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中国・浙江省のおもいでvol,27

『リンシン』

  ザオに連れられたぼくとOは、学内のダンススタジオにいた。ザオのように、髪色を染めた数人が汗を流しながら激しいダンスの練習をしている。日本の曲をメインにぼくらを歓迎してくれた。その鬼気迫る激しさに圧倒されたまま、ぼくらは学生街から離れた繫華街へと移動する。

「今日から俺はの振り付けとか、リンシンが勉強して教えてくれたの」

 ザオの紹介する女学生たちと、話をしながらカラオケ店に入店する。さっきまで踊り狂っていたのにも関わらず、彼女たちは踊り歌い、底なしの体力を見せつけられる。

「驚いたよザオ。日本語も話せて、英語もベラベラなんて」

「ここにいる子たちはだいたい3か国語喋れるわ。リンシンは広東省から来てるから、広東語も喋れるしね。」

 中国の方言は、その規模によって方言だとしても、外国語とみなされる。実際に諸外国語と肩を並べており、習得の難易度も高い。ダンスサークルのメンバーたちは、みなダンサーでありながら才女なのだ。

「野暮ったいこと聞いてないで、タイチも歌いな」

すっかり意気投合したOと女の子たちによって、カラオケルームはさながらクラブの用を呈していた。マイクを握ると、日本のEXILEだとか嵐などのダンス付きjpopをせがまれ、彼女たちが歌に合わせて踊る。ドリンクはいつの間にかアルコール入りのものに変わっており、部屋を出るころには、みんないささか気分がよく、誰かがなにか言っては、他が笑っていた。

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 何件かはしごして飲めや歌えを繰り返し、最後はぼくとO、ザオとリンシンがぼくの部屋にいた。ビリヤードにダーツ(もちろんカラオケ付き)、麻雀と夜の街を遊びつくしたぼくらはすっかり興奮状態にあり、部屋では、トランプやら、ウノやら、就学旅行よろしく楽しみ(途中で二回ほどロビーから苦情の電話がくる)夜を過ごした。

 「トランプばかり飽きたわ。ねぇバトミントンをしましょう」

青島ビールを片手に、リンシンが立ち上がる。

 「夜中の2時だぜ?」

Oもニヤニヤと笑いながら、それでも乗り気で立ち上がる。

 「ならロビーね」

 ザオまでそそくさと階下に向かい、遅れて降りると、既にラケットと羽根をどこかしらから持ってきた3人がバトミントンを始めていた。ホテルの裏手は随分と明るい常夜灯が光っており、その下で羽根が行きかっている。幅の広い路地の電柱に細ながい紐を括りつけただけの簡単なコートだったが、十分ゲームができる。

 「タイチと私、Oとザオのダブルスね」

 勢い良く腕をつかまれる。リンシンはグリーンの髪色に、アディダスのジャージ、革ジャンというスポーティーな格好をしている。ぼくが後ろ、リンシンはが手前という陣形でプレーが始まると、リンシンの前の攻防すさまじく、ぼくらは圧勝した。

 「なかなか筋がいいじゃない。全然スポーツができるふうには見えないけれど」

 「見えないは余計だ」と返しつつ、ぼくはまんざらでもない。部屋から持ち出してきた青島で乾杯し、3ゲームほど繰り返した。Oの部屋のシャワーを彼女たちが使っている間、ぼくとOはぼくの部屋でシャワーを浴び、最後はぼくの部屋のカーペットの上にシーツを広げて川の字になって寝た。

 紹興帰りのぼやけた心と体は完全にスッキリとして、心地よい疲れとともに眠りに入った。風呂上がりの彼女たちはスッピンになっており、きつめの顔から、子供みたいな童顔に戻っている。花の香りが鼻をくすぐり、ドキドキしたがすぐにまどろんでゆく。

 こんな夜があってもいいか・・。夢一つ見ない熟睡がぼくを待っていた。(『中国・浙江省のおもいでvol,27『リンシン』)


 


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