【しをよむ128】与謝野晶子「君死にたもうことなかれ」——共感させる力がすごい。

一、二週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

与謝野晶子「君死にたもうことなかれ」

(田中和雄編『ポケット詩集』(童話社)より)

あまりにも有名なこの詩ですが、実は全編をちゃんと読んだのは初めてかもしれません。

でも今だからこそ、詩の内容がしっかり理解できることもあります。
旅順口包囲戦……、『ゴールデンカムイ』の鶴見中尉がいたところです。
『ゴールデンカムイ』は日露戦争直後が舞台なので、旅順の話は鶴見中尉の回想シーンがメインです。
そこに描かれている苛烈な戦闘を思うと、この詩がいっそう悲愴さを増します。
同時に、当時の報道管制がどの程度厳しく布かれていたのか……、ということも気になり。
戦況がありのままに伝えられていたからただただ無事を祈るほかなかったのか、
それとも伏せられていたから暗闇で手探りの祈りを捧げるしかなかったのか。

「安しと聞ける大御世」というのは、いわゆる戦争特需もあって、特に商家は潤っていたのかも、と考えたりもしています。
この辺りのイメージは大部分が『ゴールデンカムイ』由来なので、作中に描かれている北海道の町にだいぶ引っ張られているのですが。
堺の街はどうだったのでしょう。古くから栄えてきたぶん、暮らしは普段と変わらなくて、だからこそ「おとうと」がいないことが際立って異質に感じられるのかもしれません。

そしてこの詩を読み進めていくと現れる

暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻を、
君わするるや、思えるや。
十月も添わでわかれたる
少女ごころを思いみよ、

というのがいかにも与謝野晶子です。
恋愛の熱情をストレートに表現していて、ウジウジしているとぴしゃっと頬を張られそうなほど。

そしてこの詩は「姉」の立場で書きながら、「親」や「妻」の心情も描いているのが何とも巧みです。
おそらくは大っぴらに言いにくかったであろうテーマをこれほどに率直に記し、
しかも残された「姉」「親」「妻」のどの立場からも読めるようになっているなんて、
当時の読者の共感を掴んだことこの上なかったのではないでしょうか。
勝手ながら、私の中で与謝野晶子は「姐さんと呼ばせてください」ランキング第1位です。

今更ながら「共感」「イメージ」の力をひしひしと感じる回でした。

お読みいただき、ありがとうございました。
次回は谷川俊太郎「死んだ男の残したものは」を読みます。

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