オレンジの三日月
シドニーのとある町のグループホームで、Disability Support worker として働いております。
写真のニャンコは、このグルホに住む紅一点のアビーです。
私のクライアントのみなさんは、精神障害をお持ちです。
先月、新しく入居してきたクライアントの、リチャード アンダーソンさん(仮名)
60代前半で、自閉症の持ち主。
普段はとても穏やかで、人なつこい笑顔を見せてくれる人。
動物、自然、植物をこよなく愛するリチャードさん。
毎日、グループホームの庭の植物に、幸せそうにお水をあげてます。
ある日の午後、
いつも通っている職員が病欠で、
その日は、グループホームの責任者と、派遣会社からの職員がシフトに入ってました。
初めてリチャードさんと会った派遣会社の職員。
リチャードさんに何も聞かずに、
「ハロー!ミスター アンダーソン!」
と、元気に挨拶。
派遣会社の職員が立ち去った後、リチャードさんは、グループホームの責任者にこう言ったそうです。
「彼、ボクの事を、ミスター アンダーソンって呼ぶんだよ。ボク、そう呼ばれるのが大嫌いなんだ。昔、そう呼ばれながらいじめられてた過去が蘇ってくるんだよ」
グループホームの責任者が、派遣会社の職員にそれを伝えようとした矢先、
タイミングがズレてしまい、
また、彼は、リチャードさんに向かって、
「ヘイ!ミスター アンダーソン!ランチは何を食べたいの?」
その瞬間でした。
リチャードさんが豹変したんです。
逆上したリチャードさん、
「そうか!そんなにやってほしいんだな!そんなにやってほしいのならば、やってやるよ!」
と叫びながら、
親指の爪を自分の額に深く突き刺さし、そのまま横にスライド。
リチャードさんの額から血が流れ出てきたそうです。
が、しかし、
一回の自傷行為では満足しなかった彼。
私が午後からの泊まりシフトでグループホームに到着した時、
リチャードさんの顔には3本のバンドエイドが貼られていました。
そんなリチャードさんですが、
その夜の11時ごろ、
ちょっと興奮気味にスタッフルームにいた私を訪ねてきた彼、
「ねぇ!庭に来てごらん!」
リチャードさんと一緒に庭に出ると、
リチャードさん、空を指差して、
「ほら!月が綺麗だよ!見てごらん!」
彼が指差している先にあったのは、
目を見張るほど美しいオレンジ色に輝く三日月でした。
穏やかで優しい笑顔を浮かべて月を眺めているリチャードさん。
2人でしばし月を眺めながら、
私の胸に「幸せ」という贈り物が舞い降りてきたかのような感覚に襲われました。
その贈り物は、決してお金では買えない、
色、形、重さ、匂いなどでは説明がつかない、
何か壮大なエネルギーを放つ贈り物でした。
リチャードさん、ありがとうね。