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「誰かが最悪の事態になる前に、止められるんだよ。超いい仕事じゃん」


転職して最初の1ヶ月が終わろうとしていた日。

ひとりの患者さんが「とくに運動したわけじゃないのに手足に筋肉痛があるんですよね、ここ一週間くらい」と何気なく話してくれた。まあ歳のせいかな〜、なんて軽いかんじで。
この患者さん、1ヶ月前から新しく飲みはじめた薬がある。
いや、違っていてほしいけれど、もしかして、と思い処方元の医師に電話をした。

「先生は診察が立て込んでて…折り返しでもいいですか」と受付の事務員さん。

仕方ないので患者さんには一旦お帰りいただいたが、2時間経っても3時間経っても折り返しがない。
夜になって、おそらく診察終了後に電話がかかってきた。処方医ではなく看護師だった。
「来月の受診日に血液検査をするので、とりあえず今回は処方通り出してくださいと先生が言ってます」


ん〜……そうなの?
来月?いや遅くない?というか薬が変わったばかりなのに今日は血液検査しなかったの?


「かしこまりました。お忙しいところ申し訳ありませんでした」

と伝えたものの、なんかぱっとしないな〜、と思ってしまう。
上司に一部始終を報告すると、「うちらにできるのはここまでだからね、あのねさんが気づいて連絡してくれただけで満点ですよ」と言ってくれた。でも「なんかぱっとしないな〜」はしばらく続いた。



ぱっとしないな〜、の最中に、ドラマ『MIU404』の1話を思い出した。
作品の舞台である警視庁機動捜査隊は、犯人の追跡や逮捕まではしないことも多い。そのことを知った伊吹藍(綾野剛)は「なんかぱっとしねぇな〜」とぼやく。自分の手で犯人を捕まえたかった、と。

それでも事件の現場にいち早く駆けつけて初動捜査にあたり、ひとつでも多くの手がかりを見つける。それがめぐりめぐって、誰かを救うことになる。そのことに気づいた伊吹は1話の最後に、笑顔でこう言った。


「誰かが最悪の事態になる前に、止められるんだよ。超いい仕事じゃん」


そっか、あの患者さんもたぶん、わたしが副作用の兆候に気づいていなければ血液検査もされず、最悪倒れていたかもしれない(死亡例もある重大な副作用だ)。
そう考えると、わたしの仕事も「誰かが最悪の事態になる前に止められる、超いい仕事」なのかもしれないな。と思うことにしよう。
ドラマみたいに次々と役に立てるようなことはあまり起きないけれど、きっとぜんぶピタゴラ装置のように連鎖的に反応して、どこかの誰かを救っている。そう信じたい。

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