白髪

年を取るにつれ、白髪がふえてきた。

小さい頃に生えてきた白髪は縁起が良いものなんだって
そう、親からは教えられてたっけ。
でも僕は、その縁起物とされているヤツを
大人になりたくない一心で、
同い年からばかにされたくなくて、
何本も白くない髪を犠牲にして、排除しようとしてたっけ。

初めのうちは数えていたのかもしれない。
生えるたびに、抜いていた。
そして抜いた白髪を、ジロジロ観察してたっけ。
その不思議な透明感に、心を奪われていたのかもしれない。
だからこそ、その事実に現実味がなくて
時には、友達に手伝ってもらって、
深夜に、合わせ鏡に手伝ってもらって、
僕は、白髪の存在を否定しつづけた気がする。

そのうち、年月が経ってきて
白髪の存在がいつしか、当然になっていったっけ。
苦労してるんだね、って、
僕なんかよりよっぽど苦労している人たちに言われるんだ。
若々しく見えるその人たちに
今、僕は近付けているのかな。
何年後、何十年後、
僕はあの人たちに近づくことができるのかな。
その頃にはきっと、
白髪が縁起物になっているかもしれない。

身体は嘘を吐いてくれない。
人柄は人相に出るなんて、よく言われるけど
きっと白髪も、嘘を吐いてくれない。
もしかして、知っているのかな。
僕が歩んできた道のりを、
僕なんかよりも語ってくれている、白髪。
縁起物なのに忌避してきた、その透明に、
僕は嘘を吐く。

ありがとうって、嘘を吐く。
さようならって、その透明に上描きしていく。

僕からサポートをお願いするのは烏滸がましい。 貴方の中で何かが動けば、それは僕も嬉しいことです。