就活ってすげー嫌だよなって話

 何を今更大学生のようなことを言っているんだ。でも今でも嫌いです。

今日はね、こちらのご相談に答えていこうと思います。

ちなみに、『渇』ではなくて『喝』が正解。

 先に言うと、多分喝入れるの無理です。わたしもこの質問者さんと似たようなもんというか、もしかしたらもっともっと酷かったかもしれないです。
 喝を入れられない代わりに、今背負っているものがもしかしたらほんの少し軽くなるかもしれない話をしようと思います。

  オタクの礼儀として先に注意書きをします。
 これはただの「わたしはこう生きた」という体験談であって、就活なんてアホらしい!今すぐやめろ!という話では決してありません。後述しますが、できるのであれば就活は間違いなくやった方がいいと思います。
 これは、ただたまたま生き残って気楽に生きてしまっている、どうしようもない社不エピソードです。

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 某音楽大学ピアノ専攻四年生のはなみのくんは、漠然と、しかし確信を持って「わたしは大学卒業したら死ぬんだ」と思っておりました。
 と、いいますのも、当時の自分は大学で好きなことを勉強することがゴールだと思っていたのもあって、その先の希望とか全くなかったのです。何なら今でも別にどうしてもやりたい仕事とか特にないです。宝くじ当たったらその日のうちに会社やめて、美大か音大に入ってもっかい好きなことを勉強したいと常に思っています。そして、別にそれを仕事に生かすでもなく、一生好きな本読んでピアノ弾いて絵描いて遊んで暮らしたいと本気で考えています。社会に貢献したいなんて気持ち、微塵もありません。まあとにかく、当時からこの感じで、思い切り芸術を愛し、ほんのりと社会と人間を憎んでおりました。

 そもそもわたしの場合は労働自体はそこまで嫌いでもないのですが、就活という概念自体がずっと嫌いでした。自分の年の新卒就活解禁日(いつでしたっけ?3月1日とか?)の0時ぴったりにリクナビだかマイナビだかのサイトがサーバーダウンしたの見てあまりにも気色悪すぎて吐いてました。
 家の経済状況的にも大学院に行く道は既に断たれており、どうにか社会人にはならないといけないという自覚は嫌々ながらにもあったため、最初の方はエントリーシートを出してみたり、面接に行ってみたり、自分なりに頑張ろうとはしました。しかし、どこへ行っても自分がやっていける気は全くしないし、やたらと意識の高そうなリクスー姿の学生も貼り付けたような笑顔の面接官も気持ち悪く感じるし、そもそも自分の行っていた大学自体が就活の為の公欠を認めてくれなくて(クソ仕様)、単位と面接の板挟みに遭ってどんどん疲弊。なんとかたどり着いた面接で、一生懸命自分の頑張ってきた演奏や研究の話をしても、面接官のオッサンから意地悪な顔で「君がやってきたことって、それだけ?」とせせら笑われるのです。準備不足だったわたしも勿論良くないけど、わざとにしたって人に対してあんな態度ができるオッサン達で回ってる社会嫌過ぎるだろ。今なら猛反撃したと思いますが、当時のわたしはそんなしょうもないことで本気で落ち込んでしまうくらいには若くて、可愛くて、可哀想なくらい素直だったのです。
 西新宿のコンクリートジャングルに降りれば目眩を起こし、終いにはスーツをハンガーから外すだけで涙が出るようになっていました。せっかく得た面接の機会もたくさんばっくれたと思います。そして、夏になる頃にはもう完全に心も体も壊してしまって、最早面接受けるどころか好きだった大学すらまともに行けず、毎日天井ばかり見て過ごす日が続きました。
 その頃にはもう、社会とか人間というもの自体が完全に嫌いでした。やたらとポジティブで熱血でうるさい就活サイト、地味なリクスー、やたらと歩きにくくてダサい黒パンプス──そういう大嫌いなものたちに我慢して付き合ってきたことすらバカバカしくなって、もう全部爆破したいなと思っていました。
 そして、ある日大学の一年当たりの学費を見て「どう考えてもこの金で得た時間と設備で練習したり授業受けたほうが人生レベルのコスパはいいな」と確信して、すぱっと就活をやめました。大学が好きすぎて、4年目になってもほぼ毎日授業を入れていたので(就活しないといけないとわかっていたのに、である)(愚かではあるが結果として支えになったので良い選択でした)、心置きなく勉学に励みました。

 それからまたしばらくが経ちました。いちばん酷かった夏よりもいくらか調子はよくなったものの、拭い去ることのできない将来の不安を抱えながら毎日を過ごしているうちに、世の中はすっかり秋めいていました。Twitterを開くと、一つ年下のフォロワーがもう来年度の就活の準備を始めた、なんて話をしていました。ああ、こうしてわたしは『あたりまえ』の世界から取り残されていくんだな、とぼんやりと思っておりました。
 そんなある日、家の近くを散歩していた際にぼんやりと入ったTSUTAYAのある棚の前を通りかかった瞬間が、わたしの人生の転換点でした。昔好きだったabingdon boys schoolによく似た少し古臭い、でも絶対に格好いい!そう心が叫ぶようなサウンドが耳に入ってきたのです。その日は大人気アイドルユニット『UNDEAD』の1st シングル『Melody in the Dark』の発売日でした(歳がばれる)。
 店頭でかかっているだけですから、歌詞まではうまく聞き取れませんでしたが、当時はそれでなんとなく「救われた」と思ったのです。あとその時、後に人生の最推しとなる朔間零さんの顔を初めて認知したのですが、印象は「(Mマスの)アスランみてえな奴おるな」でした。
 家に帰ってYouTubeで試聴を聴いて、「あっ、わたしの居場所、ここにあったんだ」と確信しました。そんな大層なこと言ってる歌詞じゃないんです。むしろちょっとダサいくらい。でも、無理して人と同じ事をやろうとしていたわたしにとって、このあたたかい暗闇の中で元気に踊っていていいんだと思わせてくれるはぐれもの達の声は救い以外の何者でもなかったのです。
 そして次の日、大学へ向かう電車の中であんさんぶるスターズ!をDL。たまたまファミマでやっていたガルボ2つ買うとあんスタのクリアファイルもらえるキャンペーンでアンデを2枚確保。帰りに寄ったアニメイトでアンデのCDを購入。人生が突然音を立てて動き出していました。
 そして、夢中になってメインストーリーを読む、読む、読む。空っぽの講堂でライブをするRa*bitsを見て「こんな世界絶対おかしいし、金で解決できるならしてやるが?!?!」となり、完全に気持ちが変わりました。「課金したいから仕事するかー!(しかし就活は二度とせん)」という気にここで初めてなったのです。もう11月。冬になろうとしておりました。そして、実技試験も終えた1〜3月の春休み中にやっと派遣会社に登録。その後はなんか適当にやって病院事務の仕事を手に入れました。
 大学の方は結局卒業に必要な数の倍くらい単位取って卒業しました。もしも単位の転売ができたら、もう一人誰かに大卒資格を与えられたかもしれません。学費と照らし合わせると間違いなく高コスパ学部生だったと思います。そして1日でも早く課金をしたかったので卒業式の2日後から働いてました。こんなんだから未だに内定式とか入社式とか全く知りません。何せ派遣社員なので、入社したその日から電話取ってたと思います。走り出すと止まらない。

 その後転職したり休職したりして生きてますが、結論から言うと全然何とかなっています。見ての通り同人誌は出せてるし、ライブは行けてるし、一人暮らしも結構楽しくやっていけてます。
 あの時就活もっと頑張っておけば……という後悔は全くしたことがないです。むしろあんなに向いていない事は一秒たりともしない方がよかったな、時間の無駄だったな、という逆向きの後悔すらあります。
 社会人になってからもしばらくは、春先のオフィス街でリクスー姿の就活生を見かけるたびにちょっと嫌な気持ちになっていました。今は『十条の兄貴、絶対リクスー姿の大学生好きだよな』という気持ちだけでどうにかなっています。好きな男の好物に合わせて嫌いなものを克服するってこういうとこでも成立するんですね。リクナビとかマイナビは未だに嫌いです。っていうかあの空気感好きな人おるんか?

 多分、今就活をしている方のまわりには、新卒正社員の内定がないと人生詰むみたいな空気が充満していると思います。しかし、事実から言ってしまうと全くそんな事はないのです。
 お前の運が良かっただけで、どうにもならなくなる事だってあるだろ、とも思うかもしれませんが、それは新卒就活真面目にやって大企業の内定沢山とっても同じです。どんなに吟味したつもりでも合わない時は合わないですし、それが入社から1〜2年経ってやっとわかる時だってあります。これさえやれば絶対いい人生が歩める!みたいな空気感出しておいて、ほんとは最初っからぜんぶギャンブルなんです。ふざけてますよね。
 何となく世の中では「夏には就活終わっていないとやばい」「正社員じゃないとまずい」「そもそも就活失敗するのは社会人の資格がない」みたいな空気があるので、就活の完全な失敗談という恥ずかしい話を進んで話したがる人は少ないでしょう。世に出る体験談が圧倒的に成功例の方が多いトピックだからこそ、自分だけが落ちぶれているみたいな錯覚に陥ることもあるかと思います。しかし、世の中をよくよく見てみると全然そんな事ないです。意外とゴリ押しでギリギリ社会人やってる人間は多いものです。わたし自身、そのことに気づいたのは社会人になってから数年経った後でした。

 ちなみにわたしの弟は、元々院に進むつもりだったのが色々あってそれを諦めなければならず、4年の秋頃から就活を始めていました。彼の場合もやはり全く準備をしていなかったのですが、年度最後の学内合同説明会か何かでたまたま行った企業がいい感じで、そのまま決めたそうです。あれから4年ほど経ちますが、奴もまた楽しくやっているようです。

 ここまで読んでいただいて分かったと思うのですが、結局わたしはものすごく適当に行き当たりばったりやって、何故か社会性を手に入れてしまった側なので、喝入れろと言われてもこれが精一杯です。ほんとにぜーんぜんできません。これは完全にあなたの人選ミスです。本当に喝を入れて欲しいのなら、もっと真面目に生きてそうな人に聞きなさい。

 ただ、そんな人間からでも言える事があるとすれば、何かしらで金を稼ぐ手段はどうにかして見つけた方がいいという事です。金のかかるコンテンツを愛していて且つ浪費癖があるのなら尚更。少しでも好きなことをして生きていたいのならなお、尚更。
 この世は結局金です。世の中に金を稼ぐ手段はいくつかありますが、多分その中で一番マシなのが「仕事をする」です。強盗とか詐欺のほうがコスパいいと思われがちですが、バレると現場行けなくなるしソシャゲもできなくなる、好きな服も着られなくなるのであんまりオススメできません。親の脛とかも悪い味はしないかと思いますが、よっぽど太いご家庭でない限りは家の居心地がちょっぴり悪くなるかもしれません。あと娯楽にお金を使うのに『後ろめたさ』って結構ノイズだと思うんです。
 そう考えるとお体や心がそこそこお元気ならば嫌々でもお仕事をするのが結局コスパいいんですよね。むかつくけど。そして、その仕事を大多数の人が比較的得やすいように整備された、いわゆる人生ゲームの赤いマスのようなシステムが、まさに新卒就活です。
 でもこれも、人それぞれには個性とか性格があるので、合わない人ももちろんいます。わたしはこんなしょうもないギャンブルのために値段ばっかり無駄に高いだけの初期アバターみたいなスーツ買って、わざわざイモい髪型をして、面接の回答を暗記して謙虚に振舞うのが無理すぎて、こんな事して仕事を得るくらいなら死んだほうがマシだなと確信して早々にやめましたが。十条の兄貴は好きかもしれないけどわたしは嫌だからな。 
 そして、合わないのであれば他の手段を探すことです。それは親や先輩のツテかもしれないし、派遣社員かもしれないし、フリーランスとか、もしかしたら起業かもしれない。とにかく何かしら、自分なりの社会への食らいつき方を見つけてください。手段は法を犯さないかぎりは問いません。そしてそれが面倒くさく感じたり、先述のイモい就活をするほうがまだマシだと感じたら、大人しくそれをするのがいいと思います。マジョリティを相手にしている分、整備されている土壌であることは間違いありませんから。

遊んで暮らしたいのなら、戦いなさい。

わたしから言えるのは、たぶんそのくらいです。

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