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思い出の不発弾を抱える旧友

 地元を出て久しいのと、交友関係の狭さが相まって、地元の知り合いとの交流がほとんどなくなってしまいました。それを特に問題視してないからそうなってしまうわけなんですが、一応は地元の情報が入ってくることもあります。それは主に家族からの情報です。

 特に何らかの実績をあげた人の情報は入ってきやすい。例えば、高校生の頃に長距離走で県代表になった女性が近所にいました。その輝かしい成績で当然のように大学の推薦を決め、実業団で活躍したのち、今では長距離走のコーチをしているという話です。

 しかし、彼女は私より3歳年下だったこともあって接点がほとんどなく、唯一の記憶は小学生の頃、ラジオ体操の最中に彼女が泣きながらおしっこを漏らした光景なんです。よりによって何てものを覚えてるんだと思うでしょう。私もそう思います。これから彼女と会う用事なんてありませんが、もしあったとしたらどのツラ下げて会えばいいのかよく分かりません。うっかり「お漏らしのところだけ覚えてます」なんて言った日には最悪、民事裁判に突入です。

 この事例は私が他人の恥を覚えていた話ですが、当然ながら逆のパターンもあると思うんです。つまり、地元の誰かが、私の恥ずかしい思い出を覚えている。何が怖いって、そういう人は大抵、私の顔を見た途端に思い出すわけです。で、ためらいもなく半笑いで「お前そういやあ、あんなことしてたな」なんて言って、私の精神を削りにくるんです。そんな嫌な思い出を不発弾のように抱えているから旧友は恐ろしい。

 いや、事実ならまだいいんです。問題は思い違いや意図的な捏造で、架空の思い出を私の過去として語られた場合です。私はいろんなことを忘れたり勘違いしたりして生きてきた手前、自分の記憶に自信がありません。他人から断言されたら、「あれ、そうだっけ」から「そういやあ、そうだったかも」を経て「そうか、そんなことしてたんだ」まで行くなんて楽勝です。「そう言えば星野君は校舎を真っ二つにして東校舎と西校舎にしてたよね」とか「友達を引きつれて近所の鶏小屋を襲撃して、詳しい内容は控えるけど、次の日の給食がフライドチキンだったよね」とか、ありとあらゆる馬鹿げた過去をでっち上げられるに違いありません。

 同窓会ってそんな怖いとこだったんですね。知りませんでした。

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