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キッチン・イン・でぃすとぴあ【第4話・渋谷で5時】

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【2−4 Bridge Stone】

「ラリラリなとこ悪ぃけど、オマエ誰だ?」
 自分も大概だが、更にアレな見た目の男に、シンゴは声をなげる。
「Oh? 自己紹介マダデシタネー♪ ワタシ、『ジョージ・タイヤマン』デース!」
「まさかミドルネームはブリジストンじゃねぇよな?」
「Oh! ナゼ知ッテマスカー!?」
「それ本名か?」
「いや、んなわけ……おっと、ソンナ訳ナイデース!」
「今、素が見えた気が……まぁいい。オレ達ととっとと(泰蜀師匠が)カタつけて失礼させてもらうぜ」

「ZA?」と、タイヤマンは怪訝な顔をし、「What? ノンノン! ワタシは『守リ人』! 大地ヲ愛シ! 自然ヲ愛シ……」
 陶酔して語る男に、泰蜀が「ぺいっ」と、草食解放戦線製の抜きたてホヤホヤの泥つきネギを投げつける。
「うぉっ! ちょ! 土! マジ服に土ついたんッスけど! ちょっとーー! 汚いんでやめてもらっていいですかーーー!!」
 完全にキャラ設定を忘れ、ワタワタと抗議するタイヤマンに、泰蜀は呵々大笑する。
「はぁーっ! 土を『汚い』とは、守り人が聞いて呆れるわい! おおかたアスファルトしか歩いたことがないんじゃろ、この頭でっかちが! 農は水と土の恵み。だがそれすらもヒトの作りし人工のものよ。キサマの言う「自然」とやらは、水と土が相寄り添いながら、数多の微生物や虫たち、そして獣や鳥たちが回す輪環よ。それを「汚い」などど、片腹痛いわ!」
「グヌヌ……」

 刹那、派手なスキール音とメカノイズが泰蜀たちに急接近する。
 猛スピードでピンクワゴンに突っ込み、旧式の軽自動車の衝突安全性能の低さを証明する戦車。間一髪逃れるシンゴ。金属とガラスが剥がれ落ちる「メキョメキョ」という音を立てながらバックした戦車の砲台は、泰蜀とタイヤマン、シンゴを射程に収めた。
 ハッチが空き、顔を出したのは……
「ヒャッハァー! ここで会ったが百年目!『飯アの聖闘士たち」よ、神妙にお縄につきやがれぃ! …………って、オマエは誰だ?」
 タイヤマンの存在を確認したZA公安部部長タワダは、怪訝な表情で首を捻る。
「なんだ、お前んトコの構成員じゃなかったのか?」
「こんなイカれたコスプレおやじが、誇り高き法の番人、ZAに存在するわけがなかろうが!」
「『イカれたコスプレおやじ』ってのは同意だが……」
「というか、キサマらの仲間ではないのか?」
「いや知らねーし! っつーか、『草食解放戦線』でもないみたいだぜ」
 謎の大男、タイヤマンの正体について、タワダとシンゴで気の抜けた漫才のような会話が交わされる。
「戦イノ最中、ワタシヲ無視デスカー? 良イド根性カエルdeathネー! ジャア、コッチから片付ケルデース!!」
 痺れを切らしたタイヤマンが、その大躯に似合わぬ猛スピードで、タワダに迫る。
「イタダキマンモスーーーーーー!」
 完全に虚を突かれたタワダの左胸に、いかつい指輪が全ての指に嵌められた大きな拳が突き刺さる……
「……ごちそうサマンサ」
 刹那、タワダの目が見開かれる。巌のような拳を受け止めていたのは、無藝流空手創始者、無藝泰蜀その人であった。
「し……師匠……」
「手前の身ひとつ守れんとは……しばらく見ぬうちに堕ちたのう、タワダよ」
「なっ! 誰が助けろなどと!」
「そういうツンデレは、後にせい。ほれ、来るぞ!」
 矢筒を下段に構え、闘気をまとわせるタイヤマン。喧しく鳴いていた小鳥の声が止んだ。先程までとは打って変わった雰囲気に、周囲の温度が一気に下がる。
「ソウデスカ……ソウデスカ……アクマデワタシヲ馬鹿ニスルデスネ……殺シテ進ゼヨウ!」
 地を蹴ったタイヤマンの跳躍! 空中で身を屈めた大躯が完全なタイヤ型になると、ありえない軌道を描き、砲弾のように泰蜀たちを墜撃する。
「ホホホホホホ!」
 クレーターのように穿たれたアスファルトに立つタイヤマンは、息つく間もなく吹き矢の矢筒を小太刀のように構えると、高らかな嗤い声をあげる。猛スピードの刺突を浴びせてくる。
「ホホホホホホ!」
 紙一重で躱した一太刀目からの、さらなる連撃。スピードののった回転を加えての斬撃が迫る。
「ぎょえええええええ!」
 殺人タイヤの動きを止めたのは、横合いから叩き込まれた鉄球だった。じゃらり、と音を立てる、それだけでも重量を感じさせる鎖の先に、えげつない突起のついた鉄球がついている。常人ならば即死を免れないであろうそれをグルグルと回すのは、セイコだった。

【NEXT渋谷で5時2−5】→


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