見出し画像

【目の前に現れたことに反応したり、有機的に考えてみるチャンス】MATSUDO “QOL” AWARD|QOL Baton オンライントーク

現在滞在アーティストの受け入れを制限中のPARADISE AIRですが、6〜8月の間、松戸駅から60分圏内に住むアーティストを対象にした特別プログラム『MATSUDO “QOL” AWARD』を開催しています。

“アーティスト人生のうちのコロナ禍中3週間をPARADISE AIRで過ごして頂き、松戸での制作体験を創出する”ための「MATSUDO “QOL” AWARD」。
“QOL”は「Quality Of Life(生活の質)」を意味する表現ですが、この公募では「Quarantine Of Laureate(受賞者の隔離)」も目指してアーティストの滞在を受け入れています。

3期各3週間の滞在を受け入れるこのプログラムでは、第1期が終わり、第2期が始まるタイミングの7月14日にオンライントークイベントを開催しました。
第1期の二人のアーティストから第2期の三人のアーティストに向けて、MATSUDO “QOL” AWARDという場をバトンタッチするためのイベントとなりました。トークの記録をぜひご覧ください。

QOL Baton オンライントーク
日程:2020年7月14日(火)
時間:19:00-20:30
会場: Zoom ※日英逐次通訳あり
第1期アーティスト:ジー・チー、ラルフ・ルムブレス
第2期アーティスト:梅原徹、黒田恵枝、安野太郎
第3期アーティスト:公募開催中!(7月26日〆切 応募はこちらから)

QOL第2期アーティスト紹介

画像1

この日PARADISE AIRにチェックインした第2期アーティストの3名から、簡単な自己紹介を行ないました。

◉梅原徹
東京藝術大学建築専攻をこの春卒業。現在の興味は建築と音楽。
取り組んでいるプロジェクト名は「アーキフォニア」。音響空間、音響彫刻を都市に配置し、体験を通じて作る作品。

MATSUDO “QOL” AWARDは「受賞者の隔離」に興味がわき応募。
建築はある場所に赴かないと体験できないものだが、それがコロナにより絶たれたことを受けて、新しい挑戦しようと応募した。「配送(とそれを支えるエッセンシャルワーカー)」にフォーカスした作品に取り組む予定。

◉黒田恵枝
使われなくなった衣類を使い、手縫いで実在しない動物の人形を作っている。キメラ的な想像上のいきもの「もけもけもの(もののけ+けもの)」と名付けている。画面越しに見せてくれた作品は、コアラの顔、うさぎの足、手は人のような・・・もけもけの。うさぎだけど頭が2つあるものも。
人の不確かな存在や成り立ち、ありようを考えながら作っている。
古布には、毛玉が付いていたり、着古されていたり、人の存在が感じとれる。捨てられる運命の衣服は死んだもの、と思ってしまうところを、もけもけものとして生まれ変わらせることに興味がある。

松戸には4年住んでおり、自宅はPARADISE AIRから徒歩20分ほど。
この春に韓国で滞在制作する機会があり、全く違う環境で制作することで、自分がいる(存在している)場所への意識が向いた。MATSUDO “QOL” AWARDを通じて、自分が住んでいる松戸で「隔離」されることで、自分の現在地を知る機会になると思っている。

◉安野太郎
埼玉県から参加。作曲家として活動しているが、素直な作曲家ではなく・・・自動演奏の音楽装置を作品として作っている。(=ゾンビ音楽)
「ゾンビ音楽」は自動演奏が人間のように弾ける、人間を超えて弾ける、ということをめざしているのではなく、生きる屍として、人間が作ってきた音楽を壊して/音楽が壊れた状態でも弾き続ける音楽作品。

MATSUDO “QOL” AWARDに応募したのは、コロナ禍の状況において「時空芸術」への思考を深めたいと思ったから。時空芸術とは、かつて音楽、ダンス、演劇、美術と言われたものの総称。場所が失われてオンライン〇〇に場を移しているもの達についての思考を深めたい。

<安野さんの告知>
第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展
Cosmo- Eggs|宇宙の卵
2020年6月23日[火] - 10月25日[日]
開催中です!

QOL第1期アーティストより

画像2

◉ジー・チー

デザイナーでありアーティスト。主に紙とテクノロジーを融合させて作品対象としている。紙のいいところは、誰でも手に入れられるところ。小さな頃から慣れ親しんだ素材を使っている。
科学とエンジニアリングの分野でも活動しており、パズルを解き明かすように向き合えるところに興味がある。

テクノロジーをもっと身近に感じられるよう、誰でも使える楽しいものと伝えるために、過去にはLEDを使ったドローイング作品を制作。
また、ワークショップもオーガナイズしている。テクノロジーがもっと親しみ深いものとなるように、ツールを開発して、紙やテープなど身近な素材を使ったワークショップを開催してきた。

2019年、個人的に制作拠点が変わるなど、自身の状況が大きく変わった。その後、コロナウイルスの拡大や、世界中でデモがおきたり、世界が変わったと感じるように。自身のことについても、立ち止まって考える必要があるのでは、と思うようになった。

◉ジー・チー:松戸に滞在し始めて

その中でMATSUDO “QOL” AWARDに参加する機会を得た。応募したのは、立ち止まり、周りを見まわして、頭を整理して消化する時間が欲しかったから。
PARADISE AIRに到着してすぐの1週間(6月中旬頃)は、なんの計画も問題意識もなく自分と向き合えたと思う。この頃は自粛の雰囲気も強く、一人で過ごすようにし、松戸の街を歩き回っていた。
ポストカードの制作では、松戸を歩いて気づいたシーンを絵にしてみた。これらは今後、他の場所に住む人に送ってみようと思っている。自分の中に凝り固まっていたものが溶け出すような感覚があった。

2週目になると、同時期の滞在アーティストのラルフとも交流が活発になった。ラルフの奥さんのネスや、スタジオメンバーの李さんとも顔を合わせる機会が増えた。
この頃、太陽光発電を使った作品作りの実験をしてみた。自分の得意分野である電子回路を使ったアイデアと、出会ったアーティスト達のアイデアも持ち寄っての試行錯誤だった。
また、PARADISE AIRに過去に滞在したアーティストとの出会いも新鮮だった。スタッフの紹介でオンラインで話す機会を持てて、迷子になりがちな自分の思いをざっくばらんに話してみた。
アーティストだけでなく、地域住民の方と交流できたことも印象的。松戸の提灯屋さん八嶋さん(音響エンジニアでもある!)と出会い、提灯づくりのワークショップに参加。墨は電気を通す素材なんだ、と教えてもらった。

画像3

◉コラボレーションプロジェクト

3週目には、ジー、ラルフ、ネスの3人で作品制作に取り組んだ。
コラボレーションプロジェクトを絶対に一週間で完成させるというよりも、自分たちが楽しめる実験的なプロトタイプの制作、という気持ちで。
ドローイングに話しかけると“SHHH...(しーーー)”の文字が浮かび上がるインタラクティブな作品「Open Mic」。大きな声を出すと「静かに!」と言われる状態は、私達がいま生きている社会状況でもあると思う。これまで信じてきたことがまるで変わってしまい、世界各地での声を上げるアクション(デモなど)も発想に影響があったと思う。

スクリーンショット 2020-07-22 19.38.31

スクリーンショット 2020-07-22 19.44.40

ラルフはグラフィティアーティストでもあるので、グラフィックアートの手法も取り入れながら制作した。写真では楽しそうに墨でドローイングしているが、実は色々な問題が・・・
黒く塗った部分にLED回路を配置したら、墨が電気を通すため回路がうまく起動しなかった(八嶋さんに教えてもらったことをすっかり忘れていた!)ので、作り方を変えたり。予想外のいろんな事が起きて、滞在最後の夜は遅くまでやっていました・・。でも、次に繋がる発見でもあった。墨の伝導性は別の作品の仕掛けにも使えそうだと思っている。
出来上がった作品をよく見てみると、パチンコ「楽園」のキャラクターヤバイラーや、アマビエ(コロナを止めようとしてる)、カッパ(いたずら好きで邪魔している)がいる。アマビエもカッパも滞在中にその存在を知りました。

スクリーンショット 2020-07-22 19.52.03

スクリーンショット 2020-07-22 19.40.01

最後に、松戸の街に作品を持ち出した映像を見せてくれました。松戸駅の改札、公衆電話、PARADISE AIRの入り口など、街の音で“SHHH...(しーーー)”が浮かび上がっていました。

◉ラルフ・ルムブレス 

フィリピン出身、現在日本に住んで活動しているアーティスト。
これまで精力的に取り組んできたプロジェクトでは、地理学や科学、教育分野の専門家・研究者と協働してきた。いろいろな分野を横断するコミュニティ・コレクティブとして活動し、アートやクリエイティビティの活性化×コミュニティづくり×自然環境を考える活動を組み合わせて創作活動を行なってきた。一般の人が参加できるワークショップも数多く開いてきた。
また個人の作品としては、木材やDIYを取り入れた彫刻、インスタレーション作品も展開。

分野横断的な活動を通じて、システムそのものを考えること・環境・持続可能性・回復力(しなやかさ)といった事を統合して、「身の回りの環境とどのような関係を作っていくか」が主題となると気づいた。

ラルフ・ルムブレス 「Bukas: open / tomorrow」

MATSUDO “QOL” AWARは、上記のようなこれまでの活動を振り返る時間となった。
また、これから一年をかけて取り組もうと思っている作品「Bukas(ブカス):open / tomorrow」という参加型のドキュメントプロジェクトかつ、タイムカプセルプロジェクトを考え始めた。

この作品のために、PARADISE AIRスタッフの力を借りて松戸の人たちにインタビューも実施。松戸・コロナ禍の現在のドキュメントとして映像作品にし、「マヌングルの壺」に詰めてタイムカプセルとして埋め、2030年に掘り起こせればと思っている。
「マヌングルの壺」とは、古代のフィリピンで使われていた埋葬用の壺のこと。二人の人物が船を漕ぎ、死者を黄泉の世界(もしくは来世)に連れていく様子を模した彫刻が付いているのが特徴。

スクリーンショット 2020-07-23 18.51.05

スクリーンショット 2020-07-23 18.50.49

最期に、これまでに制作した映像作品のシリーズから「Sa Pagitan 1: Mekong River」をご紹介します。

ディレクター森から補足

MATSUDO “QOL” AWAR公募時は「隔離」を打ち出していたが、結果として、アーティスト同士やまちのご協力いただける方との様々な接触が発生した。
対応いただいた街の人には少し申し訳ない気持ちもあるが、しかしこれがアーティスト・イン・レジデンスの自然な姿でもある。第2期のアーティストのみなさんには誰かと接触することを強制するものではありません。

質問タイム

質問はZoomチャット欄で受け付けました。

I would have a question for Yoshie Kuroda. In what way do your creatures change depending on the location that you are in? Does your environment change the creatures?
(黒田さんに質問:いきものたちは、それを作る環境や黒田さん自身が今いる場所によって変化があるのですか?)

黒田:モチーフに意味をもたせることを意識はしてない。けれど、その時に聞いたニュースや、歩いて偶然出会ったものに対してのリアクションで、「もけもけもの」のモチーフとなる動物が決まることがある。今回も早い段階でなにかに出会えるといいなと思っています。

ジー&ラルフの松戸お気に入りスポット、おすすめスポットは?

ラルフ:江戸川で見かけた、野生の生物。映像にも収めました。千葉大と戸定邸の間にある森のようにになっている場所も印象的。

ジー:PARADISE AIRの近くの公園(春雨橋親水広場)。階段状になっていて、休めたり、周りに沢山神社がある。ラルフとははじめてコラボレーションについて話したところでもあり、思い出深い。
お気に入りのコーヒー店もふたつあり、「Mahameru」はインドネシアの人がやっている珈琲店で、向かいにももう一店ある。色々と話を聞いてくれ、親切にしてくれたお店で、ぜひいってみてほしい。自分たちが行ったのはちょうど自粛が緩和されたタイミングだったので、コロナ第2波の影響で出歩きづらくなるかもしれないけれど・・・

たしかにwith Coronaの時代の新しい出会いやコラボレーションは難しいものだと思います。とはいえ結果的に、今回のコラボレーションはとても美しいものに見えました。
ラルフさんとジーさんがコラボに至った、そのお互いに惹かれた理由とかきっかけやエピソードがあったら教えてください。

ラルフ:コロナによる自粛の雰囲気が少し落ち着いて、ご飯を食べに行くことも出来るようになって(滞在2週目頃)。最初は過去の滞在アーティストが残したPARADISE AIRの階段にある作品について話していた。(階段の側面にある作品なので)降りる時には見えなくなってしまうので、降りる人に対しても何かアイデアがあるといいな、と具体的なことを話していたのが始まり。結果としては自分たちで新しい作品を一緒に考えることになりました。

ジー:自分たちはいい組み合わせだと思った。お互いが探したい、考えたいことがちょうど噛み合った感覚。私はエンジニアの世界からアートの世界に踏み込んだというタイミングで、ラルフは自身の持ってないテクノロジーを使ったアイデアに興味を持ってくれ、(ラルフの奥さんの)ネスはクリエイティブディレクターのように立ち回って、どのようにストーリーを作り、伝えるべきかを考えてくれた。

何人のスタッフがどのような関わり方でこのプロジェクト(MATSUDO “QOL” AWAR)を成立させているのでしょうか?第1期のアーティストが滞在中に、どれくらいスタッフのサポートがあったのでしょうか?

コーディネーター宮武:PARADISE AIRのコーディネーターは6人(+フォトグラファー1人)います。緊急事態宣言中でも開催できるよう、アーティストに会えなくても基本的には成立するプログラムなので、ほとんどのやり取りをFacebook メッセンジャーを通じてやっていました。
地域の方からもサポートいただけました。前述の八嶋さんは会わずにコミュニケーションできるように、ホワイトボードの掲示板を持ってきてくれました。アーティストからいろんなリクエストや質問を書き込み、色々と教えてもらったり。ほかにも、過去の滞在アーティストなどから出来る形でサポートをしてもらいました。

スクリーンショット 2020-06-23 14.56.35

QOL第2期にむけて

ジー:自分のやりたいこと、興味があることに集中する時間になるはずです。新しいことにも取り組んでもらえたらと思います。
ラルフとはここで初めて出会い、気が合ってコラボレーションプロジェクトをしましたが、滞在開始当初は全く思いもしないことでした。予想もしないことに驚かされる、という体験も楽しんでほしいです。

ラルフ:ちょうど非常事態宣言が解除され、少しリラックスした時期の滞在だった。与えられた状況の中で、「こうでないといけない」ということは全くない。目の前に現れたことに反応したり、有機的に考えてみるチャンスなので楽しんでほしいと思います。



アーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」の持続的な運営のために、応援を宜しくおねがいします!頂いたサポートは事業運営費として活用させて頂きます。