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メモリーイレーサー

ネット網が世界を駆け巡っている時代。人々たちのコミュニケーション手段も、リアルに直接、会って話すよりも友人同士のネットワーク内のメッセージ交換アプリで会話するほうが多くなってきている。ただ、デジタル画像はずっと残ってしまい、疎遠になってしまった人の写真やあまり写り映えがよくない画像などは消してしまいたい人も増えてきた。そこで、最近では、”揮発性画像・動画”でのやりとりが主流になりつつある。この技術は、受信した人がデジタルコンテンツを見れる時間が極端に短く、10秒ぐらいで消えてしまう、というものだ。

そんな世の中の動きの中で、実生活でもこの流れに乗った技術が生まれつつある。それが、「メモリーイレーサー」だ。その名のとおり、人の頭から”記憶を消す”というものだ。ただし、社会生活に必要な記憶はそのまま残り、自分の名前、住んでいる場所、その他、両親などの記憶は法律的に消せないようになっている。

この技術にはもちろん欠点もあるが、利点も数多くある。特に、冷めきってしまった夫婦間やカップルでのさまざまな争いが社会問題になっていたが、その解決にかなりの効果がある。結局のところ、最初はラブラブで熱い情熱があったとしても、ときが経つにつれ次第に慣れて、どんどん飽きてきて、しまいには冷え切ってしまう、という、いわゆる”法則”に近い経過を辿ってしまう例が多い。「メモリーイレーサー」を効率的に使えば、いつでも新鮮な出会い直後のような関係を続けることができ、効果てき面だ。

エヌ氏もこのイレーサーの利用者だ。ただ、結婚したことはないので、ちょっと付き合って、そろそろ飽きてきた頃かな、と思い始めたら、記憶をクリアして、また新しい出会いを探す、というような使いかたをしている。今回も、また例にもれず、イレーサーのお世話になった。そしてまた、新たなパートナー探しをして、ほどなく見つけた。今日は、その彼女が”初めて”自宅にくることになっている。

ん!?顔認証されないとエントランスが開かないはずなのに。エヌ氏は「まさか」とおもい、オートロックシステムの履歴をチェックしてみた。案の定、もう数年前から彼女は何度もこの部屋にきていたのだ。記憶は消せてもも、好き嫌いの嗜好までは消せないようだ。

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