見出し画像

エッセイ「最後の晩餐の話」

二人の明智さん

最近、「美食探偵」というドラマを見ています。放送中のドラマを連続して見ることなんて、山田太郎ものがたり(2007年)以来かもしれません。

昨年、浜辺美波さんや神木隆之介さん、中村倫也さんが主要キャストで出演していた「屍人荘の殺人」という映画があり、奇人変人推理ものが好きな僕としては、個人的にはたいへん面白く鑑賞させていただきました。(その後、原作も読ませていただきましたが、登場人物たちのあまりの常識人ぶりに仰天しました(笑))

その中で、中村倫也さんが演じる自称・ホームズの大学生が明智というキャラクターなのですが、「美食探偵」で中村さんの演じる美食家探偵も明智という名前なのです。「屍人荘の殺人」と「美食探偵」とで平行世界の『探偵・明智』を見ているようで、愉快な気持ちになるので、ドラマの方(?)も楽しく見させてもらっています。

また、僕は食べるのが好きで、食をテーマに旅をするくらいなので、ドラマの中で美味しそうな食事が出てくるのを見るのも楽しく、それもあって久しぶりにドラマを継続して見ているという運びになります。

「美食探偵」の明智さんは美味しいものを食べるたびに「悪くない」と言い(どうやらこれは明智さんにとっては相当上位の褒め言葉のようです)「最後の晩餐候補に入れるメニューがまた増えた」と頷くのが恒例になっています。

僕は「突然ですが、君の命は明日でなくなります」と言われたら、最後の食事に何を摂るだろうか?と、いうことを常々考えながら食事をしているわけではありません。

が、そうした状況に置かれたとき、自分なら何を食べるだろうか?と最近、考えるようになりました。

答えは案外、あっさり出た

こういう場合、真っ先に頭に思い浮かんだものが無意識的に欲しているものだろうと思うので、色々と考えを巡らせるよりは、直感に従って決めたほうがいいような気がします。

「あなたの命は明日でなくなります」「代わりに、何でも食べてさせてあげます」という条件であるならば、ものすごく豪華なコース料理や、見たこともないような珍味を挙げるのも良いでしょう。

が、僕のイメージに軽やかに湧き上がってきたものは、非常に素朴なメニューでした。

「マクドナルドのビッグマックとフライドポテト、ドリンクにはさっぱりとした烏龍茶がいい。」

<参考画像>

スクリーンショット 2020-05-04 3.01.34

結論はこうでした。いわゆるビッグマックセットですよね。

我ながら、想像力のなさに笑ってしまいました。しかし、これにはれっきとした根拠があるのです。

確かに、僕はジャンクなものを定期的に摂取しなければ体が震えてきてしまうどうしようもないジャンクフードジャンキーです。(おかげで長年、デブから脱却できなくて、困り果てています…。)しかし、それだけが理由で最後の晩餐にビッグマックセットを選ぶには少し動機が弱すぎます。

もちろん、それだけが理由ではありません。

僕の実家がある町には幹線道路が通っており、ドライバーが立ち寄れるよう、様々な飲食店が立ち並んでいます。その各種店舗は実家から歩いていける距離にあるので、われわれ家族は度々、日常の食事に利用していました。

その一つに、マクドナルドがありました。そしてなんとそのマクドナルドには、ビデオ屋が隣接していたのです。休日になると、ビデオ屋で映画をレンタルし、その流れでマクドナルドでテイクアウトをしたものでした。

帰宅して家族とダラダラ映画を見ながらポテトとハンバーガーをほうばる、という昼下がりは、僕にとって至福の時間でした。平日は部活や塾で忙しい現代っ子でしたから、落ち着いて家族とリラックスして過ごしたり、邪魔が入らず映画を見るのに没頭できた時間は、このときしかなかったわけです。

たしかにマクドナルドの食事はジャンクフードです。どこでも食べられるものですし、贅沢な食事でもありません。しかし、家族で過ごした穏やかな時間や、多感な時期に見た映画の興奮など、少なくともささやかな幸せを感じられていた記憶を思い起こさせてくれる食事に変わりはありません。

最後に食べるのであるとすれば、こうした記憶とともにありたいと願うのは、決して「最後の晩餐」にマクドナルドのメニューを選ぶことの理由として弱いとは思いません。

ビッグマックは普通にうまい

このように食事は、決して高いからいいというわけではないと思うのです。安っぽかったとしても、その食事にまつわる思い出や記憶が、その食事を本人にとって高級たらしめることもあるのではないでしょうか。

あと、ジャンクだジャンクだと言っていますが、個人的にビッグマックは普通にうまいと思います。…まあ、牛肉と豚肉の区別もつかない馬鹿舌なので、説得力もへったくれもありませんが…(新宿の焼肉屋で一度、やらかしたことがあります。豚肉しか選べないコースを誤って選択してしまっていたにもかかわらず、それに気づかず「肉うめぇ!」と言って嬉々として肉を焼き続けていました。恥ずかしかったです)。

いいんです。アニメ映画「天気の子」で帆高くんも、施されたビッグマックを人生で一番おいしいと言っていたではないですか。食事に大切なのは、その食事の持つポテンシャルだけでなく、それにまつわる思い出や思い入れがとても大きく関わってくるものなのです。

よって僕は、最後の晩餐にはぜひともビッグマックを食したいと思っております。最後の晩餐でなくても、ビッグマックは常々食べたいと思っているので、僕に施したい人はビッグマックを与えましょう。「天気の子」で帆高くんが陽菜ちゃんに尽くしたほど献身的に何かはできないかもしれませんが、後々、精神的にお返しをさせていただきたいと思います。

それにしても1日でも早く、店頭でのんびりハンバーガーを食べたいものですよね。(2020年5月4日現在、僕の住んでいる県では新型コロナウイルスの影響で店頭での食事ができません。)

2020年5月4日


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?