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公的機関に民間の評価方法を導入できるのか?【大学院の学びの振り返り】

イギリス大学院のMPAコースで学んだことの振り返りです。

コース名:「Public-Private Partnerships in Public Services(公共サービスにおける官民協働)」
テーマ:「公的サービスの変革を理解し、公共サービスにおけるPerformance Managementの課題を分析する」


公的サービスの変革

1980年代までは公的サービスにおいて政府が独占的な位置を占めており、意思決定はトップダウンであった。Max Weberはこの組織体制を官僚制(beaurocracy)と提唱し、理想的な組織と主張してきた。

しかし、核家族の増加などで国家が分化される中、集中した独占的なサービスの運営は非効率であり、より合理化された運営プロセスが求められるようになった。

1980年代から欧米でNew Public Management(NPM)、いわゆる公的部門に民間の経営手法を導入することで、より効率的にサービスを提供できるという考え方が広まった。NPMの主な特徴は以下の通りである。

・コスト削減や効率化に努めること
・定量的な評価測定でパフォーマンスや結果を重視すること

Hood, C. (1991) A PUBLIC MANAGEMENT FOR ALL SEASONS?

Performance Management

NPMにおける定量的な評価測定にはPerformance Management(PM)が用いられる。PMとは組織の戦略的目標を測定可能な指標に落とし込み、そのパフォーマンスを測定して報酬を与えるプロセスのことである。

PMには4つの主要な目的がある。

・説明責任:国民や利害関係者に目標の達成率を明示しやすい。
・評価:組織や個人にインセンティブを与え、昇進や報酬を与えるための基礎を形成する。
・学習:測定結果は業務の効率化や有効性の測定、プロセスの改善に役立つ。
・コミュニケーション:組織内に目標を説明しやすい。

Verbeeten, F.H.M. (2008), Performance management practices in public sector organizations: Impact on performance

イギリスでは1980年代からすでにNPMの一環としてPMが採用されていた。一方、公的機関におけるPMの導入にあたっては様々な課題がある。

PM導入時の課題【民間との違い】

PMは定量的な測定方法であり、評価にあたり測定可能なデータが必要となる。しかし公的機関は民間企業よりもアウトプットが多様であり、必ずしも測定可能なデータを収集することが難しいため、定量的な評価は不完全である。

例えば、民間企業は売上高や営業の獲得件数などアウトプットが数値化しやすいものが多い。一方公的機関は、社会全体のサービスの向上や機運上昇などアウトプット自体が数値に表れないことも多く、測定が難しい。

PM導入時の課題【日本の組織文化】

PMの導入にあたり、日本の組織文化が妨げる可能性がある。日本の公的機関では年功序列が一般的であり、パフォーマンスを報酬のインセンティブとするPMの性質と反する。

実際、日本の公的機関ではPMを人事評価の一項目として実務レベルで導入しつつも、全体的な運営基準は従来通りのものを採用し続けているケースが多い。ゆえにPMの本来の目的である「パフォーマンスの向上」にはほとんど繋がっていないという課題がある。

日本におけるPMの導入

イギリスのNPMという行政改革の流れを受け、日本でいちはやくPMを導入した公的機関は独立行政法人である。

独立行政法人とは、各府省の行政活動から一部の事業を実施している機関であり、分類上は公的法人である。一方で事業としての利益を上げる必要があることから、実際は半官半民の立場をとっている。他の公的機関よりも民間的な性質が強いと考られたため、先駆けてPMを導入するに至った。

事例調査~独立行政法人のPMはうまくいっている?~

では独立行政法人のPMはどれほどパフォーマンス向上に繋がっているだろうか。日本の独立行政法人について、Behn (2003)が指摘するPMの8つの経営目的のうち組織目標に関わる4項目:「改善」「管理」「予算」「評価」について、どこまで達成できているかを調査した。

総務省が発表している独立行政法人を管轄する各省庁が公表する政策への反映状況における20つの報告書を調べたところ、まず「改善」についてはほぼすべての報告書において前年の政策評価結果が政策に反映されており、ある程度の改善がみられることが分かった。

一方、「管理」「評価」については、法人内部の業績測定や評価が戦略レベルまで落とし込めておらず、従業員に伝わっていない機関が多く、これら2項目についての向上は見られなかった。また「予算」についても評価結果が財政措置に十分反映されているとはいえず、Okamoto(2019)が全独立行政法人の理事長に実施した調査で明らかになった。

この結果から、独立行政法人のPM導入は実務レベルでは導入できているが、組織の戦略レベルまで落とし込めていないことが分かった。PNを定着させるには、単に評価や予算の仕組みをつくればよいだけでなく、根底にある日本の組織文化の影響も考慮する必要がある。

独立行政法人にPMを定着させることは法人経営の基本秩序の転換を意味するほどの大きなインパクトがある(Okamoto, 2019)。これを踏まえると、独立行政法人の長がイニシアチブをとってパフォーマンス重視の組織文化を育むことが必要であると考える。

所感

霞が関の若手離職が問題となっており、その理由の一つとして若手職員が十分な業績評価がされないことがある。独立行政法人がPM導入のよいモデルケースとなり、国家公務員の評価制度にも導入できれば、離職率を一定数減らすことが出来ると考える。




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