ピロートーク

「枕買い換えよう思ってんねん」
先程まで、職場の愚痴を吐いていた彼女の口からいきなり枕の話が出てきて、私は一瞬意味がわからなかった。

「急やな、今の枕合わへんの?」
「私気付いたんよ、自分に合う枕を調べる方法。
しかもタダで」

"タダ"という言葉を聞いて、背もたれにもたれて適当に話を聞く体制から少し彼女の方に体を寄せた。
「続けて」

「男にな、腕枕してもらうねん」
「は?」
職場の話から枕の話と、話が飛んだと思いきや、次は男の話になり、私は素っ頓狂な声が出た。

「これ、気付いたとき私感動したんよ。
私今まで硬い枕使ってたけど、柔らかい枕の方が合うんやわ!って」
言葉足らずで話す彼女に、私は若干苛立ちを覚えた。
彼女はそれを分かってて話しているのだ。
先程から彼女はニヤニヤしている。
「続けて」

「私彼氏おるやんか。彼氏の腕枕はね、硬いんよ。腕もがっしりしてて肌がピンって張ってて、まさに男の腕!!って感じで、腕フェチな私はそこすごい好きやねんけどな。
寝るとき腕枕してもらったらめっちゃ寝心地悪いんよ。
コンクリートの上で寝てるんかって思うくらい頭と首が落ち着かん。
やからいつも10分くらいしたら腕枕終わらせてるねん。
腕枕って寝にくい、そんなもんやと思ってたんよ」

「そんなもんちゃうの?」
そう返した私に、彼女は少し悪そうな顔で声のトーンを少し下げて続けた。

「率直に言うと、彼氏以外の人腕枕してもらったんやけどね」
あまりにも率直で、つい私は口を挟んだ。
「え、浮気したん?」
「まあ、そうやね。するつもりじゃなかってんけど、久しぶりに彼氏以外の男性とお酒なんて飲んじゃうとさ、羽目外したくなっちゃって」
彼女はペロッと舌を出した。
「その人腕もちもちやったんよ。中肉中背って感じで。
腕枕してもらったとき、感動したね。
へ〜!こんな寝やすい腕枕があったんですか〜!ってなって、あ、私って枕柔らかい方が合ってるんやってなったわけ」

そんな体験は、男じゃなくても出来ただろうに。
カスのショッピングチャンネルを見ているふうに思った私はこの話を終わらせて別の話題に持っていきたかった。

「浮気した事実を誤魔化すために枕の話したん?」
「そんなんちゃうよ、この浮気も私は何も悪いことやと思ってない。浮気の話をしたかったんじゃなくて、お得に枕探す方法をあんたに教えたかったんや」
彼女はまっすぐな目で、私を見た。

「ほなニトリいこか」
「うん、その後相席屋行こな」



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