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侮れないアリ

 あれは何だったんだという事件に遭遇した経験はありませんか。別に大きな事件でなくてもいいんです。むしろ小さな事件の方が、あとになって振り返って妙に思ったりするものです。

 私が子供の頃、置時計が壊れたんです。何か大きな衝撃を与えたわけではないのに突然動かなくなった。買ったばかりでこれはおかしいということになり、母が時計屋へ持って行ったんです。さすが時計屋、時計はすっかり直って戻って来たんですが、その原因に母は首をかしげていました。「中にアリがたかってたって」。

 私も奇妙に思いました。確かに自宅は田舎ゆえにいろんな生物が日常的に室内へ侵入していて、アリ程度では何もビビらない環境です。しかし、時計にアリがたくさんいるとはどういうことでしょう。別にポテチを食べた手でベタベタ触ったわけでもなければ、時計の中にスナック菓子を押し込んだ記憶もありません。時計屋さんや母が嘘をつくとも思いません。人が考えた嘘にしては突拍子がなさすぎですし。

 とりあえず、時計はもとのところに置かれ、アリを駆除したこともあって、以後はアリが侵入することはありませんでした。ですが、奇妙な理由で壊れた時計の記憶は、あれは何だったんだという感想と共に私の中で留まり続けました。小さな出来事だったんで、数年に1度くらいにポッと思い出して、「あれは何だったんだろうなあ」と思っては再び心の奥底に沈める。それを繰り返して本日までやって参りました。

 検索すればいいじゃん。事件が小さすぎてそんな対処法も思い浮かびませんでした。早速、調べてみましたところ、アッサリと情報が出てきました。

 アリと言えば食べ物にたかるとばかり思い込んでいた私としては目からウロコが落ちた気分でした。アリ的には「お、うまそうなもんあるじゃん」じゃなくて、「お、いい家じゃん」だったんですね。だから特に美味しくもない時計にたかっていたと。

 家の中でさえこれです。道端に放置された時計だの電子レンジだの軽トラックだのは、きっとアリ塚のようになっているんでしょう。何ならそのアリを食べる生物も集まり、ひとつのミニ生態系を作っているに違いない。そうやって朽ちるまで生命を育み続けるのでしょう。

 偉そうなことを書いてしまいましたが、家の中の精密機器がアリの巣になるなんて怖すぎです。室内のアリの動向には意外と注意しなければいけませんね。

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