見出し画像

七つ下がりの雨

雨は嫌いだった
気圧は下がるし 洗濯物は乾かないし 髪の毛はまとまらないし 
そんな憂鬱な雨を君は天からの恵みだと言う

雨がなければ作物は育たないし そもそも水がなければ生物は生きていけない 

なんだかスケールの大きな話だ
私には自分の事で精一杯で 世界や環境の事なんて考えてみたこともない

雨は嫌いだった
傘を忘れて 駅の改札から外に出るタイミングを見計らって降る雨のせいで 雨宿りしてる時なんか惨めに思う
蒸し暑くて 体に貼り付くシャツが鬱陶しい

そんな恨めしい雨を 君はラッキーだという
雨が降らなければ 君とここで遭遇する事も無かったし こうやって傘に入れてあげる事もできなかった

笑いながら傘を私にさしてくれる君の 雨に濡れてしっとりとした前髪が やけに色っぽくて
首筋を滴る雨水から思わず目を背けてしまった

私達の距離を縮めるきっかけが こんな憂鬱な雨のおかげだなんて 悔しくて でもありがたくて
俯いて少し濡れたスニーカーを睨む

今日だけは 嫌いから普通に繰り上げてやらん事もない

傘の中で触れ合う腕が 妙に熱っぽくて
家に着いてからも その感覚の余韻で全身に熱が広がっていく気がした

あわてて熱を冷ますように 冷水のシャワーを浴びる

シャワーを浴びながらまた 雨に濡れた君を思い出してしまう

やはり雨は嫌いだ 冷静でいられなくなる



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?