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あなたが食べているのは、本当の家系ラーメンですか?

昨今、派手な赤い看板にうるさく「横浜家系ラーメン」と書かれたラーメン店をよくみかけます。そこまで言うのなら、と店に入ってラーメンを食べてみました。
しかし驚いたことにそれは、筆者が思い描いていた「家系ラーメン」とは大きくかけ離れたものでした。

※味の話ですから、主観的な内容であることをご理解ください。


筆者が思う「本当の家系ラーメン」とは

吉村家を原点とする家系ラーメンが食べられるのは、横浜市内か神奈川県、千葉県など、原則として横浜市周辺に限られていました。そこで全国に家系ラーメンの名を広めたのが、飲食業の企業資本によってチェーン展開された家系ラーメン店群です。

店の展開の仕方から見て、家系ラーメンは大きく分けて2つの種類に分類されます。

1つ目は個人経営のお店です。吉村家の流れを汲むものもあれば、独自の家系ラーメンを作り上げ開業したものもあります。
2つ目は飲食業の企業がチェーン展開しているお店です。フランチャイズ展開されているものも含みます。以降これを「資本の家系」と呼びます。
冒頭に登場した「横浜家系ラーメン」のお店も、結論から言うと「資本の家系」でした。

筆者が思う「本当の家系ラーメン」は、個人経営であることが大前提です。チェーン展開された家系ラーメン屋の味は画一的で、スープも麺も具も、人生をかけて修行をしてきた個人経営のお店と比べてしまうとクオリティが高いとは言えないからです。

個人経営かつ、美味しい家系ラーメン=「本当の家系ラーメン」を是非見つけてほしいのです。


「まんぷく家」の悲哀

愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組YouTuber「東海オンエア」の投稿する動画内に度々「まんぷく家」という家系ラーメン屋が登場します。

彼らの投稿する動画内において、このまんぷく家を食すことが、あろうことか罰ゲームのような扱いを受けています。

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(引用:【じゃんけんが全て】第1回 サバイバルしりとり晩御飯!)

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(引用:【じゃんけんが全て】第1回 サバイバルしりとり晩御飯!)

曰く「おいしいが、食べた後二度といらないと思う」ので、体を張る芸風が特徴の彼らにとって罰ゲーム的立ち位置となってしまっているようです。

醤油のキレと豚骨のコクや鶏ガラの旨味が特徴である家系ラーメンの食後感は、本当にこんなものでしょうか?
まして濃い味に慣れているはずの愛知県民から、家系ラーメンの感想としてこのようなものが飛び出すとは考えにくいのです。

そして、このまんぷく家、気になる箇所がいくつかあります。
なお、筆者はまんぷく家を訪れたことはなく、YouTubeの動画や公式ホームページを基にして執筆しています。ご了承ください。

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(引用:【じゃんけんが全て】第1回 サバイバルしりとり晩御飯!)

こちらは「特製ラーメン(950円)」です。うずらがのっています。

また、特製ラーメンという全部乗せ系ラーメンのトッピングが海苔5枚、チャーシュー3枚、味玉1つとなっているようです。画像からはわかりづらいですが、お品書きによるとほうれん草も増されているようです。

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(引用:【遂に】夢にまで見た地元ラーメン店へ…)

こちらのまんぷく家の内装のスクリーンショットでは、壁にスープや麺などにいかにこだわっているかが毛筆書体で書かれていることが確認できます。


何かに似ている

・町田商店

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(引用:横浜家系ラーメン、町田商店のMAXラーメン)

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(引用:IDEAL 施工 町田商店 城山店)

こちらは株式会社GIFTによる家系ラーメンチェーン、町田商店のMAXラーメンと店舗の内装の画像です。

ラーメンでは、スープの色、具の数などがまんぷく家と酷似しています。公式ホームページでは、海苔6枚、チャーシュー3枚、味玉1つのトッピングとなっていることがわかります。これは後述する壱角家と全く同じ内容です。

内装では、麺へのこだわり「家系最高」など、よくある「チェーン展開された家系」にありがちな文言が店内に並びます。また、やたらカラフルでデカいパネルであるなど、個人経営ではコストがかかりすぎてここまでできないだろうというレベルの内装であることが多いのも資本の家系の特徴です。

・壱角家

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(引用:壱角家「MAXラーメン」を食す(上福岡))

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(引用:【溝の口】壱角家 ラーメンをカスタマイズしてお好みの味に!)

こちらは株式会社Gardenによる家系ラーメンチェーン、壱角家のMAXラーメンと店舗の内装の画像です。

ラーメンは、具も含めほぼまんぷく家や町田商店と同じといってよいでしょう。特に言及すべき点はありません。

内装では、まんぷく家、町田商店と同じような書体で大きく麺へのこだわりが書かれています。

これらのことから、まんぷく家は「個人経営のラーメン屋」ではなく、「チェーン展開されたラーメン屋」=「資本の家系」であると推測することができます。

この他にも、「資本の家系」と目される家系ラーメン屋は数えきれないほどあります。今回は代表例として町田商店と壱角家をご紹介しました。

絶大なチャンネル登録者数を誇る東海オンエアだからこそ、家系ラーメンに対する誤った認識を広げてしまうのではないかと危惧しています。


「資本の家系」の何が問題か

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(引用:【じゃんけんが全て】第1回 サバイバルしりとり晩御飯!)

これらの「資本の家系」のお店の多くは、あえて「家系ラーメン」ではなく「横浜家系ラーメン」と名乗っていることが多く、その看板を背負って全国的に展開しています。

しかし、これらの「資本の家系」で提供されている家系ラーメンは、吉村家を原点とする本家本元の家系ラーメンの味からは大きく乖離しています。
具体的には、豚骨の味がかなり強く、醤油の風味や鶏ガラの旨味などがほとんど感じられません。家系ラーメンではなくほぼ豚骨ラーメンです。比べるのも失礼ですが、強いて言えば、家系の中でもいわゆる壱系と呼ばれる亜流に近い味です。

「資本の家系」では「横浜とんこつラーメン」として看板やメニューなどに掲示されている場合もあり、これも家系ラーメンと「資本の家系」のラーメンを混同させてしまう一因なのではないかと感じています。本当の家系ラーメンは豚骨ラーメンではありません。

その亜流の味、本家の家系ラーメンとは似ても似つかない味を、「横浜家系ラーメン」の看板を背負わせて日本全国、ひいては海外に輸出してしまっていいのか?家系ラーメンの祖であり、原点である吉村家の立場はどうなるのか?というところが、筆者が危惧している最大の問題点です。

味の好みの話でもありますから、どちらが優れているか決着をつけたいわけではありません。ただ、こうした「資本の家系」の味を「家系ラーメン」と認識し、「本当の家系ラーメン」を知らないまま人生を送ってほしくないのです。


本当の家系ラーメンとは

日本と海外合わせて家系が2000軒ある中で、3分の1が缶詰、3分の1はガラとかチャーシューが輸入もの、残りがまともにやっている。良い若い衆がいなくなったな

とは、吉村家の生みの親であり、一代で家系ラーメンを築き上げた吉村実氏の言葉です。

インタビュー全編は下記のリンクからご覧ください。

この「残り」=「本当の家系ラーメン」を見抜くのが本記事の最大の目的になります。

見抜く上での最大のヒントは「スープ」「麺」「具」です。

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(吉村家 ラーメン 720円 筆者撮影)

・スープ
吉村家のスープは、もちろん毎日お店で炊かれています。提供されるラーメンは醤油と豚骨のバランスが完璧で、鶏ガラの旨味もあり、しっかりと鶏油も層を作っています。醤油のキレが生きている分後味もよく、保存料なども無添加であることから、嫌な後味も残りません。食後に「二度と来ねえ」という感想は生まれづらいと考えられます。
吉村家に限らず、個人経営のお店では自前でスープを炊いています。客席からスープを炊く大きな寸胴鍋が見えるのが特徴です。
醤油や豚骨、鶏ガラやその他出汁の出方のバランスがお店によって全然違うのも、家系ラーメンの面白いところです。

・麺
吉村家をはじめ多くの家系ラーメンを支える酒井製麺の麺も、スープとよく絡むし、麺自体も歯ごたえがあり非常に美味しいです。同じ酒井製麺でも、店舗によって麺の仕様が違うこともありました。
こちらもスープとは別のお湯の入った寸胴鍋で茹で、テボではなく平ザルで湯切りを行うのが特徴的です。
正直「酒井製麺」の名前だけで十分なので、「資本の家系」の特注太麺だとか、低加水麺だとか、知ったこっちゃないのです。
もちろん酒井製麺でなくともおいしい家系ラーメンはあります。しかし酒井製麺であれば、美味しい家系ラーメンを提供している可能性が非常に高いです。

・具
至ってシンプルです。パリパリの海苔3枚、シャキシャキのほうれん草、チャーシューのみ。チャーシューは、燻製が効いているものから豚の旨味を活かしたものまで様々あります。
ネギは散らされている程度で、いいアクセントになります。メニューで一番安いラーメンでは味玉やうずらが乗っているところはほとんどありません。


このように、醤油のキレ、豚骨のコクや鶏ガラの旨味がしっかり生きている上に、酒井製麺の麺を使っていれば、そこはほぼ間違いなく個人経営のお店でしょう。
パリパリの海苔、歯ごたえのあるほうれん草を使っているかも、具に妥協していないかを見分ける大事なポイントです。

これらの条件を満たしていれば、美味しい、「本当の家系ラーメン」、吉村実氏が言うところの「まともにやっている1/3」と呼ぶことができると筆者は考えます。

ですが、吉村家から免許皆伝を受けている「杉田家」「杉田家 千葉店」「厚木家」などを除いて「個人経営かどうか」「おいしいかどうか」を食べる前に見抜くのは至難の業と言えます。

そこで利用するのが消去法です。個人経営かどうかを見抜くのが難しいなら、「資本の家系」を見分ける目を涵養しましよう。


「資本の家系」の4つの傾向

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(引用:JOBLIST 横浜家系ラーメン 大森家)

①「横浜家系ラーメン」と、赤や黒の毛筆書体で派手に看板が飾られている
基本的なチェーン店の特徴です。外見で判断する際には一番参考になるかと思います。最近では黄色のものもありますので、色以外の他の特徴にも注意してください。
「〇〇家」より「横浜家系ラーメン」のほうが大きく書かれていたら、家系ラーメンの名を利用したチェーン店である可能性がより高いです。

②メニューの数が多く、二郎系ラーメンや油そば、スタミナ丼なども提供している
店でスープを炊いているお店は、基本的にここまで多様なメニューに対応する余裕がありません。メニューはラーメンのみで、トッピングでバリエーションを出すケースが多いです。

③麺やスープへのこだわりが毛筆書体で店内に所狭しと書かれている
個人経営のお店の内装はシンプルなことが多いです。カラフルで大きいパネルを制作するのはお金がかかりますし、個人経営のお店はなるべくラーメン以外にかかるコストを削減するものと推測されます。

④スタンプカードがあり、スタンプを10個集めるとラーメンが1杯無料になる
常に10%還元を行うポイントカードを発行しているのと同じです。そんなことができるのは家電量販店くらいで、個人経営のラーメン店の利益率ではそのような余裕はないと推測されます。


まとめ

基本的に上記4つの傾向を避ければ、入ったラーメン屋が「資本の家系」だった、ということはまずないでしょう。
いまは食べログなどで店内の様子や券売機なども確認できるので、そういった手段を用いるのも非常に有効です。

また、「本当の家系ラーメンとは」で紹介した

このように、醤油のキレ、豚骨のコクや鶏ガラの旨味がしっかり生きている上に、酒井製麺の麺を使っていれば、そこはほぼ間違いなく個人経営のお店でしょう。
パリパリの海苔、歯ごたえのあるほうれん草を使っているかも、具に妥協していないかを見分ける大事なポイントです。

醤油、豚骨、その他出汁、酒井製麺、具、これらの「まともにやっている1/3」を見抜くポイントに気を付けながら、自分の好きな個人経営の家系ラーメンのお店を見つけてほしいと思います。
「個人経営だが美味しいかどうか」、こればっかりは外見からは判断できない上、味の好みの問題でもあるので、お店に入ってラーメンを食べてもらうしかありませんが……。

筆者の好きな家系ラーメンでも、醤油が強いところ、鶏ガラが強いところ、酒井製麺の麺を使っていないところなど、すべての条件が揃っているところは少ないです。
吉村家を基準に家系ラーメンを考えているので当然といえば当然ですが、すべてが完璧なのは吉村家くらいではないかと思います。

吉村家に行ったことがない人はまず吉村家に行ってみてください。話はそれからだ。


最後に

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(町田商店 MAXラーメン 950円 筆者撮影)

誤解のないように言っておくと、筆者は町田商店が大好きです。町田商店が本当の家系ラーメンかどうかはさておき、単純にラーメンとして好きです。町田商店横浜駅前店に通いつめ、ゴールドカードも取得しました。MAXラーメンにタマネギを乗せまくったものとライスをよく食べていました。

また、町田商店を運営する株式会社GIFTが最近出店を進めている二郎系ラーメンチェーン「ラーメン豚山」も非常にクオリティが高く、よく食べています。チェーン店とはいえ、株式会社GIFTは比較的真摯にラーメン作りに取り組んでいることが分かった気がします。

ちなみに壱角家は嫌いです。どの店舗かは明言しませんが、スープがぬるい状態で提供されてから二度と行かなくなりました。


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