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ラドン温泉の被爆 実は危険?

ラドン温泉が放射線を出していて、入浴時に被曝することは確かである。日本では各地でラドン温泉が親しまれてきたが、それはラドン(ラジウム)が放射性物質であるとの認識が薄かったことも要因の一つではなかろうか。もし「プルトニウム温泉」や「ウラン温泉」というものがあったら、怖くて入る者はいないだろう。 

こう著書で語るのは、評論家の竹田恒泰氏だ。東日本大震災を受けて2013年に書いた「これが結論!日本人と原発」(小学館101新書)の一節から引用させていただいた。この本自体は、保守本流をいく同氏が書かれたものだが、非常に興味深い。

一般に、組織や臓器が損なわれる場合を「確定的影響」と言い、がんと遺伝的な影響の場合を「確率的影響」とする。「確定的」では白内障や脱毛、甲状腺のホルモン代謝異常などがあり、これは線量以上の被爆をしないと影響は出ない。影響の出る最低量を「しきい線量」という。

 やっかいなのは「確率的影響」である。放射線による発がんリスクは、広島・長崎の原爆影響調査などから、100ミリシーベルトを被爆すると1000人に5人の割合(0.5%)で、一生の間にがんになる人が増えるとことが判明している。さらに多い被爆量だと、がんの発症率がさらに増加する。

ところが、100ミリシーベルト以下の被爆線量では、放射線以外に起因する発がん原因や個人の生活習慣の違いによる差が大きくなる。このため発がんリスクを明確にすることはできない。


放射線防護委員会(ICRP)では、年間1ミリシーベルト以下を目指すべきとしている。世界中には放射線量が高い地域があり、自然界にもある年間10ミリシーベルト程度の被ばくでは、健康への影響を心配するレベルではないとしている。

だが、放射線を微量でも受け続けると、ゼロではない影響が生まれることは間違いない。 竹田恒泰氏はそのことに対して、警鐘を鳴らしているということである。

日本温泉科学研究所(1981年)によると、世界一といわれる高濃度のラジウム温泉が噴出する鳥取県の三朝温泉(みささおんせん)では、「温泉地の外気や一般家庭の空気中のラドン量から気管支粘膜の年間被爆線量は0.14~0.27ミリシーベルト(mSv)と推定され、年間最大許容被爆線量の約1/5に相当する」とするデータが示されている。このため、肺がん発生率が他のちいきの人に比べて発生率が高いとするデータもある。

さらに言うと、兵庫県神戸市の有名な有馬温泉では、その源泉近くでは13マイクロシーベルト時を被曝する。この量は、原子力安全委員会の指針では屋内退避が推奨される被曝量である。

ちなみに、福島原発事故における経産省の区分では、帰還困難区域は2011年当時、年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域とし、居住制限区域(現在は全面解除)は2011年当時からの年間積算線量が20ミリシーベルト(mSv)を超えるおそれがあった地域だった。

こうした背景にもかかわらず、これらは鉱泉分析法指針では、治療の目的に供しうる鉱泉を特に療養泉(りょうようせん)と定義し、その中にラドンを含んでいる。

【療養泉とは】
泉源の温度が摂氏25度以上であるか、温泉1kg中に以下のいずれかの成分が規定以上含まれていること。


・溶存物総量(ガス性のものを除く) - 1000mg
・遊離二酸化炭素 - 1000mg
・Cu2+ - 1mg
・総鉄イオン(Fe2++Fe3+) - 20mg
・Al3+ - 100mg
・H+ - 1mg
・総硫黄([HS-,S2O3--,H2Sに対応するもの)- 2mg
・ラドンRn - 111Bq

放射能に効能があると主張する学者(トーマス・D・ラッキーなど)の論調としては、低線量ならば体内の生物活性(せいりかっせい)を刺激することで体にも良い作用が生まれるとする「放射線ホルミシス(radiation hormesis)」を主張している。

わかりやすい例で言うならば、紫外線は浴び過ぎれば皮膚がんの原因となる。殺菌灯は紫外線の殺傷力を使うものだが、少量の紫外線は活性ビタミンDを体内で作るために必要だ。ビタミンDは血清中のカルシウム濃度を調整するものであり、不足すれば骨の石灰化障害(クル病)の原因となる。

放射線でも、関節リウマチや変形性関節症、腰痛症、神経痛、打撲、捻挫といった一般的適応症(環境省が全ての温泉で効能があるとする症例)のほか、高血圧症や筋肉痛などにも良い影響があるとしている。

日本だけでなく、オーストリアやロシアなどではこの放射線ホルミシス理論を根拠に、ラドン泉(ラジウム泉)の効用がうたわれ、療養のために活用されるラドン泉やラドン洞窟が存在している。

ところが、世界保健機構(WHO)は「ラドンが喫煙に次ぐ肺がんの重要な原因である」としている。アメリカの環境保護庁(EPA)は「ラドンに安全な量というものは存在せず、少しの被曝でも癌になる危険性をもたらすもの」としている。

ただ、日本では死亡原因をガンとするケースは全体の3割程度であるため、がんを発症してもそれが直ちに放射線の影響と特定することはできない。がんによる死亡の割合も地域・性別・年齢・調査した年度により異なるためだ。それは個々の生活習慣や、それ以外の有害物質の影響を受けている可能性を捨てきれないためで、確たる統計が不足しているのが現状である。

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