可能性が高い……きっとロゼもそこにいるはずだから……」
「やれやれ、毎度厄介な事情を溜め込んでいるようだな……しかもロゼには一度負けてるんだろ? 大丈夫なのか……?」
ラファールが再度ため息をつくと、ダインがうつむいて話し始めた。
「事情はわかりました、実は私達も似たような理由で潜入したいのです……。と、いうのも、これまでリバースの連中に惹かれて加盟してしまった仲間のレプリロイドは決して少なくなく……そこで、最後の説得の機会を設けさせて頂ければと考えております……」
「内輪揉めか、相変わらずレプリロイドは争いが絶えないな……」
「やめてラファール。あなただってわかるでしょう? みな背負ってるものがそれぞれあって、よかれと思った結果なのよ……けど、取り返しがつかなくなる前に手を打たなければ……」
ラファールの小言はネージュによって遮られた。
「悪い。言いすぎた。実はオレ達人間の集落も似たようなものなんだ。正直、レプリロイドを嫌悪しているメンバーは少なくない。そして、オレ達の恐れているレプリロイドの代表格がアルカディアの連中だ。だから、そいつらを始末したリバースに感化されている者は決して少なくない……正直オレは怖い」
「このままだとリバースに加わる者が増えることは容易に想像できるし、そうなったらますます止める手立てが限られてくるわ……」
「身内がいれば刃を握る手にも力は入らなくなるでしょう。そうした虚をついて、彼らが勢力を拡大させるのは必至……」
シエルとダインの言葉を最後に場に沈黙が訪れてしまった。が、話がネガティブな方向に突入するのを察したネージュが割って出た。
「はいはい、進行を買って出たけど全然出番が無かったので、そろそろまとめたいところだけど……シエル、作戦名とか候補ある?」
「そうね……紅き亡霊への弔いの歌……レクイエム……」
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『彼』への思いを巡らせつつ、それを断ち切るように言葉にした。
「そう、ゼット……レクイエム……」
「シエル……あなた……そんな風に考えて……」
ネージュは目を開いて驚いた。あえて傷口を開くような真似をするシエルを見て、そこに覚悟の現れを感じ取ったからだ。
「なるほど、レクイエムときたか……」
「鎮魂歌……確かに亡者を弔うには相応しい名前ですね……」
ラファールとダインもそれぞれ思うところはあるのだろう。シエルにとっての意味も理解した上での反応だった。
「リバースに対するアンチテーゼとしてはこの上ないです」
グレイシスはあくまで冷静だ。
皆それぞれに感想を口にし、ひとしきり思いの丈を語ったせいか、場が落ち着くのを見計らってネージュが会議を一旦打ちきった。
「それじゃ諸々きまり! 作戦コードは『ゼット・レクイエム』で! 各々担当箇所の準備があると思うのでひとまず解散!」
◆SCENE7
「シエルさん会議の方ご苦労様です。さっそく準備にかかります」
会議から解放されると、ペロケが労いの言葉をかけたが、シエルは胸の奥につかえていたものを打ち明けた。
「……みんなに言えないことがあったわ……マザーエルフのこと」
「確かに、判断が難しい案件ですね……」
「そうね、それにあの力は今の世界にとって良い作用をもたらすとは思えないわ……ひたすらに混乱を招くだけ……」
「下手すれば妖精戦争やバイル事変の再来になりかねません……」
「だからマザーエルフが捕らえられていた場合、ひそかに解放しなくては……ミッションがいくつも重なって、目眩がするわ……」
「一旦整理いたしますと、今回の作戦目標はヴァルハラ及びゼロ・リバースの鎮圧。我々のミッションはアルエットさんとパッシィさんの奪還。そしてマザーエルフの調査と解放と、3つになります」
「過程過程でのことまで含めると盛りだくさんね。そして、ひとつ残らず全てこなさなければならない……今まで『彼』にはこういうことを押し付けてきてしまっていたのね……」
「ですが、『あの方』はいつも最善を尽くしてくれました。今我々がこうしていられるのもそのお陰です。シエルさんもあまり気負わず、今できる最善をとにかく尽くしましょう!」
「ええ、それとあの子、さっきのグレイシスさんね。ロゼの配下の少女と近い雰囲気を感じるの……ちょっと気になるわね……」
「確かに少し気がかりです。何か聞き出せるとよいのですが……」
「そろそろ作戦準備に移りましょう。私もリバースメタルの調整に取りかかるわ。ガーディアンベースの整備と点検の方をお願いね」
「承知いたしました。それではまた、後ほど」
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