江古田リヴァー・サイド35

#小説 #江古田

主コメには

“デビュー目前?ヴォーカルが天使過ぎるバンドのリハ風景。プロデュースはまさかのあの人!?”

 という文句が躍っている。

 …ヲイヲイ。

 あえてミスリードを誘うこの手口。

 尹さんという人が、だんだんわかってきたような気がする。

 「pipipipipipi」

 先ほどとは対照的な、捻りのない着音が鳴る。

 今度は誰なんだ?

 「あ…中本氏からskypeだ...」

 主犯からの直電か。

 「もしもし…あぁ…見たよ。ていうか、アンタ何時の間に…ああ、わかった、ちょっと待ってくれ」

 マイクケーブルをスタンド代わりに立掛けたヨージのiphone6には、何時もの調子の尹さんが映っている。

 背景からすると、例の職場のバックヤードだ。

 『お疲れー、みんなソコにいるのかな?』

 悪気など微塵も感じさせない、実にさらりとした調子で

 「あのー…色々と訊きたいことがあるんだけど…」

 仁美が「(#^ω^)ビキビキ」と音がしそうな程に張り詰めた笑顔で言う。

 電話の向こうの尹さんは、臆面もなく

 『おー!ひーちゃん♪ どう?例の動画。良く撮れてただろ?』

 なんて言ってる。

 仁美は喰い気味に捲し立てる。

 「『良く撮れてただろ?』じゃないわよ! 何あのカメラワーク!! ずっとアタシの脚と玲さんの顔しか映ってないじゃない!! あとあの煽りなに!?」

 確かに、尹さん撮影(でほぼ確定だろ)の映像は、1/3は引きの画でのバンドメンバー全員のショットや、フロント二人とヨージ以外の個別ショット。

1/3が玲さんの男心鷲掴みのプリチーフェイスとその表情を様々なアングルから撮ったもの。

1/3は仁美のふとももとかふとももとかふくらはぎとかふくらはぎとか、膝裏とか膝裏とかを、舐め回すように、執拗に、最も健康的で、おいしそうで、かつエロティカルに見えるアングルで撮影されていた。

 男のフェチ心を実に良く理解している。

 尹さん、アンタとはいい酒が呑めそうだ。

 …ただし、被写体が仁美じゃなければ、の話だけどな。

 ヒロムとケイタは、被写体である仁美本人のXperiaに映された仁美の美脚に、絶賛前屈み中だ。

 おいおまいら!バンドメンバーの、しかも10年来のダチの女に欲情してんなよ!

 『あっはは♪ まぁ、告知なしに撮ったことは謝るよ。北乃くん、鷺沢さん、どう? イイ感じに撮れてるでしょ?』

 脳天気な尹さんの台詞に、若干キレ気味にヨージが言い放つ

 「いや、アンタなぁ…コレ盗撮だぞ…!」

『そうだねぇー♪』

…実に清々しい顔で盗撮行為を肯定しやがりましたよこの人((((;゚Д゚)))))))

退かぬ、媚びぬ、省みぬ

って、あんた何処のサウザーだよ!∑(゚Д゚)

『で、感想はどうだい?北乃クン?』

お鉢がオレに回ってくる。

 「えっと…尹さん、殴っていいっスか?」

 言ってから、自分の声の温度の低さに自分で驚いた。

 思ったよりも、オレは怒っているようだ。

 『ははは♪ 二人とも剣呑だなぁ。うんうん、可愛い可愛い♪』

 「いや、ホンキでなんなんスか?」

 『まぁ、なんというか、本格始動前の小手調べだよ。君たちはまず、その感情を飼い慣らすことを覚えないとね。

 アイドルになる。自らを衆目に晒し、そのビジュアルを売るってことは、受け手の身勝手な妄想や欲望の対象になる、っていうことでもある。

 身も蓋もない言い方だが、自分のパートナーが有象無象の男共のオナペットにされる事に耐えられる程度の太さは持っていないと、この先しんどくなってしまうと思うよ』

サポート頂けましたら、泣いて喜んで、あなたの住まう方角へ、1日3回の礼拝を行います!