お休み前の短編小説

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最高学歴な彼女 

僕はなぜ彼女とデートするのか。そんな疑問を頂きながら、南方医院前のイオンで彼女の到着を待っていた。 「もうすぐ着く」。 スマホの画面にそうメッセージが届いた。僕はもう一度Tinderを開いて彼女の写真を見た。 しかし改めてその写真を見ても、あまり納得出来ないことがあった。 自分はあまり異性の外見を重視する方ではない。とは言え、彼女のそれには退勤後で疲れた男を乗車率200%の地下鉄一号線に押し込め、家と反対方向の待ち合わせ場所に呼び出し、さらにディナーをご馳走したくなる

    • 私の胸に空いたオゾンホール

      「でも、それじゃあイジメに繋がってしまう可能性ってないですかね…」 私はとうとうこの疑問を口に出した時だった。 これに担当指導教員である友理子先生は優しく諭すような口ぶりで答えた。 「その懸念はわかりますよ。でもいいですか、今回の授業の目的は『フロンガスが環境にどのような悪影響を与えるか』、この問題について子供たちにしっかり理解してもらうことなんです。実際の教育現場では子供たちへ正しい認識を与えるため、時として強い印象を残すことが大事なんですよ」。 “実際の教育現場”

      • 『新・女工哀史』 第一シフト:弁当工場

        『新・女工哀史』 第一シフト:弁当工場 第1幕 私の母は頭が固かった。 二人で料理を準備しながら、海外ボランティアの話を切り出した時から、母の眉間にはシワが寄りっぱなしだった。 そんな母の不理解な態度に私も苛立ちを強めていた。二人だけの食卓で、私は今の大学生にとってインターンや海外ボランティアが当たり前になっていること、そしてそのために休学するなんて普通なのだと、ほとんど喧嘩腰に喋り続けていた。 「だから私も、もっと広い世界を知りたいからこのボランティアに参加したい

        • 卒業制作

          オーディオブックURL:https://youtu.be/meEP4uIhqQY 以下、原文。 「先輩サイコっすわ。やっぱり先輩サイコパスっすわ」 後輩はしきりに僕をそう評する。僕はそれをあしらいながらも、どことなく嬉しそうに答えた。 「俺はこの作品で展示会場の作品の本質をえぐり出しこれを以て、『芸術』の名を冠したビジネスへの批判を行おうと思う」 僕は展示室の壁に額に入れたA4用紙を飾っていた。それは三年分の授業料納付書類だった。題名には「総製作費」と書いてある。

        最高学歴な彼女 

          マリア様が見ている

          オーディオブログURL:https://www.youtube.com/watch?v=k3T6IxQCB8s 以下、原文。 これまでの人生において、僕はよく女性の家から追い出されてきた。加えて、語学が堪能であるがゆえに、世界中の女性の家から追い出されてきた。 だからと言うべきか、僕には追い出された際の習慣があった。それは、追い出された足でキリスト教の教会へ行き、マリア像の前で懺悔することだった。 世界中のどこの街にも必ず一軒くらい中華料理屋があるように、教会も必ず一

          マリア様が見ている

          故郷

          オーディオブックURL:https://www.youtube.com/watch?v=kI5R9H_VtM0 以下、原文。 「じゃあ皆さんお疲れ様です」 そう言うと僕はビデオ会議を終えた。そして、すぐLineを開いた。 「もうすぐ仕事終わるけど、そっちはどう?」 そうメッセージを送った後、僕は顧客からの問い合わせメールを開いた。実家へ帰りリモートワークを初めて半年目、もう大した弊害なく業務を回せるようになってきた。 仕事にだいたい片がついた頃、Lineの通知が鳴