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中国・浙江省のおもいでvol,3

『円卓』

 円卓がくるくると回る。蓋の空いたせいろから黙々と湯気が立ち昇る。小籠包だ。円卓を囲んだ10人は誰もがテーブルの上に視線を注いでいたと思う。卓上に並ぶ料理は色鮮やかで、見とれてしまった。いつ箸を出して良いか分からず、右往左往しているとフェイがヒョイと手を添えて回転を止めてくれた。料理の名前はわからなかったし、中には食べ方の分からないものもあった。手を出しあぐねている情けないぼくに変わって、自分の皿と僕の皿に取り分けてくれた。

 彼女が料理を口に運ぶ様を見て、ぼくも一口ずつ口へ運ぶ。到着してから水も飲んでいなかったのもあるが、あまりの美味しさに舌がびっくりしてほほがキンと傷んだ。海老のような甲殻類を殻からだして薄ぺらい皮に包む。豆板醬のようなペースト状のタレにつけて頬張る。しばらく夢中で料理を食べていると、彼女がこちらに微笑みかけながら話しかけてきた。

「ハオチーマ?(美味しい)」

「ヘンハオチー!(とっても美味しいです)」

 覚えていてよかった中国語の一つだ。食事が楽しめるなら、どんな国でもいぇっていけるんじゃないかと夢想するほどだ。一緒に食事を楽しめる人に出会えたならなおよし。贅を尽くした料理を堪能した後、数人の中国人学生と話してを交えながら、スーパーへ向かった。

 中国の食材はすべてが日本の倍の大きさだった。自分で計量して、バーコードを発券しレジへと向かう。相変わらずたどたどしい会話だったが、彼女のおかげでこわばっていた感情がほぐれた。買い物を終えると、ホテルへと戻った。お腹の奥の方がぽうと温まり、幸せな気持ちでいっぱいだった。彼女と明日の待ち合わせを決め、日記を書くと、眠気が襲ってくる。明日から講義に参加する。不安は大部影を潜め、明日からの生活に期待を膨らませる。

 フェイはもちろんだが、他の学生たちも気さくな人ばかりで、なんとか頑張っていけそうだ。シャワー(浴槽はない)を浴び、横になるとすぐに深い眠りに落ちた。

 最高の初日で終わったはずだった。静かな部屋に「それ」は突然やってきた。                                                         (『中国・浙江省のおもいでvol,3』)


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