どうでもいいや

 今日も眠たい陽射しが窓から入ってくる。このまま二度寝、三度寝と何度でも出来そうな心地良さだ。しかし、そうとは言って居られない。私は会社員だ。このまま寝てしまったら、気持ち良い起床どころか絶望の起床が待っている。まぁ行ったところで何をするってわけでもないのだが給料のためにとりあえず行っている。そして給料を貰ってるからって何を買うでもなく、ただただ貯まっていくだけである。

 昨日のご飯の残りを片付け、クローゼットの手前にある服を着る。何も考えたくないからご飯は昨日の残り、服は常に手前の服を取ればいいようにしている。そして重い身体を動かして洗面台へ向かう。顔を洗ったところでシャキッとするわけでも美人になるわけでもないが、とりあえず顔を洗う。そして保湿や薄めの化粧をした後、鞄を持って出勤という流れが朝のルーティンである。

家から駅までの道のり、激混みの電車、駅から会社までの道のりについては、ただただ意志を失ったゾンビのように動いているだけなので割愛する。しかし今日は、いつもとは違う。今日、私は死んでみようと思う。だけど別に人生が辛いわけではない。私には自分が生きてることがどうでもいいのである。だから生きてても死んでもどっちでもいいのだ。死のうとして死ねたら問題ないし、死ねなかったとしてもそれはそれで構わない。とりあえず私は今夜、この東京の街で死んでみようかと思う。

私の会社は都内にあって、一般的にはホワイト企業に分類されるような会社である。一般にはホワイト企業は良いとされるが、私にはホワイトという色は他の色を認めない厳しい条件に思える。でもそんな会社も居心地が悪い訳では無い。上司は優しいし、同僚とも仲は良かった。いつもの仕事を終え、私はデスクの上を片付け、いよいよ計画を実行しようと決意した。

陽も傾いてきている。私は、この夕陽と共に沈もうかと屋上への階段を上った。しかし階段を上り終え扉を開けたところで想定外の事が起きてしまった。なんと屋上に先客がいたのである。私はそっと扉を閉めその場を立ち去ろうとしたが、ドアを開ける音と早足で近づいてくる足音が聞こえて来た。

間も無く私は彼に呼び止められてしまった。 「手紙を読んで、来てくれたんだね?」彼は言うが、私は手紙なんてここ数年見た覚えもない。そして私には彼が誰だか分からない。誰よ?気持ち悪い、と吐き捨て私は彼を振り切り屋上へと戻っていった。多分、この人生で1番速く走っただろう。屋上に辿り着いた時、彼の足音はもう聞こえなかった。これで邪魔の入ること無く死ねる、私は戸惑う事なく屋上から飛び降りた。

その後の事は誰も知らない。恐らく私は死ねたのだろう。別に私の人生に悔いは無いし、私が死んだところで世界は変わらずに動いている。ただ、私のデスクの上には1枚の手紙が、寂しげに置いてあるだけであった。

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