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ランダムで熱狂する

 YouTubeで変なサムネイルの動画をおすすめされたんです。しかも、再生数がやたらと多い。なんだこれと思って試しに見てみると、こんな動画でした。

 英語で書かれていますが、何をやっているのかは大体分かると思います。「The Team Marble Race in Algodoo」。「マーブル」、つまり丸くて小さいやつが同じ色のチーム戦でレースをしているんです。Algodooは物理演算シミュレーションソフトとのことで、マーブルの振る舞いを計算して動かしてるんだと思います。

 私は小さい頃に川でやっていた木の葉レースを思い出しました。近所の川で木の葉をかき集めて、橋の上からバッとばらまく。水面に落ちた木の葉は川の流れに乗って進んでゆく。スタートのタイミングはほぼ同じですし、木の葉の大きさはどれも似たようなもの。何より同じ川を進んでいるんですが、不思議なことに木の葉によってだんだんと差がついていくんです。微妙な位置の差や流れの変化が原因なんでしょうけど、それにしたって早い木の葉は先へ先へとスイスイ進むのに、遅い木の葉は同じところをグルグル回ってなかなか進もうとしない。誰かの意図が何も影響せず、ただ単に流れているだけ木の葉なのに、やがて圧倒的な差が出てくるわけです。

 動画のようなマーブルレースも似たようなものだと思います。ランダムにマーブルが進むような装置を作った結果、やたらと早く進むマーブルもいれば、最後尾でもたもたしているマーブルもいる。いや、別にマーブルが自らの意思でもたついているわけではないんですが、なんかそういう風に見えてしまう。

 英語で書かれているYouTubeチャンネルのためか、コメントは英語ばかりでございますけれども、何色のマーブルが早いとか遅いとか、そういう話をしていることくらいは分かります。そして、その気持ちはよく分かります。私も木の葉レースをしていた時は、特定の木の葉に肩入れしていました。理由は様々です。妙に遅れている木の葉とか、何となく形がいい木の葉とか、要はその時その時で適当に決めているだけでした。マーブルレースを見ても似たようなことをしてしまうんでしょう。

 私が応援をすれば木の葉が早く進むかというと当然ながらそんなことはなく、むしろすんなり進まない時のほうが多い気がするんです。木の葉としては私の応援とは関係なく、ランダムに進んだり留まったりしてるだけなんですが、私が勝手に木の葉へ感情移入してしまうから、そんな気がするんですね。分かってはいるんです。でも、ジッと見てると木の葉はランダムに振る舞っているという前提を忘れてしまうんです。

 上の動画を載せているチャンネルは、物理演算を利用したレースの他に、バトル形式のものも載せています。こちらもまた、完全にランダム要素だけで勝負する形になっていまして、例えばこんな感じのものがございます。

 バトル形式ですとより一層、肩入れしてしまうんです。好きな色とか、なんか序盤不利になってて可哀そうだからとか、そんなちょっとした理由で敵と味方を勝手に設定してしまう。

 応援してる方が勝てばいいんですが、もちろんそんなことはない。場合によっては応援している方が負けてしまうといった状況が続いてしまう。そうすると、こんな考えがチラッと頭をよぎるんです。「これ作った人がズルしてんじゃないだろうな」。

 そんなわけないんです。製作者は物理演算に基づいてランダムな状況を作り出しているに過ぎません。完全にランダムということは、偏りが生じる場合だって珍しくない。でも、応援している方がゴリゴリ攻撃されると「おい、おかしいんじゃないか」という文句が反射的に出てくるんです。頭に血が上ってしまうと、「おかしいも何もランダムやんけ」という製作者の意見も納得できなくなるんでしょう。「陰でプログラムをいじくってんじゃないか」みたいな妄想が普通に出てくる。

 完全ランダムのマーブルでこれなんです。スポーツ観戦とかゲームの対戦とか、そういうレースやバトルで熱狂してしまうのは、ある意味では仕方がない話なんでしょう。でも、レースやバトルは往々にしてランダム要素があるわけで、観戦する人の思い通りにならないのは同じです。それによって怒ったり疑ったりする一方で、喜んだり楽しんだりもする。

 何かを観戦する際にはいろいろ気をつけなきゃいけないなと思った次第です。

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