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ちょうどいい台風情報

 ポジティブなものがもてはやされがちな昨今において、危険を知らせる情報はビックリするくらいネガティブです。もちろん、ポジティブ全盛の世の中に反抗しているわけではなく、危機管理を考えてのことだと思います。

 例えば、「こんど来る台風は、まあそこそこっすね」なんて情報が発信されれば、「なんだ大したことないのか」と思い、何となく川の様子を見に行ったり野次馬的に海岸へ突撃したりする人が出てきてしまう。往々にして、そんな時に事故は起きるものです。その辺の人が適当な台風評を言いふらすならともかく、気象庁みたいなビックな機関がそんな調子じゃよろしくない。だから、必然的に台風のネガティブキャンペーンを毎度毎度展開していくんです。日頃から災害に備える人を増やすことにもなるでしょうし。

 思えば、世の中は危険だらけです。「災難なら畳の上でも死ぬ」なんて言葉があるくらいですから、いつ何が起こるか分からない。危険を知らせる情報なんていくらでも作れると言えます。当然ながら、危険は避けるに越したことはありませんから、危険を知らせる情報は、善意や義務感によってネガティブにネガティブに加工されて日々発信されています。

 それがうまくいく場合があるのは重々承知しております。川の様子を見に行って流される人はいなくなればいいに決まっている。でも、世の中には、人とすれ違うたびに「ナイフで刺されるんじゃないか」とビクビクするチキンオブチキンの人類がいるわけです。「いるわけです」って私のことなんですが。

 そう言う人が台風のネガティブキャンペーンとか見聞きしてますと、もう不安で不安で仕方がなくなるわけです。あんな被害が生じるかもしれない、こんな災難に襲われるかもしれない。様々な危険をみんなが事細かに説明してきます。防災の専門家みたいな人までが、詳細な防災手段を我々素人にも理解できるよう、嚙み砕いた表現でメディアに発信する。

 しかし、ひとりの人間ができる備えなんて限られます。その上、専門家が嚙み砕いた説明を喉に詰まらせたことなんて一度や二度じゃない。だから、いざ台風を迎える時になって、「あの対策ができてない」だの「この準備もやれてない」だのと気がついて、嵐の前に気を病んでしまいそうになるんです。いや、マジで。「隣の家が風で飛ばされて自宅の窓に突き刺さったらどうしよう」くらいは平気で考え、思い悩むんです。

 なんか私以外にもチキンオブチキンな方がそこそこいらっしゃるのか、近年になって「ネガティブな報道で心が疲れてしまったら」みたいな記事もチラホラ現れるようになりました。そりゃそうでしょう。いくら世の中が危険なことであふれてるからって、その危険を伝える情報で気を病んでいいわけがありません。「危険を知らせる情報が危険」という本末転倒な話になってしまいます。

 だからと言って、「次の台風は楽勝っすよ」なんてポジティブ台風情報が世に広まってしまうと、いろんな人が川の様子を見に行って流されてしまいます。風速40メートルの嵐の中、近くの河原に野次馬が集まる世界もまたベストとは言い難い。

 「ちょうどいい」を見つけるのは本当に難しいんだなと、台風情報を見てて思いました。

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