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私が髪を切る理由

私は、自分自身を自己評価の低い人間だと理解している 

それは決して卑下しているのではく、事実である 容姿が良いわけでもなく、 性格だって陰湿で嫌な奴だと思っている
要領も悪くて仕事だって失敗続き
長く伸ばした前髪で額をすっかり隠してしまって 俯いて足元ばかり見ている

両親は私を可愛い可愛いと育ててくれた
それはとても感謝している
しかしそれは我が子というフィルターがかかっているので一般的評価とは到底かけ離れているのだ


そんなある日、私はあなたに出会った
笑顔が眩しくて よく通る、少し低い声
育ちの良さが滲み出る所作

どれをとっても美しくて、そんなあなたをいつの日からかずっと目で追う様になった

そうやってあなたの事を見ていたら、ほんの一瞬目が合ってしまった
目が離せない、こんな私みたいな人間からじろじろと見られたらきっと気味が悪いに決まっている

しかしあなたの瞳に吸い込まれそうになる感覚に体は震え、何か言葉を、と口を開いても、喉からはただ情けなく

『あ、えっと、あの』

吃った声が漏れるだけだった
そんな私をあなたはクスッと笑うと 

『素敵な声だね。前髪もあげた方が君の綺麗な瞳がよく見えて、もっと素敵になると思うけど 』

それだけ言うとあなたはまた、人混みの中へ紛れてしまった

他の人が聞いたら、たかがそれだけ、そんな事だけでと言うかもしれない
私を単純だと嘲笑うかもしれない、でも 

それだけ

あなたのその一言だけで
私は 今まで長く伸ばした前髪を切った


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