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リュートの名曲「涙のパバーヌ」


リュートを弾いて30年。リュートという楽器を知ってほしいと思います。



電車の中でギターを弾く

“山間の温泉へ向っていた。川の流れに沿いながら、ゆっくりと走る電車に揺られながら。のどかな風景が広がる。私はおもむろにケースからギターを取り出し爪弾き始めた。夏の日の午後のことだった。“

恥ずかしながら、電車の中でギターの練習をしたことがあります。許して~。20歳頃、ギター学校在学中の話です。単身赴任の父へ訪ねる飛騨高山への電車の中でした。夏休みに明けのレッスン課題として出されていて、秋にはコンサートで弾く曲がありました。楽譜とギターを持っての旅となりました。下呂温泉を通過するあたりだったでしょうか、さすが長旅にも飽きてきて

「あと少し弾いたらあの曲、覚えられるのに。今すぐ弾きたい。」

という衝動に駆られました。車両と間の使われていない運転席の近くのスペースでギターを取り出し弾きだしました。

「誰もいなし、大丈夫、注意されたらすぐしまうから」

電車の音に合わせて弾き出すと到着までに1曲、暗譜することができました。若さとは素晴らしいですね。

Lachrimae pavan by Johon Dawland (ダウランドの涙のパバーヌ)が、その曲です。

この1年後にリュートを入手して弾き始めることになります。最初に弾いたリュート曲でもあります。もう、30年以上、弾いていますが、飽きることはありません。さすが名曲ですね。


リュートマニア ★☆☆

ギターをリュート調弦にするには

ギターの3弦を半音下げてF♯に合わせる
カポタストを3フレットに装着する
1弦から実音で ①ソ ②レ ③ラ ④ファ ⑤ド ⑥ソ  
ルネサンスリュートと同じ調弦となる

さあ、リュート用の楽譜(タブラチュア)を弾いてみましょう。

タブラチュアとはリュートの楽譜で五線譜ではなく六線譜です。抑える場所などを表記している楽譜のことです。また別の機会に詳しく説明しますね。

グリーンスリーブスをタブラチュアで書いています。(フランス式)

他にイタリア式・ドイツ式などあります。



リュートマニア ★☆☆

リュート歌曲 “Flow my tears“(流れよ、我が涙)

「涙のパバーヌ」はリュートの伴奏で歌われるリュート歌曲としても残っています。“Flow my tears“(流れよ、我が涙)はエリザベス女王時代のイギリスのヒットソングでした。今よりも楽譜の出版が貴重で数少なかった時代、この曲を含むリュート歌曲集はイギリスではもちろん、ヨーロッパ諸国で何度も出版されていました。いろいろな楽器への編曲も100曲以上残されています。ダウランドの自筆譜にも「ラクリメのダウランド」という署名を残しているくらいです。

冒頭のメロディーが4度下降していきます。これが当時の悲しみの表現の一つでした。その後、ラメントなメロディーの定番となっていきます。ラメントとは、日本語では哀歌・もしくは挽歌と訳されますね。それでは歌詞を見てみましょう。

Flow, my tears, fall from your springs!
Exiled for ever, let me mourn;
Where night's black bird her sad infamy sings,
There let me live forlorn.
流れよ、我が涙 流れ落ちよ そなたの泉より
永遠に追放された  私を嘆かせるのだ
夜の黒い鳥のすみかには 彼女の悲しみの歌 不名誉な歌
そこへ私を住まわせろ みじめで孤独な この私を 

 (訳:サクラダトオル)           


この暗い感じ、良いと思いませんか。ある人曰く「名曲と呼ばれる曲の8割は暗い。」

こうした世界観に浸ることを「メランコリー気質」とも言います。当時は知的な人の象徴でもありました。

「私はラブ・ラブ、幸せを独り占めよ!ルンルンル~ン。」

と歌われた日には聞きたくもないですね。失恋の歌の方に深く共感できるというものです。


リュートマニア★★☆

知られていない ドイツのリュート写本

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Lautenbuch der Elisabeth von Hessem 1611
(ハッセンのエリザベスさんリュート本1611年)


この楽譜は「涙のパバーヌ」ですが、ドイツに残っている写本です。リュートの楽譜は五線譜ではなく、このようなタブラチュア(タブ譜)になっています。

カッセルの図書館に所蔵されています。ドイツのハッセンという街で貴族のプリンセスがリュートを習っていたようです。リュートの先生がそのお嬢様の為に弾ける程度に編曲してあります。簡単で短い曲が多いようです。リュートソロ曲だけなく、当時の人気のリュート歌曲なども掲載されています。

この本には美しいドレスを着飾ったエリザベスさんの肖像画が添えられています。生徒の肖像画があるのに実際に楽譜を書いたリュートの先生の名前すら出ていません。でも、この本の解説者がちゃんと調べてくれていました。当時、その町の教会で初めてのリュート奏者として招かれたVictor de Montbuysson (ビクトル・ド・モンブイッソン)と推測しています。


肖像画 001

ハッセンの貴族のプリンセス エリザベスさんの肖像画


おやすみリュートで演奏している版はダイアナ・ポールトン女史の編集したダウランド曲集の正統派のラクリメです。

「涙のパバーヌ」収録のCDはこちらで購入できます。


リュートに興味を持ってくれる方が増えると嬉しいですね。