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2024年・歩いてきた4ヶ月


霜の影響を受けずに済んだ純白の水芭蕉たち
小さなタテヤマリンドウ達も大活躍
ワタスゲが湿原を白く染め
ニッコウキスゲが尾瀬ヶ原に彩りを与え
キンコウカの群落まで見事にリレーを繋いだ

2024年は雪が少なかったためお花が咲かないのではないかという心配をよそに、水芭蕉、ワタスゲ、ニッコウキスゲ、キンコウカなど多くの植物が見事な大群落となり私を含め多くの登山者を楽しませてくれた。育まれ、大切に守られてきたこの大自然が喜びと感動を与えてくれた事は言うまでもない。素敵な景色をありがとう。この一言に尽きる。

上山して126日目を迎え、残す営業も残り僅か29日。
今日は4ヶ月の振り返りを。

◾山での再会
有り難い事に常連様や顔馴染みのお客様が小屋を訪れない日はなく、毎日「ただいま」・「おかえりなさい」と尾瀬で交わすその言葉はいつだって特別で心温まる瞬間でした。載せきれないほどの写真が私の写真フォルダを埋め尽くしており、見返す度に再会した時の喜びが蘇り、今日も私の活力となっています。沢山の手土産まで頂き、スタッフみんなで有り難く頂戴いたしました。

再会の写真

◾継続する食への妥協なき挑戦
レストランメニューの一新と宿泊者向けの夕食のブラッシュアップに挑戦した2024年。試行錯誤を繰り返してきた甲斐もあり、宿泊者の残飯は圧倒的に少なくなった。「美味しかったよ」と返ってくる皆さまからお声で食の満足度が高まった事を実感し、藍澤シェフと喜びを分かち合った。今後の挑戦は、宿泊者向けの料理を限りある設備の中でいかに熱々の状態で提供出来るかが私達の最終課題と考えている。既に2025年のメニューの開発に向け動き出しており、来年も変わらぬ期待を寄せていただきたい。

又、グルメ開発の傍らで捕獲、駆除した鹿を利活用する取り組みも本格的に模索しており、ジビエ協会の皆様とも明るいディスカッションを重ねている。美味しさだけでなく、尾瀬鹿の食害問題を追及する事は私たちの責任であると考えている。すぐに解決出来るほど簡単な問題ではないけれど、同じ志を持った仲間達と必ずゴールに辿り着けると信じている。

2024年のレストランメニュー

◾山でのイレギュラーやトラブルは付きもの
上山間もなく、働く予定の小屋スタッフが裏燧林道で負傷し離脱するトラブルから始まり、尾瀬小屋水源地の渇水や水不足。食材業者の倒産、大型冷凍庫・ボイラー・予約サーバーの破損と、トラブルは重なった。修繕費・空輸費の負担は大きく今年は苦難の連続だった。

加えて、7月中旬以降8月まで、毎週末発生する災害級の台風予報。悲しいかな、現地はずっと晴れていたが登山者の皆さんはキャンセルせざるを得ない状況だったに違いない。1500名近くのキャンセルは、荷上げした野菜など保存がきかない食材に大打撃を与え、腐らせてしまったり、食べきれずにゴミになったものも数えきれない。誰が悪いもない話なのだが、物資輸送の背景を考えると心穏やかな話ではなく、山岳業界にとっては苦しい夏だっただろう。被災された方々にはお見舞いを申し上げつつ、この先も台風による甚大な被害が発生しない事を切に願うばかりだ。

2021年大雨で冠水した尾瀬ヶ原

◼度重なる救助事案
転倒による足首骨折2件、頭部裂傷1件、足脛裂傷1件、
裏燧林道滑落1件、燧ヶ岳体力消耗3件、うちヘリコプター要請が3件。尾瀬小屋だけでもこの件数だったので、尾瀬全体では救助事案は多い一年となった。
尾瀬は平らな湿原をイメージする方も多く、安全な山と軽視されがちですが、雨に濡れた下りの木道や石段は難易度が格段に上がり転倒やケガのリスクはうんと高まる。
2,000mを越える山の上で行動不能になる事は命に関わる。もちろんケガをしたくてする人はいないのだが、ご自身の体力や経験を見誤ることで発生した救助案件は少なくなかった。救助した方の8割は登山計画をしておらず、ヘッドライトやエマージェンシーセットなども持参していない。危険な登山と判断せざる得ない状況だった。入山前の心構えや準備の啓発も我々の課題の1つだろう。

欠かせない仲間達

◾支えてくれたTetonBros.やガイド楽の存在
5月13日 尾瀬小屋に足を踏み入れるのは雪下ろし以来の事だった。小屋に到着してから真っ先に蘇る雪下ろしの思い出。当然だが全てがあの時のままで、無事に厳しい冬を皆で乗り越えたのだなと感慨深かった。

※雪下ろしの記事はこちら


雪下ろしのご縁で繋がった、TetonBros.と尾瀬小屋とのコラボシャツは、有難い事にほぼ完売御礼となった。歩荷さんもデザインがとても気に入ったようで、毎日のように着用してくれている。チャリティー型の商品となっており、例年尾瀬小屋から歩荷さんへお渡ししている支援金は大きく増加する見込みだ。歩荷さんを支えたいという想いに共感してくれたTetonBros.とだからなし得た一つの大きな取り組みだ。

何より嬉しいのは、常連様のウェアが「Teton化」している事だ。スタッフが着用しているウェアを見て、実際に触れたり試着したりする事でTetonBros.本来の高品質で高機能なウェアを実感し、素敵な連鎖が広がっている。来年も利用者にとって更に善き取り組みとなるようなチャレンジを重ねたい。
ガイドメンバー楽の皆さんも、尾瀬小屋にお客様を連れてきてくださったり、ヘリコプターの荷作り協力をいただいたりとシーズンを通して支えてもらっている。私はそんなTetonBros.・楽メンバー・檜枝岐村の皆さんに恩返し出来るような活動を継続していきたい。

5ヵ月を共にする仲間達と

◾恵まれた仲間
尾瀬小屋のチャレンジは間もなく4年目を終えようとしている。そのチャレンジの核には支えてくれている仲間達の存在が一番重要だった。今季はメンバーが大幅に変わったが、その中でも新しい挑戦を止める事はなかった為、新しいスタッフも教える側のスタッフも大変な苦労があったはず。

山の中に長くいると、嫌な事、辛い事も沢山あって、そのストレスを解放するのは難しい。目の前に大好きな山があっても行きたい時に登れる訳ではなく、公休の日であっても見たい景色に出会えるとは限らない。山小屋の宿命と言えば聞こえはいいが、中々それを消化するのは根気と器が必要なのだ。理想の山小屋に近づけているのは、私が凄いのではなく彼ら彼女らの人間力そのものが結集した結果なのです。

色んな想いを重ねながら過ごした4ヶ月は私にとってまた一つ大きな経験と糧となり、この先の財産となりました。残り1ヶ月、このメンバーでしか味わえない時間を大切に過ごしたいと思います。

◾私が見てきた景色
私が見てきた2024年の尾瀬の景色を少しだけお裾分け。尾瀬に来られた方もそうでない方も、写真を通して尾瀬を想ってくれたら嬉しいです。残り1ヶ月、お付き合いください。

雪解け間もない尾瀬ヶ原
至仏山に沈む満月
新緑へのリレー
満天の星空
ワタスゲ咲き誇る尾瀬ヶ原
ワタスゲロードをゆく歩荷さん
緑の美しい世界
Yahoo!ニュースにも掲載された伝説ショット
今年はニッコウキスゲも素晴らしかった
自然が生み出す朝焼けのコントラスト
何度も姿を見せてくれた幸運の白い虹
ピンクに染まった尾瀬ヶ原
オレンジに染まる尾瀬ヶ原
秋の入口

優しさの山。尾瀬。

尾瀬小屋
工藤友弘

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