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父さん寿司

いつか思い出す我が家の思い出の味は、
おそらく父さんの握り寿司でしょう。

母さん、母子ときどき父子家庭で育ち
家庭での思い出の味は
母の作り置き、父の買い置き弁当。
どちらにも精一杯の愛がありました。

母の作り置きは
フライパンいっぱいのおかずや焼きそば、
保温なべいっぱいのおでんやカレー。
朝炊いていって夕方まで保温されっぱなしの
黄色っぽくなったごはん、
レトルトパウチごはん。
麺つゆと揚げ玉と袋ゆでうどん。
高校生になってバイトを始めると
バイト先で食べたり、
部活の帰りに食べて帰ってきたりで
(武蔵小山の「王様といちご」で、
 スパゲッティとジャンボソフト!
 我ながら、高校生の胃袋よ)
家で夕飯を食べない日も出てきて

食事の作り置きから
食材買い置き方式に変わっていき、
自分で作ることも増えました。

キャベツ、にんじん、玉ねぎ。は大抵あって
ニラも「栄養あるから食べな」と。

冷蔵庫には合い挽き肉、豚こま、卵のどれか。
サラダ油、塩コショウ、醤油、みそ、麺つゆ、
中華スープのもと、だしのもと、
オイスターソースも必ず置いてありました。

チューブのおろし生姜、にんにく、バターは
あったりなかったりで、あれば使う感覚。

その日ある野菜や肉を切って、その日の気分で
和なら醤油、みそ、麺つゆで。
洋ならにんにくと塩コショウで。
中なら中華スープのもとやオイスターソースで
味付けして油で炒めたのを、時々スープもつけて
炊いたごはんと食べるという、
一菜(+一汁)がその後ひとり暮らし時代の
母さんの自炊スタイルとして確立したのでした。

結婚は、それぞれ別の家庭で育った2人が
毎日の食を共にするようになる、
食のありかたの大きな転機。

母さんの嫁ぎ先は、家長であった舅・T弘さんが
「一生のうちに家族で食べられる食事の回数は
 少ないので手を抜くな」
「お金はかけずに手間はかけろ」
というポリシーをもつ食いしん坊な家庭でした。

T弘さん作・アイスバイン
T弘さんが開いて炭火で焼いた鰻。こだわりのたれ。


黒酢の酢豚。下味つけたスペアリブに片栗粉をまぶし
黒酢たれにからめる。たれは、黒酢を1本つかい、   溶け切れる限界量のザラメを投入。それを、      ゲェッホゲホむせながら煮詰める。

T弘さん自ら腕をふるってくれたのですが、
その用意や下処理と後片付けは基本、お姑さん。失敗するとご機嫌ななめになるので、
もてなしてもらう嫁としては
おいしい思いしかしていませんが、
今でも時々お姑さんは、
おとーさん亡くなって悲しかったけど
ゴハンがほんっとに!楽だわー!と
せいせいとした顔で吐き出しています。

9年がたち、お姑さんがたまにT弘さんの
悪態をつくこともあるのですが、
そんな時には電化製品が変なことになることが
あります。たとえば
2階のT弘さんの部屋からカタンと音がして、
机にあった腕時計がなぜか床に落ちていたり
突然レンジが回り始めたり、電気がついたり
つかなくなったりして、CDの電源が入ったり。

お姑さんも父さんも母さんも息子も霊感ないので
お化けになったT弘さんはみえないのですが、
お化けは電化製品に影響を与えやすいと
聞いたことがあります。

あら、おとうさん聞こえたかしらね、と
皆でほっこりしています。

そんな家なので「お家でお寿司」は、
「手巻き寿司」ではなく
酢水に氷の入ったボウルが置かれて
各々で握るのが、この家の「お家でお寿司」。

酢水のボウルにさっと手を潜らせてパンと叩き、片手でシャリをとって形をととのえて、
ワサビをとり魚をきゅっと握る。そんな
新しい家族たちの姿を初めてみた嫁の母さんは
けっこうなカルチャーショックを受けました。

でも、押し付けられることなく
次からは手巻きも選べるように海苔を、
さらにその次からは母さんの好きなアボカドや
養殖サーモンも出てくるようになりました。

在りし日のT弘さんによる寿司セッティング。     酢じめしたコハダ、ゲソは甘辛いツメで。
母さんは2カンほどつまんだらあとは手巻き。
酢めしは少しでアボカドと千切りきゅうり、      大葉にイカを巻いて、ワサビたっぷりで食べるのが好き

T弘さんの孫である息子は2歳からタマゴやエビを
握り始め「握る人」として無事に育ちました。

息子が握ってくれた、初めての寿司


父さんと。


T弘さんの息子である父さんは、
T弘さんの跡をついで立派に「握る家長」となり

「握る家長」は誕生日や記念日、クリスマス、
お盆や年末年始に帰省したときに、
父から受け継いだ寿司セッティングを再現して「巻く嫁」に握りをふるまってくれます。

10年ほど前に伊東に移住した義実家。
地元スーパーで安く仕入れられる
地魚も、帰省の楽しみです。
寿司セッティングの笹の葉は、洗って冷凍して
繰り返し使っています。お姑さん、エコ。

母さん、平日は19時すぎに帰宅するので
高校息子と夕食、は週末か帰省したときです。
家族で囲む食卓って、思い出に残りますね。



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