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はじめてみた舞台は、ジャリ。演じるように描きたい。そのルーツを探ってみる。#002

はじめて観たお芝居は、わたしがおそらく5歳くらいのとき(1965年頃)に連れていってもらった『ユビュ王』(原題 UBU ROI ) でした。(※上演記録照会中)
ユビュ王 をアラン・レネ監督の『二十四時間の情事』の主演などで一斉を風靡した岡田英次さんが、ユビュおっ母を叔父・蜷川幸雄が演じていました。二人とも、大きな仮面をつけて耳だけが出ていて妙に赤かったのを覚えています。幼かったわたしはただただ奇怪な仮面の横から出ている「メメちゃんのお耳が真っ赤だな... ...」と思って舞台を見つめていました。(わたしは、叔父のことをメメと呼んでいました。ちゃっこのメメちゃん。叔父は、いつもわたしのことを「メッメッ」としかったていたので、それが呼び名になってしまったのです。)

『ユビュ王』はアルフレッド・ジャリが1896年に書いた前衛演劇で、それ以前の芝居が持っていた《言語》と《論理》を超越し、公演という形式そのものも解体してしまうという、まさに《壊す》ことが命題になったお芝居です。主人公ユビュによる第一声「MERDRE!(くそったれ!)」で舞台ははじまり、19世紀末のパリでの初演後の新聞には賛否両論が飛び交ったそうです。そのお芝居は、アンドレ・ブルトンを筆頭としたシュルレアリストたちに熱烈に受け入れられ、ムンクやルオー、エルンスト、ミロなど名だたる画家たちが『ユビュ王』をテーマに作品を制作しました。
そうです。わたしがはじめて観たお芝居は、《壊す》ということがテーマのお芝居だっただけでなく、後世のアーティストに多大な影響を与えた作品を実験的に上演したものだったのです。ただ、わたしは幼すぎて「メメちゃんのお耳は真っ赤だな」ということしか覚えていませんでした。

そののち小学生になると、よく一人で叔父の家に遊びにいくようになりました。叔父が住んでいた公団アパートのお部屋の表札には、《-tensai -蜷川幸雄》と書いてありました。ドアを開けると右側の壁にあのお大きな仮面がかけられていたました。アバンギャルドなその仮面は、濁ったマゼンダ色と群青色で着色されていて、ゴツゴツとした岩のような形で目の部分だけ小さな穴が空いていました。前衛的であること。固定観念を壊すこと。それが創作なのだと、小学生のわたしはその仮面をみるたびに胸に刻みました。そして、いつかわたしもアーティストになりたい。-tensai -になりたい。そう、思っていました。1970年ごろのことです。 

                             (つづく)

※以下に、いくつか「ユビュ王」をテーマにした絵画作品や演劇作品を載せておきます。


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          Max Ernst - Ubu Imperato (1923)

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Georges Rouault Ubu roi  1938

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Joan Miró Double page frontispiece from King Ubu (Ubu Roi)  1966

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Joan Miró Double page plate (between pages 28 and 29) from King Ubu (Ubu Roi) 1966



Handspring Puppet Company
Ubu and the Truth Commission (Full Feature) 1997
UBU ROI, by Alfred Jarry Sylvia Center for the Arts




フランス現代演劇がその幕開けを1896年の『ユビユ王』上演に負っているというのは,フランス文学史上の一般常識」だそうです。
※引用(https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/137680/1/fbk000_013_080.pdf


蜷川有紀 YUKI NINAGAWA -Profile-
1978 年、つかこうへい構成・演出『サロメ』にて、三千人の応募者の中から主役に選ばれ女優としてデビュー。1981 年、映画『狂った果実』でヨコハマ映画祭新人賞受賞。以降、映画『ひめゆりの塔』『もどり川』『人でなしの恋』やTV『鬼龍院花子の生涯』など出演作多数。舞台では『仮名手本忠臣蔵』『にごり江』など様々な異色の作品に出演し、確実な演技で評価を得る。
女優業だけにとどまらず2004 年には、鈴木清順原案の短編映画『バラメラバ』を監督・脚本・主演。『バラメラバ』小説&DVD を上梓。
2008 年、Bunkamura Gallery にて絵画展『薔薇めくとき』を開催。同年度情報文化学会・芸術大賞受賞。2010 年、松坂屋デパートメントストア100 周年記念企画・蜷川有紀絵画展『薔薇まんだら』は、松坂屋上野店及び大丸心斎橋店イベントホールで開催、2012 年『薔薇都市』(Bunkamura Gallery)、2013年『薔薇迷宮』( 大丸心斎橋店イベントホール) などの個展も大盛況をおさめる。また、2017年 蜷川有紀展「薔薇の神曲」では、ダンテ「神曲」テーマにした3m× 6mの超大作を発表。アートイベントとしても異例の成功を収める。
その他、テレビ東京開局45 周年番組「寧々・おんな太閤記」タイトル画、ワコールPR 誌表紙画なども手がけ、岩絵の具で描き上げた魅惑的な作品が女性たちの圧倒的な支持を得ている。
また、大正大学客員教授、日本文化デザインフォーラム幹事 、(財)全国税理士共栄会文化財団/芸術活動分野選考委員、InnovativeTechnologies特別賞選考委員(経済産業省、2017年終了)、JACE イベントアワード選考委員、青森県立美術館アドバイザー等として多くの文化活動にも貢献している。
http://www.oyukibo.com/info/ YUKI NINAGAWA official web site




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