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スポ根ドラマやマンガを思い出す「やりすぎトマト」

農家さん紹介シリーズ第三回目はやりすぎトマトで大人気の和田農園さんです。京都の百貨店で販売されるとすぐに完売してしまう大人気トマトの裏側に迫ります。

やりすぎトマト

一見なんの変哲もない、甘そうなフルーツトマト。だけど、ひと口でパクッと頬張ってみると、ベリーを想わせる甘さにウットリしてすぐ爽やかな酸味が広がり、キュッと甘さが引き締まる。

この、キュンとする甘いひと時から目が醒める感覚は、誰もがどこかで経験したことがあるはず。たとえば、夏休みに田舎でハシャギすぎて、お父さんやお爺ちゃんに叱られた照れくさい記憶。たとえば、胸のトキメキに反比例してどうしても勇気が持てず、片思いで終わった初恋の失敗。

やりすぎトマト

キュンとしてキュッとする感覚が共鳴し合う、[和田農園]のフルーツトマトは、遠い昔の甘酸っぱい思い出に懐かしさがこみ上げる、ドラマチックな味わい。もちろん糖度は11~12度とスイートだから、酸味で引き立つ甘い思い出の余韻にも、とっぷり。生みの親である和田さんこそ、このフルーツトマトに甘酸っぱい思い出を重ねる一人。

「小学生の頃に食べた、お父さんのつくる甘いトマトが衝撃的だったんです。それまではトマトの青くさい香りや、酸っぱさが苦手でした」

お父さんの栽培していたトマトは、今でこそポピュラーな桃太郎シリーズの元祖となる品種。当時は高糖度で完熟するまで収穫が待てる、実のしっかりとしたトマトの品種は少なかった。

やりすぎトマト

とびきり甘いトマトの味を再現するのに、和田さんが辿り着いた答えは水のやり方と肥料の濃度。

「最小限の水と肥料でゆっくり、じわじわ育てるんです。水をやるタイミングの見極めも大事。水を欲しがって葉っぱがヘタッとなる朝の限られた時間帯に、時間をかけて水をやります」

園芸専門学校を卒業後、住み込みで農業を学んだ和田さんが実家へ戻った際、お父さんが導入していたロックウール栽培は本来、水も肥料もたくさんやる大規模栽培システム。それを水も肥料も最小限という逆の発想でチャレンジした結果、思い出の味を再現するのに、10年もの月日も費やしたそう。

「このシステムでは、おいしいトマトをつくりたいという思いと、量をつくりたいという思いは、反比例するんですよね」と笑う和田さんの表情もまた、その場で味見させてもらったトマトのように甘酸っぱくて、これまでの試行錯誤がうかがえた。

年に2回のやりすぎトマト

和田さんがトマトを栽培する期間は、6月~7月と11月~翌1月の年に2回。

農園がある京都府丹後エリア特有の気候により、日照時間は短く、気温の下がる秋冬も、「ゆっくり、じわじわ育てる」ことでトマトの糖度は7度から11度、12度まで上がるという。田んぼベースの土壌は、水はけの悪い粘土質なので、定期的にトラクターを入れたり。使いやすさはもちろん、肥料も極力水分が控えられるよう、但馬牛の堆肥を使ったり。

とことん水分を少なくした、トマトにとっては甘くない環境を敢えてつくり上げることで、トマト自身がカラダを絞り、栄養を蓄えた味は泣けるほど甘く、清々しい酸味がアオハル。和田さんが名付けた“アスリート野菜”“やりすぎトマト”のイメージそのままに、いつか見たスポ根ドラマやマンガを思い出す甘酸っぱい味は、どこか懐かしくてドラマチックだ。

Photo by:Takashi Kuroyanagi
Writer:socko
Farmer:和田農園


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