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ラムネと羊と壁画

夏の日差しが強く照りつける午後、拓也は古びたラムネの瓶を手にして、山間の小さな村に向かっていた。村の名は「羊谷村」と言い、その名の通り、羊が自由に草を食む牧草地が広がっていた。

拓也が村に来た理由は、その村にあるという壁画を調査するためだった。歴史家である彼は、大学の教授から「羊谷村に古代の壁画がある」と聞かされ、その真偽を確かめるために訪れたのだ。

村に到着した拓也は、ラムネの栓を抜いてひと口飲みながら、村の中心にある古い神社を目指した。神社の裏手には、言い伝えにある洞窟があった。洞窟の入り口は小さく、少し腰をかがめて入らなければならなかったが、中に入ると広い空間が広がっていた。

懐中電灯の光を頼りに奥へ進むと、壁一面に広がる壁画が現れた。壁画には、羊と人々が描かれており、彼らは何かを祝っている様子だった。特に目を引いたのは、ラムネの瓶を持つ人物の姿だった。拓也は不思議に思い、その人物が持つ瓶をよく見ると、まさに自分が持っているラムネの瓶と同じ形をしていた。

「これは一体どういうことだろう?」と考え込む拓也。古代の人々がラムネを知っているはずはない。それなのに、どうしてこの壁画にはラムネが描かれているのだろう。

拓也が壁画をじっと見つめていると、突然、洞窟の入り口から風が吹き込み、ラムネの瓶の音が響いた。その音に呼応するように、壁画の中の人物が微かに動いたように見えた。驚いて目を凝らすと、確かに壁画の中の人物が彼に向かって手を振っている。

恐る恐る近づいた拓也は、その人物が何かを口ずさんでいることに気づいた。耳を澄ませて聞くと、それは古代の言葉で「時を超えた友情を祝おう」と言っているようだった。

拓也はラムネの瓶を掲げ、壁画の人物に向かって「乾杯!」と言った。その瞬間、洞窟全体が一瞬にして明るくなり、壁画の中の羊たちや人々が生き生きと動き出した。彼らは拓也を歓迎し、古代の宴が始まった。

夜が更け、宴が終わる頃、壁画の中の人物が拓也に一枚の羊皮紙を手渡した。そこには、「この村の歴史を未来へ伝えてくれ」というメッセージが記されていた。

朝日が昇る頃、拓也は洞窟を出た。彼の手には、ラムネの瓶と羊皮紙が握られていた。拓也は自分の使命を胸に刻み、村の未来を見据えながら静かに微笑んだ。

こうして、ラムネ、羊、そして壁画にまつわる物語は新たな一歩を踏み出したのであった。

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