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ちぐはぐな会話#10

タイムマシーンの真実

「SFといえばタイムマシーンだよな。」
「よくでてくるね。クルマみたいなのに乗って速度が何キロ以上になると過去か未来へいく、みたいな。」
「その時点で住宅地でも、過去は原っぱで、そこにクルマが突っ込むとか。」
「そうそう。」
「でもよく考えてみると、かなりおかしい。過去の”同じ場所”に戻る設定だとして、地球上の同じ緯度経度の場所に戻るのは変だ。地球は自転、公転していて、太陽系自体も広大な宇宙空間の中を猛スピードで動いている。宇宙空間の緯度経度が”同じ場所”に戻るとしたら、確率的に何もない真空の宇宙空間の中に戻ってしまうはず。」

知覚過敏

「生き物のなかには、二酸化炭素センサーがあったり、赤外線を感じたりするものもいるってね。」
「人間も電波に刺激を感じてしまう人もいるらしいよ。」
「電磁波とか放射線は目に見えないからね。避けようがないね。」
「無臭のガスも危ないからわざと臭いをつけてるらしい。それにならって、その目に見えないものにも臭いをつけてしまえば。」

拡張人生

「人間って足りないものをどんどん付け足していって生活してるよね。」
「え、なになに。」
「目が悪くなれば、メガネかけて、歯が悪くなれば代替品で噛めるようにするし。」
「そうだね。いまだと、わからなくなるとすぐに携帯端末で検索するし。いわば、自分の脳を拡張しているというか。」
「でも、そんなことばかりしてたら、思考能力が低下してしまうよ。電波の届かないキャンプ場でお互いなんの会話もできないとか。」

パスワード忘れた

ここは都会の催眠療法の医院。コンピュータ社会が進み、いろいろなところでパスワード入力が求められる時代。コンピュータの計算速度も向上したため、パスワードも多くの桁の複雑なものにしなければ簡単に破られてしまう。複雑にするあまり忘れてしまう人がかなり多くいる。この医院では、それらの人に催眠術をかけて、脳の深層部に記憶しているであろうパスワードを聞き出す、というサービスをおこなっている。
「この薬をお飲みになって横になってください。5分ほどで完全に睡眠状態になります。その状態でパスワードを聞き出しますので。」
「はい、よろしくお願いします。」
今日もまたパスワードを忘れてしまった青年がサービスを受けに来た。
医院のエヌ医師はいつものように手慣れた流れでパスワードを聞き出す。
「はい、あなたは目覚めます。」
「ううん、どうでした?わかりましたか?」
「いや、失敗してしまいました。申し訳ございません。料金は事務手数料だけで結構です。」
「まあ、ダメもとで来てますから大丈夫ですよ。」
「そういっていただけると助かります。」
青年は何の疑いもなく帰って行った。実は、エヌ医師はちゃんとパスワードを聞き出すのに成功していたのだ。それを知らせず、青年の口座からそのパスワードで引き出してしまう、というヤミの仕事をしている。全部引き出すとバレる可能性があるので、80%ほどはそのまま残す、という方法をとっている。今回も首尾よく、引き出すことができた。それをエヌ医師自身の口座へ移す。
「まあ、20万程度しかないがいいか。えーと、パスワード、パスワード、あれ?度忘れしてしまった。どうしよう。」



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