蒼い髪
もう、どの位経つのだろうか。
その間、私は4回あなたのところに向かい、生まれ育った場所を3回お邪魔した。職場を変えて、引っ越しをして、結婚をした。
結婚の報告をあなたにする暇もなく、向かうこともなくなった。
あなたとわたしの終わりは、いつもそんなもんだった。
複雑な気持ちを持ちながら、久しぶりにAに会いに行った。
Aは今年の初めに結婚をし、その件でどうしても癪に障る事があって、距離を取るようになった。
「自分からはどのようなネタであれ、極力話を振らない」私はそう心に決めていた。
なので、話の切り替えや切り出しはすべてAに任せた。
ボールが来たらそのまま返すだけ。変化球や暴投はしない。
途中、Aが食いつくような事を言ってしまい「しまった」と思いつつも、適当にはぐらかした。
そんな中、何を思ったのか、突然あなたのネタをぶち込んできた。
「上京して学校に通っている。昔からTOKYOにあこがれが強い子でね。髪をアオく染めたりしてるよ」
小学生だったあの子も、もうそんな大きくなったのか。
よく懐いていたって言っていたな。
髪を染めているなんて、若い頃にそっくりじゃないか。
しかも音楽をやっているなんて。サッカー少年じゃなかったのか。
そんなところまでそっくりじゃないか。
どうせもう、わたしのところになんか居ないだろう。居ても困るが。
はたちそこそこのアオい時期を、あなたが育った土地で過ごすのね。
・・・そうか。もう8年くらい経つのか。
アオいその子を、ちゃんと守ってあげなさいよ。
あなたみたいにならないように。
あなたの事をいろいろ思い出すなんて、何年ぶりだろう。
無言のまま、網戸の外の風景を見た。
気持ちのよい風が吹き込み、青く高い空が広がっていた。
まだ5月だというのに、夏のような空だ。
そういえば、あの電話を受けたのも、風が吹き注ぐ青い日だったな。
しかし、やっぱり話が弾まない。