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パソコンで漢字を忘れる人、パソコンで漢字を覚える人

 小学生の頃、とにかく漢字の勉強をしなかったんです。別に漢字が嫌いだったわけではありません。しかし、両親や先生から「やれ」と言われまくった結果、もともと希少だったやる気が底をつき、いくら漢字の勉強を宿題で出されようが、漢字テストで悪い点を取りまくろうが、勉強を拒否してきたんです。読書の習慣があれば漢字が頭に入るチャンスがあったんでしょうけれども、読書もまた「やれ」と言われまくった結果、かえって本を遠ざける生活を好むようになりました。

 当然の結果として、私の書く文章はクラスメイトの中でも圧倒的なひらがな率を誇りまして、三者面談でもよく話題に上がっていました。平然としている私と対照的に、恐縮している母の顔を今でもよく覚えています。

 漢字ができなくてもそれなりに進級進学ができるのは教育制度の不思議なところでございますけれども、大学生にもなりますと、さすがにいろいろと知恵がついて参りまして、パソコンや携帯電話といった、いわゆる電子機器を勉強に使い始めるようになったんです。私だけでなく、他の学生も当たり前のように使っていました。

 だからなのか、当時、周囲で「パソコンを使うようになって漢字が書けなくなった」という主張をしばしば耳にしていました。ネットの記事はもちろん、実際にそう言っている知人もいました。

 パソコンが普及していなかった時代は、みんな手書きで文章を書いていました。分からない漢字があれば辞書を引いて確認していた。その結果、みんな様々な漢字が頭の中に入っていて、スラスラと書けるようになっていた。それをパソコンが変えてしまったというのです。

 何しろ、変換すればコンピューターが正しい漢字を出してくれる。正しい字かどうかは、検索すれば簡単に出てくる。漢字を書ける必要性がグッと下がってしまったわけです。必要性が低下した技能は使わなくなりますし、使わなくなれば衰える。せっかく覚えた漢字は忘れてしまうという仕組みです。

 ただでさえ漢字を知らない私が手書きをしなくなれば、残り少ない漢字の知識がゼロに近づいてしまうのではないか。「日」とか「五」とか「犬」とか、そんな簡単な字も書けなくなってしまう日がやってくるのか。そう思っていたんです。でも、実際は逆でした。むしろ、パソコンを使うようになって書ける字が増えたんです。

 どうも今までよっぽど漢字に触れない生活をしていたせいか、パソコンでいろんなサイトを見るようになった結果、以前よりも漢字に触れるようになったみたいなんです。結果として、パソコンを使うようになって、いろんな漢字が書けるようになった。

 よくよく考えれば、みんな手書きだった頃も、私のように書けない漢字をひらがなで済ます人はいたわけで、逆を言えば私のようにパソコンでむしろ漢字に触れた人だっているはずです。

 いつの世もいろんな人がいる。己の不勉強を綺麗な言葉でまとめてみました。

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