とある日のおにぎり弁当の記憶
−尾瀬から学んだこと−
「これ、食べなかったから捨てといて!」
とお客さんから手渡されたのは
〇〇小屋とわたしがアルバイトをしていた山小屋の
名前が書いてある包紙に包まれたおにぎりのお弁当。
”え?食べなかったの?”
そう、思いながらお客さんに視線を移すと
「他の山小屋さんでお昼食べたら食べられなくなっちゃって」
とその人は笑った。
”え?待って、それだったら最初から注文しなければ良いのに・・・”
と心の中でつぶやきながらわたしは泣きそうになった。
だって、そのおにぎりは
おかみさんが朝の5時前から
せっせと握っていたのをわたしは知っていたから。
この日わたしが4時過ぎに起きると
その時にはもう厨房に明かりがついていて
5時前に厨房の扉を開けると
すでにおにぎりをせっせと握っているおかみさんがいたのだ。
わたしが働いていた山小屋ではお弁当を注文できて
お昼のお弁当は朝食の時に一緒に渡していた。
お弁当の注文があるとおかみさんは
朝食の準備も行いながらおにぎりを握る。
わたしはおにぎり弁当を
「捨てといて!」とお客さんから渡されたその時、
このことを思い出していた。
と同時にふたつの気持ちが込み上げた。
お客さんに
おかみさんが早くからおにぎりを握っていたことを
言いたい気持ち
そしておかみさんに
そのおにぎりを見せたくない気持ち
おかみさんはでも、わたしの少し後ろにいて
お昼の軽食の準備をせっせと進めていた。
わたしが受け取ったお弁当を見ると
「あ、お弁当、食べなかったんだねー」
と気にも留めていないような声でわたしに話しかけてきた。
もしかしたらこんなこと、おかみさんは
もうたくさん経験してきてしまったのかもしれない。
そう思いながら
「もったいないですよね・・・」
とわたしは言葉をやっと口に出して
包みからおにぎりを取り出すと
生ごみ用のごみ箱に捨てた。
これはわたしが山小屋で初めて
アルバイトをしたときの出来事です。
こんなことはもうないだろうと思っていたのですが
意外にもこのあと何度か経験することになりました。
もったいないと思うなら、あなたが食べたら?
と思う方もいるかもしれません。
でも衛生管理をしっかりとしなければいけないので
お客さんの残り物をもったいないからと
食べたりはしないのです。
実際、”これ、手をつけてないからお姉さん食べて!”
と言われることもあります。
もちろん、悪気はないのだろうし
山で食材が貴重なことをわかっている方々が
気を遣って言ってくれているのかもしれない。
ただ、残り物はごみとして処理をされてしまう。
それは食材が貴重な山であっても、
衛生管理を徹底するために仕方のないことなんです。
だからと言って無理して食べてほしい、
と言いたいわけではありません。
たくさん歩いて、疲れ切って食べられないことだってあるし
想像以上に山小屋のご飯がたくさんでてきて
もうお腹いっぱいで食べられない・・・
ごめんなさい・・・
ということだってあると思います。
できる限り、大切にしよう。
それはもちろん山に限らず街の生活でも。
全ての食べ物、
そしてそれを作るために関わる人たちへの
感謝の気持ち。
大切に食べ物を食べていかなければと
強く思わされました。
そしてもし体調が悪かったりして
どうしても食べられなかったとしても
わたしは持ち帰れるお弁当は
家まで持ち帰ってごめんなさい
と言って捨てようと。
この”山小屋のおにぎり弁当”の記憶は
思い出すたびに心がずきっと痛む経験として
今も心に刻まれています。
※「尾瀬日和」としても情報発信をしていきますので、
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