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土用の間日に、盗み食い

昔、尼になりたいと思ったことがある
それは16,7の頃だったので思春期特有の強い自我や欲、それを囲む世間や世俗的な煩わしさから離れて安穏とした隠遁生活を送りたいというような気持ちからだったが、
今振り返れば、元々隠れて何かをすることが好きだっただけかも知れないとも思う

放課後の内緒話、秘密基地、夕日が落ちる頃にした二人だけの約束、誰にも見せたことのないという友人の漫画帳やイラスト、思いもよらない誰かの過去、兄弟が寝静まった深夜大人だけの時間に少し混ぜてもらうこと
誰にも言えない告白やあの人の本当の本音

ありふれた日常の中で、普段は見えないものに触れた時、また自分がそれを所持している時に何とも言えない高揚感があるように思う


そのせいか表面には表せない、内にそういった秘密を持つ人間をとても魅力的に感じる節があって、また周りからは見えない自分のものが自分にとっても一番良いものであり、
それを拾った石のように時々ポケットから取り出して、眺めるような時間は愛しく、
綺麗な瞬間は誰かに見せたくなることもある


今日1月18日は、冬土用の間日である

土用の期間は土公神が土にいるため、土いじりをしたり、また新しいこと、転居や旅行など移ろうことをしてはいけないと言われている
ただしこの土公神が地を離れて、天上界へ行っている間の「間日の日」は、彼の支配から解かれ、新しいことなどをはじめても良いという


神の目を盗んで祟りを免れる、というのはこの様な性質上とても良い欲の満たし方だと感じ
その僅かな時間に、和尚が御経を読む隙に坊主が団子を盗み食いするようなかわいい気持ちで、こっそり書きはじめてみたいと思った

こういった日常に潜む些細な秘密は
硬く動かない母岩から顔を覗かせる蛍石のように、傾く陽の光に何度も煌めいて、
心躍らせるようなささやかな希望だ

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