ピーナッツにだって雄と雌があります
実家の父は、ほんとか嘘かよくわからないような冗談をいうことがあった。
わたしたち姉妹がまだ子どもだった頃、みんなで柿の種をぽりぽりと食べていた時のことだ。
「ピーナッツあるだろ?これには雄と雌がおるんだよ。知っとったか?」
父は、割れたピーナッツをわたし達に見せながら、「頭のとこに、ぴょこんとある方が、男。こっちの何もない方が女だ」と説明してくれた。
手元にあったピーナッツを、二つに分割してみる。ほんとだ。ぴょこんとしたやつがあるやつとないやつがいる。こっちが男で、こっちが女か。
ぴょこんの部分を指でほじくって、口の中にぽいと入れる。これで、このピーナッツは雌になりました。ちょっと悪いことをしたような気持ち半分。やってやったぜという気持ち半分。
なんで父がそんなことを言ったのかは、わからない。今その時の話をしたところで、「よう覚えとるなあ」と笑われるだけだろう。
父は、どちらかというと、口数の多いタイプの人ではなかった。それでもたまに、よくわからない冗談を言っては、母やわたしたちに「何言っとんのさ」と呆れられていた。
ほんとのところは、父にしかわからないけど、わたしたちが「また言うとるよー」と、笑ったり反応するのが嬉しかったのかな、と想像する。
不器用なタイプだから、あれも父なりのコミュニケーションだったのかもしれない。
大人になったわたしも、しょうもない冗談を言ってはニヤっとするような人間に成長した。
血は争えないもんだなと思う。
父のピーナッツの話。いまではさすがに嘘だとわかっている。
でも、ピーナッツを食べるとき、「お、こっちは雄だなあ」と無意識に分別しているわたしがいる。
心の中ではこっそりと、ピーナッツにも雄と雌があるような気がしてしまうのだ。
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