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<映画の紹介>『タワーリング・インフェルノ』(75年)

映画オタク人生を決定づけた一本

 75年に日本で公開された映画です。この年は『タワーリング・インフェルノ』の他にスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』と、黒澤明監督の『七人の侍』のリバイバルが重なった年です。僕は中三でした。中一の頃から映画オタクになっていましたが、これらの映画で僕の映画オタク度はさらに高まり、人生を決定づけた年とも言えます。僕にとって中三はこの三本の映画の年として記憶されており、実生活で何があったかは全く覚えていません。

オールスターキャストのパニック超大作

 この映画はサンフランシスコに建造された世界一の超高層ビルで発生した火災を背景に、最上階のパーティに参加していた人々や消防士たちの苦闘を描くもので、オールスターキャストの大作です。ビルの設計士をポール・ニューマン、消防隊の隊長をスティーブ・マックイーンが演じる他、ウィリアム・ホールデン、フレッド・アステア、フェイ・ダナウェイ、ジェニファー・ジョーンズ、ロバート・ワグナー、リチャード・チェンバレン、ロバート・ヴォーン、O・J・シンプソンなどが出演しています。
 72年に『ポセイドン・アドベンチャー』がヒットしてから、いわゆる「パニック映画」が多く作られました。何か災害が起ってその中で生き延びようとする人々を描き、サスペンス、アクション、特撮、人間ドラマなど色々な要素が盛り込まれる大作が多いです。その中でもこの作品は最高峰といってもいい出来映えです。2時間45分という長さですが、全く長いと感じさせません。
 僕は劇場にこの映画を見に行ったとき、外に出ずに三回ぶっ続けで見ました(昔は映画館は入れ替えがなかったので、ずっといてもよかったのです)。その面白さは今見ても色あせてはいません。

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映画史上最高のオープニングタイトル

 この映画の見所は色々あります。まずはオープニングタイトル。ダグ(ポール・ニューマン)を乗せたヘリが海辺や山間を飛んでサンフランシスコの舞台となるビルに到着するまでの4分30秒の映像をバックに、ジョン・ウイリアムス作曲のメインタイトル曲が流れ、出演者やメインスタッフの名前が出て行きます。「さあ、この人たちが作った映画がこれから始まりますよ!」と作り手が堂々と宣言するような感じにワクワクさせられます。映像と音楽が見事にシンクロしていて、特にヘリが雲を抜けるとゴールデンゲート・ブリッジが見えてくるところは鳥肌ものです。僕はこれまで見た映画の中でこのオープニングタイトルが一番好きです。
 同じ年の『ジョーズ』でジョン・ウイリアムスは一気に有名になりましたが、この作品のメインタイトルも彼の傑作のひとつです。

見事に交通整理された脚本

 登場人物が非常に多く、しかも縦に長い超高層ビルの中を人物が行ったり来たりする話ですが、見ていて混乱することがなく、ダレるようなところもありません。出火するのが映画が始まってわずか12分というテンポのよさ。これは脚本のスターリング・シリファントの手腕でしょう。単に場面を整理するだけでなく、その中で居並ぶスターたちの見せ場を過不足なく描いて行くのは並大抵の作業ではなかったと思います。

CGのない時代の特撮

 この頃はまだCGがありませんから、特撮はミニチュアや合成が使われています。舞台となる高層ビルは高さ30メートルのミニチュアが作られました。ミニチュア特撮では水と火の見せ方が難しいとされており、この作品でもその限界は見えますが、それでも僕は最近のCG作品よりはこの映画の特撮の方が見ていて楽しいです。作り手のどうやってリアルさや迫力を出すかという生の苦心が感じられるからです。

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華やかな大作の楽しさ

 火事という悲惨なことが起こっているにも関わらず、この映画は華やかで上品な印象を残します。何というか「祝祭感」みたいなものが感じられるのです。多くのスターが出ていることもありますが、監督のジョン・ギラーミンの演出に嫌みやあざとさがなく、堂々としてヒューマニズムにあふれるタッチを貫いているからでしょう。
 同じ年の『ジョーズ』が今でも名作として有名なのに比べると、この映画はリアルタイムで見た人だけが覚えている過去の映画みたいになっています。オールスターと言っても今の若い人には知らない俳優ばかりであることが原因かもしれません。しかし見れば必ず「こんなずごい映画があったんだ」という感想を抱かせる作品だと思います。

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