幸せは感染るもの

心に残る人がいます。アメリカ旅行の際に出会ったタクシー運転手です。

長い人生のなかでは、通りすがりに過ぎないくらい、わずかな時間を共有しただけの存在ですが、人生に大きく影響する言葉をくれた人。
その運転手はナイジェリアからの移民で、小さな子どもを持つお父さんでした。

私達はワシントンD.C.から、アーリントンまでの移動のため、ホテルに迎えにきた彼の車に乗ることになりました。メーターがついていないので、あらかじめ目的地を伝え、賃金の確認をしてから乗り込みました。

その運転手は、終始陽気でよく話をしました。自分の国のこと、どうしてアメリカに来たのかということ。その運命を不幸と思わず受け入れていること。家族のこと。どれだけ愛しているかということなど、ただの旅行者の私達にたくさんの話をしてくれました。もしかすると私達の恐れを感じとっていたのかもしれませんね。常に陽気に振る舞いながら楽しい旅にしてくれていました。

その短い時間のなかでのことです。話の展開は忘れてしまいましたが、彼が発した言葉がとても強く心に残っているのです。

楽しい気持ちはうつるんだよ。笑い病だよ。そして一度感染してしまったら、二度と治らないんだ。そうしたら次はあなたが誰かにそれをうつす番なんだ。そうやって、どんどん広がっていくんだよ。

アーリントンに着くまでに、私達はたくさん笑い、幸せな気分をたっぷりもらいました。そしてすっかり彼のことが大好きになりました。
そのお礼もしたくて、はじめに交渉をして決めた金額よりも、少し多めに運賃を手渡しました。

彼は、「これで何日か、家族で美味しい食事が出来る。」そう言ってとても喜びました。わたしは、彼の子ども達の喜ぶ姿を想像して、また幸せな気持ちになりました。

わたしはその時、確かに彼に楽しく幸せな気持ちをうつされたのだと思います。今思い出しても、心がほっこり温かになるのですから。
ですから、わたしのこの幸せな気持ちが、また誰かに感染していくとしたら、その一部はナイジェリア移民のタクシー運転手から伝わったものです。地球規模の幸せの伝染です。

想いの力はすごいです。そうやって、温かな気持ちが地球をどんどん覆っていけばいいのにな。と思っています。

誰かを排除することなく、自分だけを守ろうとするのではなく、分かち合い助け合う世の中であればいい。最近のコロナウイルスを巡るニュースを目にする度に思います。

そして、遠いアメリカの地で出会った、波乱の運命を受け入れ、貧しいなかでも心豊かに生きている、あのタクシー運転手を思い出すのです。

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