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グリーン波平

 いきなり読みづらい単語をぶっこんで申し訳ないのですが、鞭毛べんもうというものがございます。「毛」とついていますが、正確には毛ではなく毛のような形をした物体です。あんまり聞き慣れない言葉なのには訳がありまして、鞭毛を持っているのは細菌のような非常に小さな生物だからです。そもそも「あ、これ鞭毛だ」となる機会がほとんどないわけですね

 鞭毛が我々の想像する毛と大きく異なる特徴として「動く」というものがあります。鞭毛をニョロニョロと動かし、遊泳するんです。

 鞭毛とよく似たものとして繊毛せんもうというものもあります。これまた読みづらい毛ですね。繊毛も毛じゃなくて毛っぽいものです。ちなみに、繊毛は鞭毛と構造が同じなんですが、動きが違うんだそうです。繊毛は平泳ぎみたいな動きをして進むのに対し、鞭毛はバタフライの足みたいな動きをして進むんだそうです。毛みたいなものが平泳ぎみたいな動きをするというのはイメージしづらいかもしれませんが、とりあえずウィキペディアにはそう書いてありました。

 繊毛とか鞭毛とか言われてもよく分からん、とおっしゃる方でも、繊毛と鞭毛を持つ生き物の代表格は聞き覚えがあると思います。繊毛代表はゾウリムシ、そして鞭毛代表はミドリムシでございます。どちらも理科の授業で必ず出てくる、身の回りに生息している小さな生き物です。

 特にミドリムシは小さい割に栄養がギュッと詰まっていることから、近年ではサプリメントやジュース、クッキーなどに使われる、ひとつの食材として注目されています。ただし、伝統的な和名である「ミドリムシ」は食料品の名前としてよろしくないと思われたのか、食べ物に使われる際は学名の「ユーグレナ」が使われているようです。

 ミドリムシの鞭毛は写真だと見にくいですが、イラストだとどんな感じで生えているのかよく分かるように描かれています。

英語版ウィキペディアの「Euglena」より引用

 どれが鞭毛かお分かりいただけるかと存じます。不自然に1本シュルッと飛び出た毛っぽいやつ、それが鞭毛です。ミドリムシはそれをニョロニョロ動かして水の中を移動しているんです。

 鞭毛なんてなかなか日常会話に出る単語ではありませんが、この間、私の友人知人で唯一お笑いの話ができる方、ここでは澤田さんとしておきますけれども、彼女と仕事の空き時間にお笑いの話をしていたんです。ええ、最初はいつものようにお笑いの話をしていたんですが、なぜか話題は激しくそれまくり、気づいたらミドリムシの話をしていたんです。

 話題が激変期を迎えても澤田さんは気にせず話を進めます。

「ミドリムシって鞭毛が尻尾みたいに生えてるじゃないですか」
「でも、あいつら鞭毛の生えてるほうに向かって進むよ」
「は? オタマジャクシみたいに動かしてるんじゃないんですか?」

 そう追及されると私、自信が急激になくなるんです。確かに、尻尾を動かすように鞭毛を使った方がしっくりくるよなあと。早速、スマートフォンで調べ直しました。結果、やはり私の記憶が正しかったようです。

 せっかくだからとミドリムシについてもう少し調べていると、日本語版ウィキペディアの「ミドリムシ」の項目に気になることが書かれていました。

2本の鞭毛を持つが、1本は非常に短く細胞前端の陥入部の中に収まっているため、しばしば単鞭毛であると誤記述される。

 私もちょうど同じ誤解をしていたところでした。あれ1本じゃなかったんですね。確かに、鞭毛が2本描かれているイラストもございました。

日本語版ウィキペディアの「ミドリムシ」より引用

 早速、調査結果を隣の澤田さんに報告すると、彼女はすかさずこう言いました。

「1本かと思いきや、実は他に短い毛がある。波平と一緒ですね」

 波平とはもちろん、国民的漫画「サザエさん」に出てくるあの頭頂部1本毛おじ様です。確かに細かな事情が異なるとはいえ、1本毛が目立つせいでそれ以外の毛が他人の眼中から外れる点は共通しています。

 短時間であまりにいい例えを出されて悔しかったので「noteでネタにしていいっすか」と質問したら、アッサリOKが出ました。せっかく許可をくれた澤田さんのためにも、「ミドリムシは波平である」という間違った知識を一生懸命、世に広めたい所存です。皆様もご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

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