江古田リヴァー・サイド 37

#江古田 #小説

GO GO HEAVEN

 「ひーちゃん!玲ちゃん! おっつかれ〜♪」

 黒いハイエースのドアを手で抑えながら、尹さんが満面の笑みで2人を出迎える。

 ステージメイクのままの仁美と玲さんが、小走りで駆けてくる。

 その後ろには黒山の人だかり。

 数人の警備員の後ろで、携帯やらデジイチやらのフラッシュが光る。

六本木ヌコファーレのライブは、控えめに言っても大成功だった。

事前告知をそれなりにしたとはいえ、キャパ400人のハコをやすやすと埋められているこの状況が、オレには俄かに信じがたい。

…DO☆GE☆ZAのライブなんて、良くて20〜30人だぞ?

しかも対バンアリで。

 動画流出(尹さんによる)騒動以来、ジェットコースターのような日々が始まった。

 土曜日にバズった動画は、日曜を挟んで月曜の朝には朝のワイドショーで取り上げられ、午後には東京FX-TVの人気番組、「四時に熱中」でも話題に上った。

 ペットリとした長髪のお笑い芸人と、”銘菓ひよこ”のような体型の人気毒舌オネェタレントが、映像を肴にトークを繰り広げていた。

「ねーねー!コレ、PersonaのZizzよね! アタシ思いっ切り世代なんだけど!!」

「Zizzさんではないか…と言われているようですね。

 こちらのロングヘアの美女は、有名コスプレイヤーさんらしいんですが、もう一人…こちらの女性の正体は、今のところナゾということで、全く情報が出てきていないようなんですね」

「どっちも結構カワイイじゃない。なんだろね?デビュー前のアイドルか何かなのかな?

 でもそうすると、あのZizzがアイドルのプロデュースするってこと!?

 ちょっとビックリ過ぎるんだけど!!」

「どうなんでしょうかね〜」

「いや、『どうなんでしょうかね〜』ってアンタ!大事件だってのよ!!

 Personaったら、アタシら世代の青春の1ページだよ?」

「…..(困)」

「うっわ! 反応うっすwww」

 「TVはもうオワコン」という人も多いが、とはいえマスメディアの情報伝達能力は高い。

 ネットでバズったといっても、所詮は広大なネットのホンの一部の出来事。

 情報感度の高い人達の間だけで広がる内輪ネタに毛が(かなりの剛毛だけど)生えた程度のものでしかない。

 だが、地上波の電波に乗れば、インターネットを利用しない層にもリーチできる。

 この差は、かなり大きい。

 その四日後、金曜日の午後2時。

 ヌコヌコ生放送(ヌコ生)で、元・PersonaのZizzの緊急記者会見が配信された。

 内容は、噂の2人組のデビューと、Zizzがそのプロデュースを行うという、大方の予想通りのものだった。

 

サポート頂けましたら、泣いて喜んで、あなたの住まう方角へ、1日3回の礼拝を行います!