地獄車プレス機洗濯機
マンションでもアパートでもいいですけど、集合住宅はその名の通り住宅が集合しているものでございますから、住民が集まっているはずなんです。人口密度だってそれなりに高いはずです。
でも、集合住宅で暮らした経験がある方ならご存じの通り、意外とご近所さんに会いません。出かけたり帰宅したりするためにドアを開け閉めしたり共用廊下を歩いたりする時間なんてほんのわずかでございますし、場合によっては一度も家を出なかったり、旅行などで出かけたっきり帰ってこない日があったりする。そりゃあ、ご近所さんと顔を合わせる機会なんて限られるはずです。
理屈ではそうだと分かっていても、あまりにご近所さんと会わないと「このマンションに住んでいるのは自分だけではないのか」と不安になって参ります。たまに住民を見かけると「ああ、やっぱり住んでたんだな」と思うわけですが、またしばらく住民を見ない日が続く。そうなると「このマンションは住民がふたりしかいないのか」と新たな不安を抱くことになります。
それでも、近隣住民の気配を感じ取れる機会はあります。いわゆる生活音というやつです。壁の薄いアパートなんかに住んでいると、ゴトッという物音が壁を通して聞こえたりする。上の階から足音が聞こえてきたり、隣の部屋の声が入ってきたりもします。
今では減りつつありますが、洗濯機を外に置くタイプの集合住宅がございます。どうやら、昔は洗濯機のホースがあまり性能がよくなくて水漏れが多かったため室外に置くタイプの部屋があった。その名残で外置き洗濯機の集合住宅が今でもございます。
洗濯機が外に置いてあるということは、当然ながら使えば音がよく聞こえます。面白いのが、例えば私が洗濯をしようと思い立ちまして洗濯機を作動させると、しばしば同じ集合中宅の他の住民も洗濯機を作動し始めるんです。恐らくなんですが、外から洗濯機の音が聞こえて「あ、俺も洗濯しなきゃ」と思った人がチラホラいたんだと思います。そんな感じで、外起き洗濯機の物件ですと、往々にして洗濯機の音で住民の気配を感じ取ったりします。
ただ、同じ集合住宅に住む人がそれぞれ異なっているように、持っている洗濯機もそれぞれ異なっているんです。最近の洗濯機はもう本当に静かに洗濯をするようになっておりますけれども、昔ながらの洗濯機を使っていると、やっぱり洗濯音は大きい。何なら古くなったせいで、ますますデカい音を立てる洗濯機を使っている人もいらっしゃるようです。
むかし住んでいたアパートには特徴的な音を立てる洗濯機を使っている方がいらっしゃいました。推測するに、洗濯槽を回転させる機構がだいぶくたびれているのでしょう、脱水で洗濯槽をグルグル回す時に、ドタンバタンとものすごい音が聞こえてくるんです。もう地獄車の練習をしているのかと思えるほど、バタバタ音がする。
こんなこともありました。ある日、部屋でのんびりしていると、どこからともなくガシャコーン ガシャコーンと音がするんです。当時は引っ越してきたばかりでしたので、近くにプレス機のある製鉄所でもあるのかと思っていました。でも、近所を歩き回ってもグーグルマップで調べても、製鉄所なんてどこにもない。
そこでガシャコーンと聞こえた時に外へ出て耳を澄ませてみました。明らかに私が住んでいる集合住宅から音が聞こえているんです。当時住んでいた家は外置き洗濯機物件でしたから、すぐにピンときました。これは洗濯機の音だと。その証拠として、音が止まった途端、洗濯機独特の排水音まで聞こえてきました。もう洗濯機で確定です。
問題なのは、ただの洗濯機がどうしてプレス機みたいな音を立てるのかという点です。どんな洗濯機がどう劣化して、もしくはどう壊れかけてプレス機になるのか、全く想像がつかないんです。
自分の洗濯機もプレス機だよという方がいらっしゃいましたら、私の疑問にお答えくだされば幸いです。