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<映画の紹介>「長靴をはいた猫」

人生で始めて「熱狂」した映画

 69年公開の東映動画作品(監督・矢吹公郎)。当時東映動画の社員だった宮崎駿氏が原画スタッフとして参加しています。「東映まんがまつり」と銘打って他のアニメと一緒に上映され、小学校三年生だった僕は母親に連れられて見に行きました。

 僕は中学一年のときに「燃えよドラゴン」を見たのが映画オタクになったきっかけだったと色々なところに書いていますが、それ以前に始めて「熱狂」した映画がこの作品です。
 当時は夏休みや春休みに毎日のようにテレビでアニメ映画を放送しており、映画館で見た後もこの作品が作品がテレビで放送される度に見返しました。やがてテープレコーダーに映画全編の音だけを録音して、しょっちゅう聞いていました。家庭用のビデオがない時代なので音だけを保存するしかなかったのです。それを繰り返して聞いたのでセリフは今でもかなり覚えています。この映画はとにかくテンポがよく、一瞬もだれるところがありません(脚本は井上ひさしと山元護久)。今にして思えば、音声を繰り返し聞くことでセリフやストーリー展開のリズム感が頭にすり込まれ、それが後に脚本を書く上で力になっているのかもしれません。

主人公ピエールの変化

 原作はシャルル・ペローの童話です。猫のペロは、たまたま仲良くなった貧乏な少年ピエールを、王女ローザの婿にしようとします。ピエールを金持ちの侯爵に仕立てる計画はうまく行き、王様と姫に取り入ることに成功します。ところが姫は魔王ルシファにさらわれてしまいます。
 分析的に言えば、この映画の主人公は猫のペロではなくピエールです。前半、ペロは親切でピエールを姫と結婚させてやろうとします。この段階ではピエールは全くの受け身で、侯爵の振りをしていることにむしろ罪悪感を覚えています。「僕は侯爵なんかじゃない。ただの百姓の小せがれだ」と。しかし姫が魔王にさらわれたときには、自分で立ち上がろうとします。「姫……きっと助けに参ります」そうつぶやくとピエールは颯爽と白馬を飛ばし(いつ乗馬を習ったんだ)、魔王の城に向かうのです。この場面にペロはいません。ピエールが一人で立ち上がることを強調するためでしょう。ペロは慌ててピエールを追って魔王の城に向かいます。
 この後はピエールが主体となってペロと協力して姫を助け魔王を倒すという展開で、完全にピエールがヒーローとなって活躍します。改めて見ると、受け身だったピエールが自分で姫を助けようと立ち上がった瞬間がドラマ的に胆だなあと思います。

魔王の城の中での大アクション

 姫がさらわれるまでが50分、その後魔王の城を舞台にした活劇のクライマックスが30分。ピエールが立ち上がるところで観客は心をつかまれ、その後の30分間の冒険を、完全にピエールと同一化して見ることができます。ラスト近く、ピエールと姫は絶対絶命の危機に陥るのですが、このとき二人は愛し合う男女になっています。このあたりのエモーションの盛り上がりはすごいです。前半、弱っちいピエールに共感させて、そのピエールがヒーローに変身し、命をかけて姫を助けるという後半の展開に激しい高揚感を感じるのです。小学三年のとき以来僕はこのエモーションに心を奪われ、この映画を愛する気持ちはそれから半世紀以上変わっていません。

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「カリオストロの城」の原型

 宮崎駿氏がこの作品のどこを担当したかはわかりませんが、この30分のクライマックスでは、後の宮崎アニメに見られるエッセンスをいくつも見ることができます。魔王の城の複雑なデザインとその構造を生かしながら展開されるヒロインを助けるためのアクロバッチクなアクションは、まさにカリオストロの城の原型と言えます。

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