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不運の宣告に勝ち過ぎてしまった

 占いは好きでも嫌いでもないですし、信じるも信じないも個人の自由と考えています。ただ、私には妙な傾向があります。他人が介すると大体悪い結果になるんです。おみくじやネットの占いのように、ひとりでやる占いですと良い結果も出る。まずいのは対面で誰かに占ってもらっている時です。

 少年時代、姉が占いの本を図書館から借りてきて、トランプ占いをやると言い出しました。本を見ながら両親を占った後、今度は私が占われました。結果はかなり悪いものでした。今じゃスッカリ不運耐性ができましたし、何しろもう大人なので、嫌な結果ともまあまあ折り合いがつけられます。しかし、初めて占われた私は既に半泣きです。すぐさま両親は姉にもう一度占うよう促し、姉は再び私を占い始めました。

 姉も当時は子供でしたから、悪い結果にビビりまくる私をからかってやろうと思ったようです。きっと悪いことがたくさん起こるよ、なんて脅された私は恐怖のあまり、運勢が記されたカードを弾き飛ばしました。母が姉を叱る中、部屋の隅に飛んでいくカードたち。とりあえず結果だけは見ておこうとなり、私は飛んで行ったカードを拾いに行きました。

 そのトランプ占いは、まずカードを引いた順にどの運を表すのかが決まります。例えば、1枚目に引いたカードが金運を表し、2枚目が恋愛運を表す、といった感じになるわけです。そして、そのカードが何かによって運勢がどう良いか、またはどう悪いかが具体的に決まる。

 私が弾き飛ばしたのは、総合的な運勢を記したカードでした。しかし、他のカードも巻き込んで弾き飛ばしたため、2枚のどちらが運勢を示すカードなのか分からなくなっていました。仕方がありません。とりあえず、両方調べてみようとなりました。

 結果はどちらも最悪でした。「他のカードがどんなに良くても、このカードが出るだけで全部悪い方に転ぶ」というレベルの闇カードを今回は特別に2枚もゲットしてしまったのです。まさに鮮烈な占いデビューです。当時の私としては笑い事じゃなかったはずですが、まあ笑うしかありませんよね。ちなみに私、その直後に裸足で陶器の破片を踏み、足の裏から血を流すというプチ事故を起こし、不運の実績まで積み上げてしまいました。

 それから時は流れ、私は結構な大人になりました。

 友人と一緒にとある公共施設に行った時の話です。するとそこで「いろんな国の文化を学ぼう」みたいなイベントがやっていました。どうやらその施設で毎年やっているようです。イベント会場に行くと、外国の占いをやっているブースを発見します。

 「ちょっと占ってもらいなよ」。なぜか友人は私を占いに差し出しました。占ってくれるのはボランティアのおじさんです。占い自体は簡単で、サイコロのようなものを5個くらい同時に転がし、出た目で運勢が決まるというものでした。

 何となく覚悟してたんですが、やっぱりダメでした。もう様式美のように悪い運勢を引き当てます。おじさんは気を遣ってか「こりゃ良くないな。もう一回やろうか」と言って更に占ってくれますが、案の定、1回目より悪い結果を叩き出します。気まずい雰囲気の中、更に何度か占ってもらううち、ようやく幸運な結果が出て、我々はブースを後にしました。

 実は私、占いで悪い結果が出ると、それが本当に起こるのか、記録を取って慎重に検討していた時期があります。他にも、敢えて週の終わりに「今週の占い」を確認してみたり、偉人の誕生日や名前を使って占い、出てきた結果と実際の人生を比べてみたりもしました。結果はどの占いもかなり外れていました。特に具体的なことを言っているものほど外れている。まあ、当たり前ですよね。「これから悪いことが起きる」と言うよりも「3日後の13時16分に隕石があなたの尻にクリーンヒットして一気に10歳若返ります」と言ったほうが外れやすいに決まってます。もちろん、占いが当たる時もありましたが、お世辞にも未来をバリバリ予測できたとは言えず、偶然当たっただけという反論に耐えられるレベルではありませんでした。

 冒頭でも書きました通り、占いは好きでも嫌いでもないですし、信じるも信じないも個人の自由でいいと思います。それに、占いは楽しい部分も当然あります。占いで気が楽になる人だっているでしょう。お金をたくさん取られるとか、なんかすごい脅されるとか、そういう悪質なものでない限り、楽しくやれればいいと思います。ただ、私の場合はデビューが鮮烈だったので、占いによる不運の宣告とうまく付き合う方法を見つける必要がありました。言い換えれば、宣告に打ち勝つ必要があったわけです。だからこそ、占い結果と事実関係を比べ、宣告に打ち勝ったわけです。

 実は昨年も同じ友人と例の公共施設へ行きました。あの国際色豊かなイベントはやっていませんでした。コロナのため、当面は休止するとのことです。

 確か私は不運の宣告に打ち勝ちました。しかし、ちょっとこれは勝ち過ぎではないでしょうか。早くコロナが落ち着き、イベントが再開できる状況に戻ってもらいたいものです。もう私は不運の宣告でビビったりはしませんから。多分。恐らく。ひょっとして。

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