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ながれてカエルの結ぶ #001 - 母子手帳

母は母子手帳にほとんど書込みをしなかった。
わたしの母子手帳は、古いはずなのに新品かと見まがうほどのキレイさで残っている。

中学だか高校だかの課題で、自分の過去を調べるというようなものがあった。わたしが自分の母子手帳を見たのはそのときだった。ほとんど何も書かれていなかったそれに、つまんねーなとため息をつきかけたそのとき、にわかには信じない記載があった。

それは8ヶ月のページだった。そこに書かれていたのがこんなメモだった。

うたう
・きんぎょ
・赤い花白い花

「きんぎょ」は「金魚の昼寝」という童謡。「赤い花白い花」は1970年にリリースされたフォークグループ『赤い鳥』の歌。後の1977年に、NHKの『みんなのうた』でも放送されている。

今となっては、わたしが本当に8ヶ月のときのこれを歌ったのか定かではないけれど、少なくとも2歳のときには、わたしは大人と遜色なく話すことができた。言葉が早かったのは確かなのだ。

最近知ったことなのだけれど、わたしはギフテッドらしい。本人に全く自覚がないので、だから何だとしか言えないのだけれど。

覚えている限りでは、3歳の時には体の仕組みを理解していた。これは絵本を読む前に、父が趣味で買った百科全集をわたしが読み潰していたからであると思う。5歳のときには、その百科全集の一部、わたしが何度も読み返した本たちは、ボロボロになりページが取れ落ちていた。
当時は特に魚と道路標識に興味があったようで、辞典のどこをも諳んじることができた。

それを考えると8ヶ月で歌い出したというこのメモは、ページ間違いではなかったようにも思えてくるものだから不思議だ。

何にせよ、常識的に考えて8ヶ月の赤ん坊が歌を歌うのはありえない。事実であれミスであれ、わたしの宿題は不発に終わったのだった。
なぜなら、それ以外の情報が書き込まれていなかったから。

母よ……

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