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キンドルで本を出版したところ講演依頼が来た話

私は2004年から15年間、印刷業界新聞記者やフリーライターをしていた過去があるが、現在はしがない一事業主である。それでも書きたいことが次々と思い浮かび、「note」にて執筆活動を継続してきた。そしてある程度原稿がたまったところで、キンドル出版(KDP)にてペーパーバックを出版してきた。『愛ゆえの福岡市』 『とりとめのない歴史』などがそれである。

ところが、売れない。郷土史家としても歴史ライターとしてもまったく無名の私の本を、親戚や友人以外に誰が買ってくれるだろうか。いや、私だけでなく、自費出版どころか初期投資ゼロのキンドル出版を突然アマゾンで上梓したところで1冊も売れないというのは、よく聞く話である。
それなのに、書きたいことだけはやたらと出てくる。自費出版の処女作から4作目は、「やっぱり印刷業界の話を書きたいな」と思い、売れるかなんかはともかく、とにかく集大成として、印刷業界のビジネス書を書いた。
『印刷会社の生存戦略』という本である。
ところが、今度ばかりは少なからず反響があった。ペーパーバックで1980円という強気の値段にもかかわらず、そこそこ売れた。売れただけでなく、見知らぬ方から感想を送ってくれたり、Amazonでレビューを書いてくれたり、そしてそして、講演の依頼も複数来た。今回はその顛末を公開する。

キンドル出版(キンドル・ダイレクトパブリッシング=KDP)は自分で作った電子書籍やペーパーバックを初期投資も在庫もなしでアマゾンにて出版できるという夢のようなシステムである。ユーザーが1冊ポチっと注文すると、そこからアマゾンが1冊から印刷・製本を始めて、2,3日で普段通りに本が届く。いわゆるオンデマンド出版で、在庫をもたない。
通常の書店流通の自費出版だと、出版社への審査料がかかり、見込み生産による在庫と製作費もこちらがもち、売れたと思っても返品も受け付けなければならず、何百冊の本が売れ残ってしまうことはざらだといわれる。数百万円を投じて自費出版したお爺さんの話などはよく聞くが、利益が出たなんて話はまず聞かない。
その点、キンドル出版は、自分で作ったWord原稿をそのままPDF化してアップロードすると、アマゾンによる1,2日のレビュー(審査)が通れば、そのままアマゾンで出版される(ペーパーバックの場合、以下同)。マージンは40%をアマゾンがとるので、60%から印刷代(アマゾンが印刷する)を引いた残りが著者の手元に入る。価格は損益がマイナスにならないように設定できるから、理論上は初期投資ゼロで始められる。
私の本の場合はざっとこうだ。

定価=アマゾンのマージン+印刷費+私の取り分
1800円=720円+400円+680円

というわけで約680円が勝手に手元に入る。…売れればの話。
書店に置かれるでもなし、アマゾンは(日本の場合)販促はほとんど一切してくれないので、自分でマーケティングを行わなければならない…と今回思った。
フェイスブックの友だちで買ってくれそうな方にメッセージを送ったところ、無理なお願いにも拘わらずほぼみなさん買ってくださった。親戚や友人も買ってくれた。でもそこまではいつもの話である。
そこで今回はまず、ニュースリリースを業界ニュース社に送った。どうせ元・同業者の本なんて記事にしてくれないだろうと思い、ネット系のニュースサイト運営会社にニュースリリースを送ったところ、なんと次の日には記事になっていた。その運営会社の代表には上京した折にあいさつに行き、すっかり懇意にしてくれた。

業界ニュースサイトに載る


その時点で、はやくも関西のメーカーの方から奥付に付した私のメールアドレスあてに、親切なお礼文をいただいた。こんな体験は初めてだったので、えらく感動し、動揺してしまった。
続いてダイレクトメール(DM)を配った。印刷ネット通販のラクスルだとチラシ1000枚でも2000円程度、これを印刷工業会や印刷機械工業会などの企業に配った。リストは普通にサイトから引っ張ってきて、Excelに入力して、タックシールに出力して、会社の封筒に封かんして送った。

ラクスルからチラシが届く

DMは150通ほどで、諸費用込みで約1万5000円。やはり郵便代はかかったが、ここでDMが大手メーカーの経営者の目に留まり、講演依頼につながることになる。
ぽつぽつ売れ始めて気をよくした私は、地元の印刷組合の機関誌に広告を載せようとメールをした。ところが返事がほとんど来ない。諦めていたところに、またしても講演依頼が舞い込んできた。事務局長がわざわざ買って下さり、読んでいただいて、講演依頼をしようと理事会に諮っていただいていたのである。感謝しかない。
ホームページも作った。外注すると20万円くらいするときいていたので、WIXというCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を使って、4時間かけて自分で作った。初期費用はロゴ代(これも数分で作れた)のみ、ラニングコストはドメイン料とレンタルサーバー代月に数千円である。

WIXでホームページを作った。

講演料は明かせないが、ライターとしての知名度という意味では計り知れない成果だと思う。今度のキンドル出版で、私の人生の方向性も変わった気がする。自社内で出版事業部を立ち上げ、新規事業の助成金申請もし、来るべき講演に備えている。ライターとして、講演者として一本立ちできるかはまったく目途が立たないが、聴講者をがっかりさせないためには、もう引き返せない。そんな覚悟を持っている。

キンドル出版で注意していただきたいのは、表紙のデザインだ。本文の組版くらい自分でできるが、表紙のデザインはそうはいかない。そこで知り合いの印刷会社に頼んだところ、3万5000円かかった。デザインの満足度は60点というところ。なによりもプロなのにサイズを間違ったり、アマゾンの(複雑とはいえ)規約を読んでくれなかったりして、やり取りに手間取った。
手間取ったのはそれぐらいで、あとはだいたいうまくいった。以前の本に比べて成功したのは、やはり身を削って取材して、書いた本だったということに尽きる。記者時代の集大成を書いて、本当に良かったと思っている。よろしければ参考にされたい。

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