『【歌ってみた】オノマトペ【covered by 山神カルタ】』感想
本記事は、にじさんじに所属するライバーで見習い烏天狗の山神カルタさんが、6月20日に投稿した歌ってみた動画『【歌ってみた】オノマトペ【covered by 山神カルタ】』の感想記事です。
本記事は、歌ってみた動画の内容、様々な要素の説明、個人的な解釈を含みます。
恐れ多くも読んでいただけるなら、その前に必ず、歌ってみた動画の視聴をお願いします。
(下記、歌ってみた動画リンク)
最初に
この記事を書く際に、にじさんじwikiの山神カルタページ、配信アーカイブのタイムスタンプコメント、にじさんじコメント検索など、様々なサイトやコメントを参考にさせていただいています。
日々、wikiやWebページを編集・整備してくださっている方、配信アーカイブにタイムスタンプ付きコメントを残してくださっている方、本当にありがとうございます。
また、この記事に対する意見・苦情・批判・誤字脱字の指摘についてなど、何かありましたらコメントいただけますと幸いです。
初見時さっくり感想
プレミア公開後、自身のTwitterにて、このような感想を書きました。
今回の歌ってみた動画を初めて聴いた時、今までの歌ってみた動画とはまた違った歌い方で、今までよりも低い音域での歌声が強調されるような曲だ、と思いました。
個人的な話ですが、ボカロ曲やネット発のボーカリストやコンポーザーが関わる音楽にはめっぽう疎く、「今」流行っている曲を常にリサーチしているわけでもないので、『オノマトペ』という曲は今回初めて聴きました。
(普段、にじさんじライバーの歌枠を視聴していて、そこで初めて知る曲がとても多いです。)
その中でも、『オノマトペ』は今年の5月14日に公開されたばかりの曲だということで、前回の『花を唄う』の歌ってみた動画よりも、発案・制作・発表までのプロセスに更なるスピード感があるように感じられました。
歌ってみた動画の制作に関わったクリエイターの方々
今回の歌ってみた動画に関わったクリエイターの方々について、書いていきたいと思います。
イラストをご担当されたのは「てんてこ」さんです。
(以下、pixivページ・skebページ・告知ツイートへのリンク)
基本的に原曲MVに合わせた格好だとは思いますが、ショートカットの山神カルタの物憂げ・気だるげ・何かを思案するような表情が、歌詞やメロディーのローテンションな雰囲気によく合っている、と思いました。
後述しますが、背景には山神カルタに関する意匠が様々盛り込まれていて、細かく見れば見るほど趣が感じられ、とても楽しかったです。
また、素人目線からの感想なので違っていたら申し訳ないのですが、線の太さを巧みに使い分けていると思いました。
アップになっていることもあるかと思いますが、山神さん、背景の植物については比較的太い線で、一方、背景の建物は細い線で緻密に描かれている、と思いました。
意識的に、生物と非生物を描き分けているのでしょうか。
綺麗なイラストだと思ったので、Twitterのメディア欄に飛んで色々拝見させてもらっていると、今回の歌ってみた動画のイラストを描く上でぴったりな色づかいを得意としている方だ、という印象を受けました。
(以下、ツイートへのリンク)
明るいところと暗いところ、陰影の差がはっきりしていたり、ぱっと見て目に飛び込んでくるような、強いインパクトがある色づかいなど、惹かれるものがある、と思いました。
ぜひ、pixivページやTwitterのメディア欄を覗いてみてください。
映像をご担当されたのは、「しょうけい」さんです。
(以下、個人サイト・告知ツイートへのリンク)
歌詞やクレジットなどの文字の出し方、フォントの選定など、原曲MVに近い映像づくりでクオリティが高い、と思いました。
サビに入るところの「おのれおのれ」で「己」の字が画面の中心から渦を巻いて埋め尽くす演出や、フレーズ終わりに「壱」「苦」「嫌」「呆」など、漢字一文字が一瞬映る演出など、原曲MVを忠実に再現している、と思いました。
しょうけいさんは、企業勢・個人勢にかかわらず、Vtuberの歌ってみた動画の映像編集を数多くご担当されている方です。
個人HPに制作活動の経歴がずらっと並んでいますが、その中から、にじさんじライバーの歌ってみた動画に限って抜粋すると、
瀬戸美夜子の『ファンサ』
にじサガ(える、リゼ・ヘルエスタ、雪城眞尋、レヴィ・エリファ、相羽ういは、早瀬走)の『徒花ネクロマンシー』
元にじさんじゲーマーズ(叶、赤羽葉子、笹木咲、本間ひまわり、葛葉、魔界ノりりむ、椎名唯華、雪汝、闇夜乃モルル)の『Virtual to LIVE』
を、これまでに制作されているようです。
山神カルタに関わることだと、非公式のにじさんじ周年記念企画動画『【にじさんじ】3周年非公式ショートMV企画』にて、TVアニメ『氷菓』の二番目のOP『未完成ストライド』のメロディーに乗せて、最近コラボ名が決まった「みらるた」が、手を取り合って駆けているシーンの映像編集をご担当されています。
(以下、動画・告知ツイートへのリンク)
今回の歌ってみた動画のMIXを担当されたのは、個人勢Vtuberの「ぴろぱる」さんです。
(以下、YouTubeチャンネル・告知ツイートへのリンク)
Twitterのプロフィール欄にも「歌う書家です!VTuber個人勢!書道だけでなく、楽曲制作・MIX・映像制作・デザインも得意!」とあるように、音楽・映像・デザインとマルチな才能をもっていて、Vtuber界隈の中でクリエイターとして企業・個人の垣根を越えて幅広く活動されている方、という印象があります。
「書家」という肩書・自身の能力を活かした筆文字MV(歌ってみた動画)を、自身のチャンネルに数多く投稿されています。
また、にじさんじ内だけを見ても、舞元啓介・飛鳥ひな・町田ちま・黒井しばといった、にじさんじの中でも活動歴が長めの面々と、普段から密に交流している印象が個人的にあります。
上記で上げた以外のその他のにじさんじライバーや、個人勢Vtuber、RAB(リアルアキバボーイズ)など、数多くの音楽動画の制作に協力されています。
(以下、YouTube再生リストへのリンク)
『オノマトペ』とそれを制作されたクリエイターの方々
『オノマトペ』は羽生まゐごさんが作詞曲された曲で、2021年5月14日にYouTubeにて、『「オノマトペ」feat.りりあ。』という表題で発表された曲です。
(以下、YouTubeへのリンク)
羽生さんは、2015年からニコニコ動画・YouTubeにてボーカロイド楽曲を発表しているコンポーザーで、『阿吽のビーツ』を作った方、と言えば通じる人も多いのではないでしょうか。
(にじさんじでは、自身の歌枠では山神さん、弦月藤士郎、歌ってみた動画では緑仙が、この曲を歌っています。)
ざっと聴いてみたところ、制作された楽曲には和楽器のサウンドや和のモチーフを用いることが多く、独特で個性的で独特な雰囲気を感じられる楽曲が多い、という印象を受けました。
今までフリーランスで活動していらっしゃったようですが、この度トイズファクトリー内のレーベル「VIA」に所属され、そこで発足した「#羽生まゐご新プロジェクト」というプロジェクトの一曲目として発表されたのが『「オノマトペ」feat.りりあ。』です。
「VIA」について勝手に補足説明をすると、にじさんじ関連では月ノ美兎委員長の『アンチグラビティ・ガール』を作曲した、バンナムのイノタクさん(TAKU INOUE)がまさかのメジャーデビューということで、所属が決定したレーベルと同じところです。やば。
また、羽生さんのTikTokでは、後述しますが、「内田晟」さんのアニメーションを通じて、楽曲の制作風景を垣間見ることができます。
Vtuberに限らず、キャラクターアバターを使った表現・創作について、年々その認知度や評価は上がっているように感じられます。
(以下、ツイート・TikTokページへのリンク)
綿流しの日に投稿された『ひぐらしのなく頃に』の『you』の演奏、『オノマトペ』のボカロ版(仮歌用に制作されたもの?)、過去に発表した楽曲など、少しだけ聴くことができます。
羽生さんは、山神さんの歌ってみた動画告知ツイートに対して、好意的なリアクションをしてくれていました。
(以下、ツイートへのリンク)
歌ってみた動画に限らず、Vtuberが自身の名義で二次創作作品を発表することについて、原作者・作曲者に事前に連絡して楽曲の使用許諾をいただけたり、原曲・元作品へのリスペクトが認められたりなど、原作者・作曲者から好意的なリアクションを貰えることが、Vtuber界隈における様々な事例を見てきたリスナー・山神カルタの一人のファンの立場からしても、非常にありがたいことだ、と思うところです。
許諾を貰えなかったら、寛大な対応をされなかったら、ただのリスナーである私、私たちは、歌ってみた動画を見ることも聴くことも決して出来ませんから……。
楽曲タイトルに「feat.りりあ。」とあるように、Vocalを担当されたのは「りりあ。」さんです。
(以下、YouTubeチャンネル・TikTokページへのリンク)
りりあ。さんは、2019年10月からTikTokに、12月からはYouTubeにも、顔出しをせずに、アコースティックギターの弾き語り動画を投稿し始めた方です。
今回記事を書くために調べたことで初めて名前とその歌声を知ったのですが、透明感のある綺麗な歌声の方だ、という印象を受けました。
YouTubeとTikTokで若者からの支持・人気を誇っているらしく、その中でも『浮気されたけどまだ好きって曲。』というオリジナル楽曲の再生回数がとんでもないです。
なんと驚異の1000万回再生越え。やばい。
(以下、動画へのリンク)
また、羽生まゐごさんと同じトイズファクトリーのレーベル「VIA」に所属しているアーティストで、レーベル開設とともに一番最初に所属されたそうです。
話を『オノマトペ』に戻すと、この曲における、りりあ。さんの歌い方について、どのように表現したらいいのか、私にはよくわかりませんでした。
そもそも歌い方なのかMIXの具合によるものなのか、どんな用語を当てはめたら正しく表現できているのかがわかりませんが、平坦に歌うのではなく、時折鼻にかかったような発声になったり、音程が細かくぶれたり、喉を強く鳴らしたり、巻き舌が入ったり、注意深く聴くと平衡感覚が揺さぶられるような、心地よさと不気味さを行ったり来たりするような感覚に自然と陥るような、ただ「かっこいい」とか「美しい」だけではない、この楽曲の独特な雰囲気に合った歌い方だと思いました。
(めっちゃ褒めているつもりですが、そう見えなかったらすみません。)
めっちゃ耳がいい、というわけではないのでわかりませんが、ボーカルをいくつか重ねて、エコーがかかっているパートのボリュームを上げたり下げたりして、聴こえ方に違いを持たせて、揺らいでる感じを表現したりしているのでしょうか……?
『オノマトペ』以外の曲について、個人的には、歌が上手なお兄さん(めちゃくちゃすごい人)の「オーイシマサヨシ」さんの楽曲にも参加されていることを知って、ちょっとテンションがあがりました。
(以下、動画リンク)
最近は『news zero』にもご出演されたようで、メジャーシーンで今最も注目されている、新進気鋭の若手アーティストの一人なんだな、という印象を受けました。
(以下、ツイートへのリンク)
『オノマトペ』のイラストを担当されたのは「内田晟」さんです。
(以下、Instagramページ・ツイートへのリンク)
感情が一目でわかるような表情が豊かなキャラクター、細かい描きこみについ目が留まるような魅力的なイラストを描かれる方だ、と思いました。
女の子のキャラクターの目が、特にめっちゃかわいいと思いました。
前述しましたが、『オノマトペ』のMV以外にも、羽生さんのTikTokで見られる動画(楽曲制作風景)も制作されているようで、緻密な描きこみは必見です。
また、内田さんは過去に、オリジナルTVアニメ作品『デカダンス』の制作にも参加されているようで、担当されたカットの動画をツイートしていらっしゃいました。
(以下、ツイートへのリンク)
Twitterのメディア欄を覗くと魅力的なイラストの制作風景やアニメーションを見ることができて、おすすめです。
『オノマトペ』のLogotype(フォントデザイン)を担当されたのは「ZUMA」さんです。
(以下、tumblrへのリンク)
素人目線の感想で間違っていたら申し訳ないのですが、『オノマトペ』では、Aメロでは若干縦長の文字、Bメロ・サビでは大きくインパクトのある文字、漢字は時に線に丸みがあったりなかったり、色々なデザインが組み合わさっているように見受けられました。
ZUMAさんのTwitterのモーメントを覗いてみると、案件紹介ということで今まで関わってきた商業作品に関するツイートがまとめられていて、魅力的なデザイン・フォントをたくさん見ることができます。
理芽『食虫植物』、日向坂46『窓を開けなくても』、Eve『廻廻奇譚』などの制作にも参加されていて、驚きました。
(以下、ツイートへのリンク)
フォントについて本当に無知なので、それを一からデザインするのには制作の経験とセンスが問われるんだろうとか、また、楽曲に合うフォントを既存のものから選定する作業があるのかなとか、あることないことを想像することしかできませんが、ボーカロイド楽曲が流行り出した頃から、曲に合わせて歌詞をあの手この手の演出で映像に表示する演出がよく見られ、それがもはやメジャーになりつつある気がするので、Logotype(フォントデザイン)の仕事やそれが出来る能力の需要は必然的に高まっているのかもしれない、と思いました。
『「オノマトペ」feat.りりあ。』の個人的解釈・感想
原曲の個人的な解釈・感想を書いていきたいと思います。
そもそも「オノマトペ」とは何か、というと、「擬声語・擬態語」を包括して表す意味をもつフランス語です。
(以下、Weblio辞書へのリンク)
この曲中だと、サビの部分で使われている
へらへら、ドキドキ、ケタケタ、ぽろぽろ、ヒヤヒヤ、キラキラ、グルグル、フワフワ、シクシク、スカスカ、ゴシゴシ、キラキラ
が、オノマトペにあたります。
さて、歌詞を見てみると、独白している主体と、その主体が少なからず思いを寄せる「乙女」の存在が確認できます。
もう懲り懲りだ乙女の涙
更に歌詞を見ると、言葉づかいはネガティブでマイナスなイメージを想起させるワードが多く並んでいて、
しんどい、横暴、優柔不断、懲り懲り、往々にして表層的な凡庸、やかましい、いじらしい、仏の涙(も三度まで)、手遅れ、感動なんていらない、私がそんなに悪いの?、許さない、くだらない、戻れない、つまらない
主体と「乙女」が和やかに、いい雰囲気の会話をしているとは、到底思えません。
フレーズ終わりに一字ずつ差し込まれる漢字にも注目してみると、それらは明らかにネガティブな感情を表すものが多く、歌詞から読み取れる物語により一層暗い雰囲気を落とす効果がある、と思います。
苦、嫌、呆、諦、驚、怒、嫉
ただ、この漢字の演出には二つ、例外があります。
一つ目は、歌の最初に登場する漢字「壱」です。
こちらは「歌の一番」という意味の「壱」なのか、と思いましたが、二番に入った時に「弐」は出てきませんでした。
どちらかというと、「物語の一章」「ここからはじまり」という意味での「壱」なのかな、と個人的には解釈しました。
二つ目は、歌の一番が終わった後に登場する「喜」です。
個人的な感想ですが、この物語の文脈において、ポジティブな意味を表すことが多い「喜」の文字が登場することは、一見不自然に感じられました。
なぜ「喜」の文字が使われるかを想像してみると、
一番が終わった段階で、自分の感情の発露がある程度済んで、それに満足して、気が緩んで肩の荷が下りたような、ある種ホッとしたことによる「喜」?
だとか、このような感じになるのでしょうか。
また、一番が終わった後の「喜(ki)」なので、これから始まる二番の「弐(ni)」と韻を踏んでいる、みたいな説を言うことも、無理矢理こじつけようと思えばできるかもしれません。
さて、険悪な雰囲気を歌詞から読み取れる物語から感じつつ、個人的に一番気になったのは、サビ前の「おのれおのれ」です。
「おのれ」という言葉には、もはや日常的には使われない言葉、創作物の中や古文を学んでいる時に見るような言葉、というイメージが個人的にはあります。
現代においては、身分の高い人やその身分に応じてプライドが高い人が発する言葉で、相手に対する激情、何らかの強い感情を伴う場合に使われることが多いのかな、というざっくりとしたイメージがあります。
(Fateのギルガメッシュとか最たる例だと思います。「おのれ――――おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれ……!!!」)
(以下、Weblio辞書へのリンク)
MVでは「己」の文字が画面中心から渦を巻いて広がっていく演出になっていて、我慢していてもせき止めきれずにあふれ出してしまう強い感情、激情が発露するイメージを、視覚的にわかりやすく表現していると思いました。
ラスサビは特に、バイオレンスというかメンヘラというか、感情的な言葉で綴られていると思いました。
おのれおのれ シクシクしちゃって
つまらないわ スカスカな脳で
埋まらないわ ゴシゴシ削って
また会いましょう キラキラになって
なってなって
なって待ってね
「シクシクしちゃって」「つまらない」
そんな「スカスカな脳」が「埋まらない」
だから「ゴシゴシ削って」「キラキラになって」「また会いましょう」「待ってね」……
実際に、頭を削るとか脳を埋めるとかの、こういった行為をやりたいとか、決してそういうことではないとは思いますが、不気味さや激情の比喩を的確に言葉することができる、想像力の巧みさを感じました。
このように、歌詞だけを見ると険悪で怖い曲だ、というイメージが個人的には強かったです。
ただ、MVに登場するキャラクターの、不機嫌そうではありますが丸っこいデザインからは可愛さや愛らしさを感じられたり、サビの高音域のメロディーや転調の耳心地の良さもあり、何も刺激がない平易で中庸な雰囲気では決してなく、おどろおどろしい、恐ろしい・怖いというラインにはギリギリ届くか届かないか微妙なところのような、独特で絶妙な雰囲気が感じられる作品だ、と思いました。
また、歌詞の中で「キラキラ」というオノマトペが二度も使われていることにも、注目したいです。
2番サビ:「キラキラしちゃって」「くだらないわ」
ラスサビ:「また会いましょう」「キラキラになって」「なってなってなって待ってね」
2番のサビでは「キラキラ」している客体を「くだらない」と貶しているのに対して、ラスサビでは「キラキラになって」「待ってね」と自身の願望を語っています。
「キラキラになって」「待ってね」というのが、主体である自分が他人から見て「キラキラ」と輝いて見えるような人間になりたい、それまで待っていてほしい、という自己実現の願望を語っているのか、客体に対して今まで以上にもっと「キラキラ」する人間になって私のことを待っていてほしい、という、憎まれ口を叩くような苦し紛れの言葉を述べているのか、どちらにも解釈できそうだと思いました。
ラスサビ後、MVの最後に現れる漢字が、
喜、怒、哀、苦
で、「喜怒哀楽」の「楽」が「苦」に変わっています。
この歌詞の中でずっと独白している主体は、自分の心をかき乱す客体の「乙女」に対して、小さい子どもの恋愛感情のような愛情の裏返しなのかわかりませんが、徹底的にネガティブな態度を取り続けてしまうんだろうな、と思います。
主体が「乙女」との関わりの中で、いくら「喜」んで「怒」って「哀」しんだとしても決して「楽」にはなれず、自分と自分を取り巻く周りの状況に対して「苦」しい気持ちでい続けることしかできない、自分を「苦」しめるような態度しかとれない、そんな歪んだ性格の主体について『オノマトペ』の歌詞の物語は表現している、と思いました。
羽生さんは『オノマトペ』について、ニュースサイトを通じて以下のようにコメントされていました。
そちらのコメントを引用させていただいて、個人的な楽曲の解釈・感想を書くのは終わりにしようと思います。
オノマトペは人間関係の喜怒哀楽を歌った曲です。日常に溢れる葛藤に説明をつけ続けたら、いったいどんな音がするんだろうと思い作りました。
りりあ。さんをボーカルにお招きしたことで酸いも甘いも人間味溢れる曲ができたと思います。僕らの音をぜひ聴いてみてください。
(音楽ナタリーより、以下リンク)
歌ってみた動画の原曲リスペクト要素
山神さんの歌ってみた動画を視聴して感じられた、原曲へのリスペクト要素について、書いていこうと思います。
動画のイラスト・演出に関するところは、パッと見て非常にわかりやすいところだと思います。
全体的な色づかい、キャラクターの表情や構図、背景枠や文字演出の枠、文字のフォントなども、極力原曲MVのそれに寄せているのがわかると思います。
てんてこさん、しょうけいさん、ぴろぱるさん、クリエイターさんそれぞれの技術の高さが感じられるようです。
山神さんの歌い方については、選曲にもよるとは思いますが、普段の歌枠では割と可愛らしい歌い方が聴けたり、今までの歌ってみた動画では感情をたくさん込めてまっすぐ歌い上げることが多いイメージがありました。
りりあ。さんが巻き舌をしたり喉を強く鳴らした歌い方をしているのに対して、それよりかは素直でまっすぐな歌い方だと思いました。
どちらがいいとか悪いとかで優劣をつけようとか、そういう意図は全くありません。
山神さんはしゃくりやビブラートのような、歌唱技術を細かくたくさん入れるタイプの歌い方はしない、という印象が個人的にはあります。
いつも通りにストレートでまっすぐな歌い方がベースにありながらも、曲のメロディー、りりあ。さんの歌声・歌い方、全体的な曲の雰囲気を踏まえて、それに合わせて声色・トーンを変えて歌っているように聴こえました。
特にサビ入りの「おのれおのれ」の部分は、山神さんもこだわって録っていたようで、配信でそのことを話してくれていました。
(以下、配信アーカイブへのリンク)
2分19秒~歌ってみた動画について話してくれているので、ぜひ、山神さんの話を聞いてみてください。
注意深く聴いてみたところ、そもそも「私をこんなにしたのに ~ へらへらしちゃって」まで一息で歌ってるように聴こえて、これめっちゃすごくない???と思いました。
山神カルタのカバーならではのオリジナル要素
ここからは、山神カルタの歌ってみた動画オリジナルの要素について、書いていきたいと思います。
まずは、動画を再生した際にぱっと目に入る、背景の一枚絵に注目したいです。
基本的な色づかいは同じとはいえ、描かれている景物や建物の細部に注目すると、原曲MVのものとはかなり違っていることがわかります。
原曲MVでは、
・軒先に洗濯物を干している家屋が数軒
・「おでん」と書かれた看板を掲げる家屋
・「貝凪(?)」と書かれた看板を掲げる家屋
・「西脳珈琲」と書かれた看板を掲げる家屋
・「あたかも」と書かれたのれんを掲げる家屋
・踏切の遮断機
が描かれています。
対して、山神さんの歌ってみた動画では、
・画面左上・右下に、白い花びらと黄色い雄しべ・雌しべを持つ花、円が重なった模様、切り込みが入っている円形の何か
・葉が垂れ下がっている木
・鳥居とそこにとまる鳥(シルエット?)
・階段
・クリームソーダの絵が描かれた看板を掲げる家屋(店先にメニュー看板と観葉植物)
・「姫」という漢字と、天の川、星マークが描かれている看板、及び彼岸花が描かれた看板を掲げる家屋(軒下にときんちゃん)
が描かれています。
これらの要素について一つ一つ見ていこうと思います。
イラストの左上・右下に描かれている諸々について、白い花びらと黄色い雄しべと雌しべの花を咲かせ、円に切り込みが入っている葉を持ち、水面に水滴が落ちた時や、水面に浮かぶものが動いた時に見える模様である水紋のように見える丸が重なった模様がある、ということを考えると、描かれている植物は「睡蓮」だとわかります。
睡蓮は7月に最盛期を迎える夏の花で、その花は夕方になると閉じ、朝になると開くという性質をもち、その花言葉は
「清純な心」「信頼」「信仰」
だそうです。
(以下、参考Webページへのリンク)
この花言葉について、パッと見て歌詞の内容と割と真逆だ、という印象がありました。
歌詞の物語の中で主体は延々とヘラって当たり散らすように独白しているので、この花言葉が主体のことを表している、と解釈するよりは、その主体に「どうしてそんなに優しいの」と評される客体、「清純な心」を持つ「乙女」をのことを表現した「睡蓮」である、と解釈する方が筋が通る、と個人的には思います。
花言葉「信頼」についてですが、歌詞にある「私をこんなにしたのに」「私がそんなに悪いの?」「許さない」みたいなところからは、「信頼」とは全く逆の「裏切り・失望」のような、落胆して憤慨する気持ちが感じられます。
花言葉「信仰」については、私の想像力や知識が足りないだけかもしれませんが、その意味をとりわけ強調する意味は見出せませんでした。
蛇足かもしれませんが少し調べてみたところ、睡蓮はエジプトの国花で、古くからアクセサリーに用いられたり壁画に描かれる重要なモチーフでもあるそうで、一方では近似するその植生によって、仏教における重要なモチーフである「蓮(=蓮華)」と混同されることもままあるようで、それらの事情によって「信仰」の意味があてられているのかもしれない、と思いました。
(英単語の「Lotus」は一般的に蓮と訳されますが、エジプトにおいては蓮ではなく睡蓮のことを指すそうです。)
イラスト左側に描かれている木は、枝から葉が地面に対して垂直に垂れ下がっているので「柳」だとわかります。
柳には幽霊、というイメージが個人的にはありました。
ネットでざっと調べただけですが、これは江戸時代の奇談集『絵本百物語』に登場する「柳女」という怪異によるところが大きいのかな、と思いました。
(以下、Wikipediaへのリンク)
怪異小説を書かせたら日本最高峰(と個人的に思っている)の京極夏彦先生も、著書『巷説百物語』で、この「柳女」を題材にして物語を書かれています。
このような柳にまつわるイメージは、『オノマトペ』の曲の雰囲気にも非常に合っていると個人的に思います。
また、幽霊も広く言ってしまえば人間とは根本的に異なる未知の存在、怪異と呼ばれるものであり、柳は、怪異の一部である妖怪、烏天狗の山神カルタにぴったりなモチーフだ、と思います。
鳥居にとまっている鳥も、これが烏天狗である山神カルタの歌ってみた動画ということを考えると、これは明らかに「カラス」だと思います。
「階段」が描かれていることについて、原曲MVのイラストの家屋の見え方からして、急こう配の土地に並び建つ住宅街を描いていることがわかるので、階段を描くことでそれをオマージュして勾配がある土地を表現している、とも見て取れるし、また、入口に鳥居があってその先に本殿へ続く階段がある、という神社は現実にも数多く存在しているので、よくある風景としても自然に受け止められる、と思います。
山神カルタの「山神」という苗字からは、「山(急こう配の土地)」+「神(鳥居・神社)」というイメージを膨らませることができます。
「山」という土地と「神」が存在する場所、この二つを繋ぐ要素である「階段」が描かれることは、山神カルタの歌ってみた動画における表現としてまさにぴったりだ、と個人的には思います。
クリームソーダの絵が描かれた看板を掲げる家屋は、店先にメニュー看板と観葉植物があり、「喫茶店」かなと思いました。
そして、何でも無理矢理こじつけようとする厄介で悪いオタクは、織姫星の歌ってみた動画、『きらめきカフェタイム』を思い出しました。
「喫茶店」の隣の家屋には、「姫」という漢字と、天の川、星マークが描かれている、星マークが書かれた看板が掲げられています。
言わずもがな、これは「織姫星」のことでしょう。
また、「織姫星」看板の下には「彼岸花」が描かれた看板も掲げられていることがわかります。
彼岸花は山神さんの初めての歌ってみた動画『ヨヒラ』にも描かれた植物だったりして、私たち人間とは異なる長命の種である烏天狗だからこそ、生と死、命について想起させる景物・モチーフとの相性がめっぽういい、ということを改めて認識するようでした。
そして、店先にいる「ときんちゃん」、とてもかわいいです。
次に、原曲MVのキャラクター、歌ってみた動画に登場する山神さんについて見ていきたいと思います。
原曲MV、歌ってみた動画共に、表情や構図はおおむね同じだったと思います。
身に着けている衣装について、襟の形やボタンの数など細かいデザインに違いが見られるものの、どちらも白シャツに青緑色のコートを着ていますが、ただ一点、山神さんは赤いリボンタイをしているところが、原曲MVと明確に異なる点だと思いました。
赤いリボンタイはコートの色や山神さんの髪色に映えてよく似合っている、と個人的には思いました。
山神さんの通常衣装のように、差し色としての赤色や、ときんちゃんの色を意識していたりするのでしょうか。
ざっと見てきましたが、特にイラストについて、色々なところに山神カルタだからこその表現が数多く見受けられました。
自身の属性を活かすものから周囲の関係性を絡めているものまで、「山神カルタの歌ってみた動画」としてのオリジナリティがたくさん感じられるように、様々な工夫と発想がなされていると思いました。
最後に
最初の方にも書きましたが、今回の歌ってみた動画では、制作を決めてから実際の制作作業に取り掛かるまでの行動の早さ、迅速な判断と行動力を感じました。
同僚のにじさんじライバーでありながら、今までほとんど交流がなかった叶さんが、自身のTwitterで今回の山神さんの歌ってみた動画に反応していたりして、個人的にびっくりしました。
(以下、ツイートへのリンク)
歌ってみた動画に「今流行っている曲」を選曲することによって、自分のことをまだ知らない人や、新しい客層へ効果的なアピールができる、と個人的には思います。
というか、山神さんにとって一番身近なにじさんじ内から、その中でもほとんど交流がない同僚ライバーからリアクションが起きているということが、にじさんじ内外を問わず新しい客層に確実にリーチできていることの証左だ、と言えるのではないでしょうか。
歌ってみた動画公開後の雑談配信によると、
「(原曲が)出て、二日目くらいに聴いて、めちゃめちゃこれ歌いて~!ってなって、で、歌って大丈夫ですよ、ってOKいただいて、歌わせていただいたんですけど…… 」
と、山神さんは言っていたので、「この曲を歌いたい」という気持ちが自ずと沸きあがってきたからこそ、スピード感ある制作になったんだろう、と思いました。
義務感からではなく、内から湧き上がるモチベーションにしたがって、高い熱量を持って創作活動・制作をすることができるのって、本当に素晴らしいことだな、と思います。
『オノマトペ』という曲には、鬱屈としていて、歪んでいて、一人で抱えるには荷が重いような、強い感情・激情のイメージが描かれている、と思いました。
それは、烏天狗という人間とは全く違う別種の存在でありながら、その内に抱える感情は人間よりも人間的で、普段のソロ配信でも誰かと関わるときでも、感情が溢れがちな山神カルタの多彩なパーソナリティ、その中の一側面、共依存、重い女、めんどくさい女、みたいなところに非常にぴったりだった、と個人的には思います。
今までの歌ってみた動画でフォーカスしてきたイメージとはまた違うイメージを感じられて、とても良かったです。
山神さんの歌ってみた動画はいつも細かく観察すればするほど考えを巡らせることができる作りになっていて、毎回発表されるたびに、本当に楽しませてもらっています。
この記事が、突飛な発想だという価値しかない思い付きや、筋の通らない解釈を振り回すだけの迷惑行為になっていないといいのですが……と思いながら、この記事を終わりたいと思います。
次回の歌ってみた動画も楽しみにしています。
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