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大人の階段で足踏みしているようです

 よくある常套句のひとつに「最近の若いもんは」というものがあります。噂では古代エジプトがそういうことを書いた文字が残っているとかで、軽く検索するとその手の話がたくさん出てきます。

 よくある常套句ですから、私も子供のころから知っていました。そして、「自分もそんなことを言う大人になるのか、嫌だなあ」と将来を嘆いていました。もちろん、言われた方は嫌な思いをするだろうとの予想は簡単にできましたから、「なるべく言わないように気をつけよう」と思っていました。

 社会人になって4年目だったと記憶しています。1年下の後輩と話をしていたら、今年の新入社員の話になりました。新人の一人がちょっとしたミスをかましてしまったらしく、後輩は苦笑いで言いました。

「最近の新入社員ってちょっとだらしないですね」

 「いや新人はミスするもんでしょ」という面白くも何ともないツッコミは浮かびましたけれども、それより何よりまず思ったんです。「先を越された」と。

 先ほども書きました通り、「最近の若者ってやつは」と言いたいわけじゃないんです。言わずに済むならそのほうがいい。ただ、言うにしたってもうちょっと年齢を重ねてから言うもんだと思ってたんです。もっと髪に白髪が混じって、お腹も丸く飛び出して、やれ肩が痛いだ腰が痛いだ膝が痛いだ言って、そこそこヤバめな病気の三つや四つ持ってるような、どこか悲哀に満ちた中間管理職になって初めて口にする常套句なのだと。それが20代で、しかも後輩の口から聞くだなんて全然想定していませんでした。

 私も後輩に乗っかって中尾彬さんばりの低音おじ様ボイスで「確かにけしからんな最近の若者は」と言えばよかったのかもしれませんが、どう楽観的に見てもスベる未来しか見えませんでしたので、ただただ苦笑いするだけで乗り切りました。なぜか知りませんが、後輩の方が先に出世されてしまったような気分でした。

 まあ、学生時代にも「俺らの代のほうが練習厳しかった」みたいなことを言う人がいましたからね。人は往々にして自分の生きてきた時代を特別視するものですし、それを他の時代と比べてあれこれ言うようになっているんでしょう。そう思い込むことにしました。

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